第37回  環境と都市の公共性家木成夫 著都市文化社選書(1997)  戻る

 00年5月23日(火) 18:00〜 (谷先生、岩本、皆川、山口、音西、笹野、朝廣)

はじめに

第一章 人類と環境

1 いま求められる環境保全主義
2 環境破壊・公害と絶対的損失
3 環境と農的視点

第二章 環境と公共性の経済学

1 環境と経済学
2 公共性の経済学
3 社会的共通資本としての環境
4 社会的な制度(または制度資本)としての金融・教育制度

第三章 国家と環境の公共性

1 国家の機能・役割
2 都市と環境の公共性
3 アメニティと環境の公共性


Niki

第一章    人類と環境(P12〜41)

1.    いま求められる環境保全主義(P12〜21)
 ◇新たな方向―循環型と地域型
  ■環境保全に対する国際的合意と現実
   ストックホルム国連人間環境会議(1972年)からリオデジャネイロ地球サミッ   
   ト(1992年)へと環境悪化による危機に対する認識は高まった
        ⇔しかし、実際には越境型の環境汚染はさらに進行した ex.酸性雨など
             なぜか?
            新自由主義的思想に基づく貿易や投資の自由化等の政策 
                    → 多国籍企業の発展 
                    → 地球的規模での開発戦略 
                    → 環境破壊の進行
■    今後求められる社会像
    高度成長期以後に発生した環境破壊型社会システム 
                   → オールターナティブな社会発展

@    循環型社会システム
A地域主義的社会制度の構築が求められる

循環型社会システム(@)の構築→エネルギー多消費型生活様式の見直しが必要
     ← 利便性の重視(アメリカ的個人主義的発想)& 企業指向的発想が妨げ 

地域主義的社会制度(A)が必要

【地域主義的社会制度】
  地域社会的発想 ⇒ 企業国家的住民ではなく地域社会的住民として地域の生活            
            や自治に積極的に関わってゆく 
          ⇒ 居住生活地域の環境問題に真剣に取り組む
    ※企業社会の一員であるより地域社会の一員であるという意識

◇    外来型開発から内発的発展へ
■    環境問題の根本的要因
・    先進国の工業化
発展途上国に対するODAによる多国籍企業の開発  ⇒ 公害輸出
                         原因は?
                        ・公害防止費用が節約される
                        ・素材供給型産業が多い

■    先進国と後進国の関係
・     後進国は先進国にみられた社会的損失を回避する対策を立てることができる
先進国は社会的損失の現象を明らかにし、後進国などでの再発防止につとめる責務がある。―――例えば、自動車の使用に伴う様々な社会的損失

■    内発的発展と外来型開発
途上国の環境対策は多国籍企業の意志とは無関係に内発的発展政策の方向で考えられるべきである。
外来型開発は産業連関などの効果が小さく、社会的損失だけが残ることが多い
―――例えば、1960年代の企業誘致など

2.    環境破壊・公害と絶対的損失
◇    自然の価値と生物的生存環境
■    環境とは何か
・     環境の定義は無数に存在するが、それは環境そのものが常に変化していることを意味する
・     環境とは、人類・人間のみならず生物全体の生存のための基本的条件である
■    好ましい環境とは
・     非都市地域と都市地域のどちらが人間あるいは生物にとって好ましいか?
・     人間よりも生物にとって好ましい環境を選ぶ必要がある
■    自然の価値
・     商品経済の考え方では、絶対的価値を持つ自然環境は交換価値を持たないタダ同然のものとみなされる
・     しかし、生物の生存条件の最も基本的なものであり、最高の社会的使用価値をもつ
◇    国家・企業の環境・公害認識
■    環境破壊が絶えない理由
「環境汚染によるコストはない」と考えられていた時代は終わり、環境の限界的価値の高さが認識されるようになった。
⇔環境破壊は絶えない
  <理由> ・企業や国家は環境破壊を社会的損失であると認識できていない
        ・市民が地域社会の一員であるというより、企業の一員であると       
            いう意識が強い企業社会である
■    水俣病の例
・     当初、チッソ・国ともに排水い起源説を認めず、国の認定は公式発見から12年後であった。
  →・企業意識の強い地域であった
      ・民主主義・基本的人権が確立していない地域社会であった
■    絶対的損失
人間の肉体的な不可逆的損傷のように、回復が得られないような損失には絶対的損失という用語を用いるのが適切である。
  ■経済成長という公共性
西淀川訴訟・国道43号線訴訟で国・公団が敗訴
→公共性(経済成長)の名のものとに社会的損失(住民の健康被害)がもたらされるとき、そのような公共性は正当化されない
 
3.    環境と農的視点
◇    戦後日本の農業切り捨て政策
農村の疲弊 → 都市への人口流入 → 都市の人口爆発(=都市問題=環境問題=地球環境問題)
        ⇒農村の崩壊は環境に決定的な打撃を与える
■農の営み
・農業は人間的、社会的、自然的、文化的にすぐれた活動である。(農の営み)
・したがって、経済的、産業的範疇からみるのは誤りであり、農的環境の喪失の方向を生み出す
■農業の自由化=農業の切り捨て
 ・農産物は自由化できない ← 農業自体が自由化できない 
← 農業は地理的条件に大きな影響を受ける・工業製品と比べて生産性上昇率が低い
 ・農業の自由化 → 「農の営み」としての本質を切り崩す ・・・→ 環境に打撃
       ・・・ しかし、政府はウルグアイ・ラウンドにてコメ自由化を決定
■    自由化決定の背景
国民の農業に対する認識の誤り(工業の方が農業より上等である)
← 農業の魅力低下 ← 工業化、都市化の進展・農業を一般的な工業と同様に扱おうとする農業政策(機械化、大農場化)

※しかし、戦後日本の高度経済成長は農業・農村の破壊を犠牲にした工業の急成長によるものである。
 
◇    農業・食料安定化の意義
■    新食糧法
目的
 コメの流通、販売の自由化を認める → 農村に市場経済を浸透させる
しかし、
 ・主食であるコメは生存条件であり市場経済の枠の中で議論できない
 ・食糧の安定供給、自然環境の保全、農の保全については疑問である。
■    農的環境保全の意味
・環境破壊企業に就職するより、就農するほうが社会貢献できるのではないだろうか?
   ・農業の喪失は食糧の喪失であり、農村の喪失は環境の喪失である。
   ・環境保全と食糧安全保障の観点から農業の保全に努めるべきである。

読書会メモ

 


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