茶室空間における「居心地」についての研究
人類学的アプローチによる考察
立花 貞親
茶は昔中国から伝わり、その後日本で独特の変化を遂げ、茶道と言う形で千利休により大成され、現在では日本を代表する重要な文化の一つとなっている。その茶道を行なう場としての茶室において、そこを利用する人々は皆その場を、「居心地が良い」「落ち着く」と言うがそれは何により起因するのであろうか。本研究では、人類学的なアプローチにより茶室空間における「居心地」についての新たな要因を見つけ出すことを目的とする。

本研究では茶会における人々の行動が何を意味しているのか、これらの意味世界を理解することを第一の目的とする。その茶会における意味世界を理解するために人類学の劇場性という観点を用いる。そして、茶会における意味世界を理解した上で茶室との関連性を分析することによって、物質面からのみでは見ることの出来ない茶室における居心地の要因を発見する。

普段お茶は、一般的に仕事や何かの作業の合間に一息入れる時に飲む事が多いと言える。茶会においてお茶を飲むという事もこの状況と一致する。茶会はこの状況をより明確かつ具体的にし、それを極限にまで追求したものである。 まず、茶会の一連の流れと行動について見てみる。茶会は席入、懐石、中立ち、濃茶、薄茶、退出の順で行われる。これらの流れの中で人々の取る行動は茶道の作法の中でほぼ決められている。その作法通りの行動は全体として日常からの離脱を意味していると取る事ができる。茶道において日常とは仕事や家事、その他の事で忙しき日々の事を指す。つまり、茶会において人々は日常のない世界、非日常の世界を作り出そうとしているのだ。茶会では日常を完全に断ち切った状態でお茶を飲むことで深い意味で一息を入れる事を目的としている。その茶会において茶室という舞台に立つ亭主と客は作法(台本)に従い、非日常を演じている。つまり、彼らが非日常をうまく演じれば演じるほど、その場が非日常であればあるほど茶会の目的は達成されるのである。

茶室には躙口、床、柱、天井、壁、窓、広さ、このそれぞれに特徴がある。これらの特徴から山の中、自然が連想できる。更に茶会に使われる茶道具を見てみると、その季節にちなんだ道具が必ず使われており、つまり茶室は自然(山中)を表現しているのであり、茶道具により季節感を持たせているのである。日常が仕事やその他の忙しい生活の事であれば、その生活をする場(街、茶道が大成された当時で言えば都)も日常であり、その日常の場から離れた、対を成す場(自然、山中)は非日常といえる。その非日常の場を表現しているのが茶室である。

茶室空間における居心地はその非日常性から起因するものであった。茶会において人々は日常から離れた場で、日常の生活の忙しさや悩みなどを忘れておいしいお茶を飲む事が出来る。その日常が忘れられる空間であるからこそ、居心地が良いと感じるのだ。仕事に追われる忙しき日々、そんな日常の生活に一息を入れるがごとく人々は茶道を行なう。茶道を行なうことによってわずかなひとときながら疎ましき日々を忘れ、また、日常へと帰って行くのである。

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九州芸術工科大学〕 〔環境設計学科卒業計画〕〔クイック アクセス