第59回 都市計画 利権の構図を超えて、五十嵐敬喜、小川明雄著、岩波新書(1993)  戻る

 01年7月3日(火) 18:00〜 (谷先生、田上先生、山口、笹野、平松、朝廣)

序章 すすむ町や自然の破壊

第一章 都市計画のしくみ


レジメ Asahiro

序章 すすむ町や自然の破壊
・ 都市計画法で指定されているようと地位に絡む問題は、住環境や個人の人生設計に影響を及ぼしている深刻な問題を引き起こしている。
事例:目黒区自由通り
・1989年、目黒区自由通り沿道約2.5km、幅20m、
    用途         第一種住居専用地域      →    第二種住居専用地域
    高さ制限        10m             →     なし
    建ぺい率        50%             →     60%
    容積率        100%             →     200%
・ この変更により、次のような問題が生じてきた。
  ― 地価の高騰:2倍以上の高さの建築が可能になった。
  ― 事前の1980年代前半に、中曽根康弘首相の「都市再開発」号令を受けて、建設省が用途地域や容積率のアップを指示する一連の通達を出していたため、沿道不動産の買収や地上げがはじまっていた。
  ― 地価の高騰は相続税の急上昇を招き、個人所有者は土地を手放さざるを得ず、不動産業者の手に渡った。
  ― 個人住宅を維持するのは不可能となり、マンションによる住環境の悪化が顕著になった。
― 住環境の悪化とは、日照の減少、眺望の阻害、隣接建築との狭隘な空間。

事例:古都の変貌
・  1990年代、京都ホテルとJR西日本の京都駅の改築問題。「古都・京都の景観が破壊される」
・   京都の誇り:町のどこにいても東山をはじめとする三山が望めること。
・  京都ホテル
高さ        31m8階建て    →     60m17階建て
「総合設計制度」の高さ・容積率の規制緩和を利用
1992年、京都市は改築計画を承認。京都府も追認。
― 京都中心にある寺町からよく見える東山が、京都ホテルにさえぎられてしまう。
・   総合設計制度とは、わずかな公共施設を提供すれば、大きなビルが建築できる制度。(通称:打出のこづち)
・  京都駅
規模                 →     高さ59.8m、幅478m
「特定街区制度」、一定の条件を満たせば用途地域の規制を大幅に緩和する制度を利用
− 中心地の強大な壁の出現が、景観的に南北に分断してしまう。
― 駅の延べ床面積は建物の5%に満たず、民間のホテルとデパートの為に、景観を台無しにして良いのか。
− 国際コンペ時の高さ制限は31mにも関わらず、全ての作品が規制を2倍以上超えた。専門家の倫理は?
− 京都府、京都市の出資するコンペ主催者が、法を破ることを前提とした改築に関わる立場に疑問。
― 1980年代後半からの、洛中のすさまじい値上げ。「特定街区制度」や「区画整理法」を事前に見こむ
− 古都の寺院の集中している上京区、中京区、下京区の町屋及び町並みの破壊。
− 人口の減少(上京区:1965年;12万人 → 1992年;8万人)、小中学校の統廃合
・   これらの根本的な問題の所在は、次のような理由である
− 都市計画法の各種規制が極めて甘く設定されている。
(ex.町屋を中心とした職住近接の理想的な町のほとんどが、商業地域に指定されている。)

事例:リゾートブーム
・    1980年代後半、新潟県湯沢町
人口9千5百人の町に、1992年末までに10〜20階の中高層マンションが51棟も建設。
「市街化調整区域」、もしくは「白地区域」に建設
― 苗場、岩原のスキー上ゲレンデは、山の斜面への滑降から、高層マンション群への滑降へ
― 冬のスキーシーズンでも、明かりの灯らないマンションが半数近く。
― 外部資本による建設が、住む意思のない企業や個人の投資の対象に過ぎなかった。 
・   都市計画法でいう市街化を抑止すべき「市街化調整区域」、もしくは「白地区域」は、容積率が400%まで認められており、行政は、適法であるため、建築確認申請の拒否を行えなかった。
・   本来、ごみ処理や自然・景観保全の観点から、自然に恵まれた地域では建築物の規制は住宅地より厳しくあるべきだが、現法体系では、商業地域なみの甘い規制しかかけられておらず、リゾート投機の餌食になったのは、ある意味当然だった。

第一章    都市計画のしくみ

「母なる法」
・   都市法の中核である「都市計画法」は、私達市民の生活と人生に極めて密接な関係がある。
・   「都市計画法」は、「国土総合開発法」「国土利用計画法」等の全国的、総合的な法律のもとに位置付けられる。
・   地域地区制度:「建築基準法」や「都市緑地保全法」など、土地の利用をコントロール。
・   市街地開発事業制度:「土地区画整理法」や「都市再開発法」など、開発事業を促進
・   その他、促進区域制度、都市施設制度、地区計画制度などがある。
・   都市計画法は、全て「許認可」というルールでくくられ、土地、住宅、都市に関する中心的な法律である。
・   日本の都市環境が、西欧諸国と比べ国民の生活レベルで遅れをとっているのは、都市計画法の仕組みとその運用に致命的な欠陥があることを示している。これらの問題を解決するには、法を変えなければならない。
・  1888(明治21)年の東京市区改正条例が、日本の都市計画法のはじまりである。百年の歴史の中で、七章九十七条からなる現在の条文に至るまでに、一括して流れている、四つの特徴を見ることができる。
@ 絶対的土地所有権     A 線・色・数値による都市計画         B 国家主導
C メニューの追加方式

絶対的所有権
・   憲法 第二十九条「財産権は、これを侵してはならない」
・   憲法 第二十九条二項「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」
・   民法 第二百六条「所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為ス権利ヲ有スル」
・   民法 第二百七条「土地ノ所有権ハ法令ノ制限内ニ於テ其土地ノ上下ニ及フ」
・   土地を所有する個人も法人も、その土地を天空から地下まで、原則としてどのように利用しても自由(絶対的土地所有権)となっている。ただし、自由な土地の利用は、法律によって制限されることがあるという仕組みになっている。
・   しかし、日本の都市計画の歴史は、規制緩和の歴史であり、バブルの崩壊と共に、都市計画の失敗が、国民一人ひとり、あるいは日本経済全体にあたえた打撃は計り知れない。
― 家賃の高騰、長い通勤時間、長い住宅ローンと教育費の重圧による少子化、夢となった「生活大国」
・  1990年に土地基本法の改正が行われた「公共の福祉」が盛り込まれたが、これは理念を示した宣言法であり、京都駅の事例にみるように、「公共の福祉」という言葉が曲者である。

線・色・数値
・   都市計画法の指定内容は、市町村の発行する都市計画総括図に示されている。
・  線:     都市計画区域 都市計画法が適用される地域。それ以外の山林や原野は都市計画区域外
都市計画区域内は、次の3区域に指定分けされている。
市街化区域           都市開発の促進されるべき地域、広義の都市
市街化調整区域      都市開発の抑制されるべき地域、主として農村
白地区域           両区域のいずれにも指定されておらず、農村、山林、原野に三区分される。
・   これらの線引きの変更は、従来、都市化、都市成長の時代であったため、公共事業の促進面から要望されることが多かった。
・   日本の都市計画の欠陥の一つに、規制の網をかけるべき都市計画区域が狭いことが指摘できる。
全国3778万haの内、都市計画区域2.4割。(1984年現在)
都市計画区域920万haの内、市街化区域1.4割、白地区域4.5割(1984年現在)
・   新潟県湯沢町のリゾート開発は、こうした線引き事情による。多くの欧米諸国では、都市計画区域は広くとられ、自然保護を徹底するようになっているのとは対照的である。
・  色:市街化区域は、次の八色(1993年の改正後、13色)に塗り分けられ、用途地域指定がなされている。
緑色     第一種住居専用地域         薄緑色     第二種住居専用地域
黄色    住居地域             ピンク     近隣商業地域
赤    商業地域             薄い青色     準工業地域
青色    工業地域
・   用途地域指定の特徴は、規制が甘いこと、帯状の指定が多用されることである。本来の都市計画であれば、他国のように、用途地域の指定は「面」を基本とすべきである。住宅地なら、住宅地として広い面積を指定し、周辺の道路沿いも含めて住環境を守っていく。日本の都市計画は高いビルを建てることに熱心で、住宅は二の次になっている。
・   他、地区制度として「特別用途地区」、「高度利用地区」、「特定街区」、「美観地区」などがあり、それぞれの土地利用形態を保護し、促進することとなっている。建築天国を許すのは、前二つである。
・   数値:用途地域ごとには、建築基準法により「容積率、建ぺい率、外壁の後退距離、絶対的高さ制限、斜線制限、日影規制、敷地規模規制の下限」が数字で示され、個々の建築物のボリュームや形を決めている。
・   用途地域の変更による「容積率」の緩和は、高い建物が建てられ、人生設計の夢が実現できるという意味で、陳情が繰り返されている。しかし、変更したとしても様々な規制から、大きな敷地を持つわずかな地主か、外部デベロッパーしかその利益を享受できないのが現状で、議員や、有力者の裏で暗躍している。
・   不動産業者や建築業者の間で「地上げ」が頻繁に使われるのは、高すぎる容積率のせいである。欧米の都市計画では、土地の用途を厳格に決め、容積率も低く押さえてある。住環境を守り、地価を低く抑え安定させることにより、年収の数年分で住宅が手に入り、豊かな生活を保証しているのである。日本では、都市計画の目的や常識を無視して、用途地域も容積率も緩和、緩和の連続で見直しをする点に異常さがあるのである。個人商店や個人住宅の豊かな生活環境を守るには、過剰な容積率を引き下げ、地下を引き下げる必要がある。

計れない価値
・   日本の都市計画の重大な欠陥は、規制の甘さのほかに、数値でとらえられない多様な価値が社会にあることを無視している点にある。京都を事例にすれば、京都市の進める開発優先、企業優先の政策が、歴史と文化の中で育んできた人類の財産を永遠に失う恐れがあるのである。
・   町の歴史、景観は、一人ひとりの思い出に結びついており、だからこそ、故郷であり「我が町」なのである。日当たりがよく、緑が多く、静かな環境であれば、それは良い町である。こうした生きている町のあり方を無視して、金儲けの為に都市計画法を操り、町を変え、隣人が去るという悲劇を、いつまで繰り返すのであろうか。

国家高権
・   日本の都市計画決定は、「原則として市町村が行う」とされているが、「承認」と「認可」により、国がコントロールしている。細目についても建設省の通達という形をとっている。
・   市民に対しては、「知らしむべからず」という姿勢になりがちで、住民は重要な変更に気がつかない。

構造汚職
・   「御上」からのコントロールを補強しているのが「補助金」である。都市計画の開発メニューの多くの事業には「補助金」がセットで用意してあり、自治体の陳情や、政界、財界、官僚の癒着が繰り広げられる。
メニューの追加方式
・   日本の都市計画法は、新しいメニューを加える手法で制定されてきており、関連法規は膨大になり、複雑さを増している。そのため、都市計画制度及び補助金制度の全体を理解できる人は、ほとんどいなくなった。
・   この状況は、市民の理解と参加を遠ざけ、霞ヶ関による自治体に対するコントロールを強める道具となった。これは、情報の公開と国民の理解を前提とする民主主義社会に危険ですらあるのである。

君臨する霞ヶ関
・   最近、多くの自治体で「まちづくり」を大きな公約に掲げる首長が増えたが、法律的には霞ヶ関がイニシアチブを握っており、彼らの公約は「空手形」といえる。
・   国の地方に対する委任事務制度は、首長や議員の裁量を「サジ加減」程度に制約しているのである。
・   住民に対しては、都市計画決定事項は「公聴会」を開催し、「意見書」の提出を求めることとされているが、都市計画法十六条第一項「都道府県知事又は市町村は…必要があると認めるときは」である。意見書についても、都市計画審議会に対し、報告するだけでよい。それにより、決定内容が変わることはないのである。また、審議会は、専門的な見地から公正に審査する役目を担っているが、諮問修正の権限はなく、自動的に承認する機関になっているのが現状である。
・   これらのことは、システムとして住民の参加を締め出しているといって差し支えないのである。

 

asahiro@kyushu-id.ac.jp