第43回  ローマ・クラブ「人類の危機」レポート 成長の限界 The Limits to Growth 、
D.H.メドウズ/D.L.メドウズ/J.ラーンダズ/W.W.ベアランズ三世  著、大来佐武郎訳、ダイヤモンド社(1972)
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 00年10月3日(火) 18:00〜 (谷先生、皆川、山口、中村、仁木、音西、笹野、朝廣)

序章 序論

T 幾何級数的成長の性質
U 幾何級数的成長の限界
V 世界システムにおける成長


レジメ Asahiro

序論
ウ・タント国連事務総長の指摘 1969年
    10年以内に世界的協力による進展を進めること。(軍拡競争、環境悪化、人口爆発、経済停滞)
    人間社会の存続さえも、協力の速度と有効性にかかっている。
    しかし、積極的関心をはらっているのは、世界のごく一部の人々に過ぎない。

人間の視野(図1)
     空間−時間軸の関係の中、多くの人の関心は地理的に身近で、数日以内のことに払われている。
    その人々の生活は苦しく、自分と家族に日々の食料を確保するために多くの努力を確保せねばならない。
    一方、遠い将来、遠く離れた場所の問題を考える人の関心は、自身だけでなく共同体へと及ぶ。
    個人の時間的ならびに空間的視野は、文化、過去の経験、直面する問題の緊要性に依存する。
    したがって、時間的・空間的スケールが大きくなるほど、問題の解決に関心を持つ人は少なくなる。
    あまりに狭い視野は、失望や危機を招くことがある。(農地管理―国際紛争、地方計画―国土計画)
    事務総長の指摘は、個人的・国家的目的が、長期的・世界的傾向により阻害されるかもしれない。
    ローマ・クラブの「人類の危機に関するプロジェクト」の第一段階の研究は、残された期間、行方、解決の方法、方策を実施した場合の結果と費用などの問題を扱っている。これらの関心は、空間=時間グラフの右上に位置している。

問題とモデル
    モデルとは、問題に接近するために、複雑なシステムに関する仮定を秩序立てて集めたものである。
    土地・資産・市場・模型・地図・数学的予測モデルなど。
    多様な世界のある側面を一般的に理解しようと試みるものである。
    政策決定者は、将来の政策を選択するために、無意識の中に観念的なモデルを使用している。
    観念的なモデルは、抽象化される現実と比べれば、非常に単純化されており、情報は十分でない。
    私達のモデルは、定式化された世界モデルであり、長期的・世界的な問題に関する私達の観念モデルを改善しようとする暫定的な取り組みなのです。これは、計算機処理により行われました。
    モデルの五つの焦点:工業化、人口増加、栄養不足、天然資源の枯渇、環境の悪化
    モデルの時間スケール:10-100年単位の動向情報を用い、100年先の将来の理解に挑戦
    モデルは当然のことながら単純で不完全である。しかし、30年以上の射程を持つ現在最も有用なモデルである。このモデルの利点は二つあり、一つは、全ての仮定は厳密に記述されており、人々の吟味と批判を受けることができる。二つ目は改良されたモデルは、世界の動向に対して厳密な計算処理を続けられる。
    例え、モデルが暫定でも、今、発表することに重要な意味がある。現時点であらゆる場所で行われている政策決定は、将来の物理的、社会的、経済的状況に影響を及ぼすものであり、モデルの完成を待つことはできない。政策決定は観念でも記述モデルでもなんらかのモデルに基づき行われるが、本モデルは政策決定者の役に立つ程度の十分開発されていると思われる。私達の観察した行動様式は、基本的なものであり、我々の結論の大筋が大きく変わるとは思われない。

本書の目的
    本書の目的は、データと数学的モデルの完全かつ科学的な記述ではなく、むしろ、モデルの主要な特徴と、我々の見出したことを簡潔かつ非技術的な形で要約することにある。モデルの発するメッセージは、加速度的な趨勢の原因と帰結に対する理解を助けてくれるであろう。この、科学的領域を超えた問題の提起は、より広い世界における議論の端緒を開くことをも目的としている。

これまでの結論
    @     世界人口、工業化、汚染、食糧生産、および資源の使用の成長率がこのまま続くならば、100年以内に地球上の成長は限界に達し、その結末は制御不可能な減少に突然陥る。
    A     こうした成長の趨勢を変更し、持続的な生態的・経済的安定性を打ち立てることは可能である。この全体的な均衡状態は、人々への平等な物質および権利の配分がなされるよう設計されなければならない。
    B     世界中の人々がAへの取り組みを決断するならば、行動の開始が早いほど成功する機会は大きい。
    本書の結論は、巨大な仕事量を示唆しているが、多くの人々の関心が、時間的・空間的に拡大し、転換期から均衡した成長へと、理解が進むよう刺激剤となることを願うものである。

幾何級数的成長の性質
    研究の基礎である五つの要素:人口、食糧生産、工業化、汚染、および再生不可能な天然資源の消費は増大しつつあり、毎年の増加量は、幾何級数的成長と呼ぶパターンに従っている。

幾何級数的成長の数字
    幾何級数的成長:ある量が、一定期間に、その総量に対して一定の割合で増加する場合
    全体の累積量が増加するにつれ連続的に増加する成長。生物、金融、及び世界のシステムに共通の過程
    Ex. 細胞分裂、7%の複利積み立て、チェス版と米粒
    この増加には二つの側面があり、その一つは、非常に急速に莫大な数を生み出すので、人を欺くこと。
    もう一つの側面は、一定の限界に急速に近づくため、人々がその危機の接近に気がつきにくいこと。
    Ex. 毎日2倍になる睡蓮と池。
    この性質は、倍増期間(doubling time) 表1、すなわち二倍の大きさに量が増加する期間により示される。

モデルと幾何級数的成長
    異なった量が同時に成長し、かつ複雑な形で相互に関連している場合、ダイナミックな現象となる。また、成長の原因やシステムの将来の予測は非常に困難になる。Ex. 工業化と人口増加のどちらが先か?
    この問題を解く鍵は、複雑なシステム全体をよりよく理解することを通じて見出すことができる。
    MITで開発された方法論:System Dynamics
    正のフィードバック・ループ(positive feedback loop) →ますます増加する一連の相互変化
    → このループを探すことで、長期的な世界の状況の動態的な分析をはじめられる。Ex. 工業化―人口

世界人口の増加
    世界の急速な人口増は、幾何級数的成長だけではなく、その成長率も増加している。
    負のフィードバック・ループ(negative feedback loop) →成長の抑制による相互安定への一連の変化
    Ex. 平均死亡率         正と負のループによって支配される人口動態は、複雑な動きをする。
    世界人口における近年の超幾何級数的な増加の原因は、近代医学、公衆衛生技術、および食糧の生産と配分の新しい方法の拡大による、死亡率の低下にある。
    現在の結論:2000年になる前に、人口成長曲線が水平になる可能性は全くない。約70億人を予想

世界の経済成長   
    人口よりも、はるかに急速に世界的に増加している第二の量は、工業生産である。(図6)
    生産過程による資本財(紡績機、製鋼所、旋盤等)の充実 = 資本ストックの増加 → 再投資
    資本財を維持するための消費拡大 = 正のループ     資本財の償却 = 負のループ
    経済成長による世界の人々の物質的な生活の質の向上は、富の平等な分配がなされているという暗黙の仮定を含んでいる。しかし、図7に示された個々の国一人当たりの経済成長率を見てみると、成長の大部分は工業化された諸国で生じている。
    ∴ 「富める者はますます富を得るが、貧しい者は子どもを得る」という状況を表2「経済成長率と人口増加率」が示している。
    表3に示す、単純外挿によ2000年のGNP値はおそらく実現されないであろう。しかし、各国の貧富の差を容赦なく拡大し続けるであろうことを、一般的方向性として示している。
    将来の人口と工業資本の成長率を現実的に推測するためには、人口=資本システムの要因について、多くのことを知らなければならない。

読書会メモ

 


asahiro@kyushu-id.ac.jp