目次(成恩貞)

論文内容の要旨

 本研究では,冬季における入浴がその後の睡眠に及ぼす影響を検討するために,足浴と入浴との比較,および適切な入浴のタイミングについて述べた。
 第T章では,本研究の背景と目的として,人間が生きている限り不可欠な睡眠の重要性に言及し,この睡眠を妨害する因子について述べた。快適な睡眠を妨げる環境因子としては,温湿度,光,音などが挙げられ,現代人は住居や寝具の改善によって睡眠中に暑さや寒さの影響を受ける場合が少なくなったにもかかわらず,寝室の温湿度が寝つきに大きく影響している場合が意外と多かった。日本の冬季は寒く,寝室の温度も低いが,暖房が行われていないのが現状であり,入眠しにくいことや中途覚醒が多いことなどが指摘された。
 入浴は,身体清潔,保温,疲労の緩和,爽快感の追究などを目的として行なわれ,入浴による生理的影響は,温熱作用,静水圧作用,浮力が挙げられている。就寝前の入浴は精神鎮静,催眠の働きがあり,より良い睡眠への手段として期待される。しかしながら,冬季には高齢者において入浴中の死亡が起きており,特に脳卒中,心筋梗塞の患者には注意が必要とされる。足浴は入浴の代案として利用されている看護介入の手段の一つであり,身体清潔や全身を温め,爽快感を齎して気分を緩めるなど,不眠の援助としても有効な手段であることが知られているが,経験的な評価にとどまっている。
 これまでは,サウナ,運動,入浴による身体加熱が睡眠に及ぼす影響について報告され,入眠の短縮や徐波睡眠の増加などが示された。しかしながら,こうした研究において行なわれた入浴方式は長時間にわたって何回も繰り返したものであり,これらの研究結果が日常の生活において現われる効果であるかどうかは定かではない。そこで,本研究では,できるだけ日常で行なわれる入浴行動を模擬し,実験室での睡眠実験を行なった。
 第T章より,冬季の睡眠前に行なわれる入浴や足浴は,睡眠妨害を減らして,より快適な睡眠が得られると予測された。そこで,第U章では,日常の入浴と足浴がその後の夜間睡眠に及ぼす生理的,心理的影響を検討することを目的とした。この実験に際しては,健康な女性9名を被験者とし,40℃・20分の全身入浴を行なった後の睡眠,42℃・30分間膝下までの足浴を行なった後の睡眠,そして就寝前に温浴を行わない睡眠の三つの条件として実験を行なった。なお,環境条件は日本の冬季の寝温室を想定し,10℃,50%RHとして設定した。その結果,就寝前に行なわれる入浴および足浴によって,入眠潜時の短縮,睡眠初期の体動の減少,入眠時の皮膚温の上昇,主観的睡眠感の向上などが示された。また,入浴条件では全睡眠時間を通じた直腸温の上昇,およびREM睡眠の減少,足浴条件ではstage3の増加が見られた。これらの結果により,冬季における睡眠前に行なわれる入浴や足浴は入眠に効果があり,特に,足浴はREM睡眠の減少が生じなく,睡眠の質を高め,より有効な手段であることが示唆された。
 第U章の結果より,就寝直前に行う入浴は就寝直前に行う足浴よりもREM睡眠の減少などの現象が見られ,直前入浴後の睡眠自身体への負担がかかることが推察された。そこで,第V章では,就寝2時間前に入浴を行なった場合と就寝直前に入浴を行った場合を,入浴無しの場合と比較しながら検討した。なお,入浴無しの場合においては,就寝前に暖房された居間で過ごすような条件で行い,より現実的な実験手順として行なった。即ち,睡眠に対してより効果的な入浴のタイミングを着目して,出来るだけ日常の入浴行動に合わせた上で,冬季の就寝直前に終了させる入浴と就寝2時間前に行う入浴が睡眠に及ぼす影響について検討することを目的とした。その結果,就寝2時間前の入浴によって,徐波睡眠が増加し,入眠潜時および中途覚醒時間が短縮され睡眠効率が高くなり,良い主観的睡眠感が得られた。直前入浴の場合は入浴を行なわない条件よりは体動が少なくなり,良い睡眠感を示したが,REM睡眠の減少や後半睡眠における徐波睡眠の減少などの第U章にも示されたような問題点が示された。そこで,冬季において睡眠前に行う入浴の時期は,就寝2時間前の方が就寝直前よりも良い睡眠を得るために有効であることが示唆された。
 以上の結果により,冬季において,より良い睡眠をとるためには,睡眠直前に全身入浴を行うよりは足浴を行なうほうが有効であり,入浴を行なう場合は就寝直前よりは2時間程前に行うほうがより質の良い睡眠が得られることが示された。そこで,より質の良い睡眠をとるためには,入浴後すぐ寝床に入るよりは入浴後リラックス時間を過ごした上に睡眠に入ることが大切であり,足浴は入浴の代わりに身体的,精神的快適感が安全にまた効果的に得られることから,特に障害者や高齢者,もしくは心臓疾患の患者において睡眠援助の手段として有効であろう。
 本研究は,室内暖房されてない状況を想定して行なわれたが,寝室や浴室が暖房された状況での入浴による睡眠の影響も調べる必要があろう。さらに,全身入浴と足浴の中間形態である半身浴,微温で長時間の入浴,シャワーを行なった後の睡眠についても今後検討の必要があると思われる。