第19回  環境税とは何か石 弘光 著岩波新書(1999.2.22)  戻る

 99年4月13日(火) 18:00〜 (古賀先生、岩本、皆川、山口、中村、朝廣)

第1章 現代の環境問題 −いまなぜ環境税か
 1.環境汚染の多様化・グローバル化
 2.地球温暖化とその対策 −国際的取り組み
 3.気候変動枠組み条約と京都会議
 4.日本の取り組み

第2章 これまでの環境政策とその限界 −直接規制と自主的取り組み
 1.政府介入による規制と補助金
 2.企業の自主的取り組みとその限界
 3.家計のライフスタイルを変更できるか

第3章 環境政策と経済的手段 −環境税の理論的基礎
 1.外部効果としての環境汚染
 2.経済的手段とその選択
 3.バッズ課税・グッズ減税

第4章 環境税のデザイン
 1.新税か既存税制か
 2.炭素税及び炭素・エネルギー税
 3.実施上の諸問題
 4.炭素税の実態 −北欧諸国とオランダ

第5章 環境税の経済効果と今後の課題
 1.所得配分と税負担
 2.経済成長・国際競争力に与える影響
 3.炭素税の選択枝とその評価
 4.炭素税導入に向けて


以下、レジメ 

Nakamura

第1章 現代の環境問題

T.環境汚染の多様化・グローバル化
a.1960年代後半からの環境問題…戦後の高度経済成長→「産業公害」/水俣病/イタイイタイ病/
    四日市ゼンソク…加害者は企業、被害者は地域住民
b.1980年代以降の環境問題…大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システム
→時間的・空間的広がりを持つ環境問題
→生活排水/騒音/排気ガス/産業廃棄物の量の増大…企業も国民も加害者の立場
   →国民は環境問題解決のために費用を負担する義務がある
              →環境税の検討が必要
c.環境汚染のグローバル化…国境を越えボーダーレスに発生、将来世代も含めた
人類の生活基盤が脅かされる
              →オゾン層の破壊(CFCによる)/酸性雨(NOx、SOxによる)/砂漠化/
熱帯林の減少/海洋汚染/地球温暖化

U.地球温暖化とその対策
1995年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第二次評価報告書
         …1990年から2100年までの地球の平均気温は2.5度上昇
(CO2濃度の増加等により予測)
→人類存続の基盤が失われる可能性(p9)
1972年、国連人間環境会議(ストックホルム)
1970年代からOECD(先進29カ国が加盟する経済協力開発機構)の環境政策
…1972年「汚染者負担の原則」(PPP)を確立

→環境問題の構造変化に伴い、旧来の規制的手法による環境汚染対策では
対処しきれなくなってきた

V.気候変動枠組み条約と京都会議
  地球温暖化問題の特徴
a.
地球温暖化を引き起こす原因物質は、直ちに人体に影響を与えるものではない。被害者は将来世代。
b. 主たる原因のCO2は、特定の産業から排出されるものではない。
c. 時間を経て空間的に拡大するので、現世代の間に危機意識は生まれにくい。
→従来の政府介入による規制に代わるものとして、市場の価格メカニズムを活用する形の経済手 
段が重要視される。このため環境税が注目される。

1992.06
地球サミット「気候変動枠組み条約」…大気中の温室効果ガス濃度を安定化させる
1995.03 第一回締約国会議 COP1(ベルリン)
1996.07 第二回締約国会議 COP2(ジュネーヴ)
1997.12 第三回締約国会議 COP3(京都)

…6種の温室効果ガスについて、その安定化のための数値目標と目標期間の設定

W.日本の取り組み
  1960年代 産業公害
1967年 「公害対策基本法」
1972年 「自然環境保全法」
この2つの法律の目的が従来の産業公害型の環境問題を念頭に置いているため、新しい環境問題には対処しきれない。

1990.10 「地球温暖化防止行動計画」温室効果ガスの排出量の安定化が主な目的
1993.11.19 「環境基本法」
第22条 「環境の保全上の支障を防止するための経済的措置」
経済的負担、そして市場メカニズムを通じて環境負荷を低減しようとする考え
→環境税の構想
1996.03 「地球温暖化対策の進め方についてのアンケート調査」
        ・生活水準をある程度引き下げるのもやむなしとする意見が支持されている

・一方でCO2の排出源になっていることに考えがあまり及んでいない
→経済的負担を肯定する国民意識は高まっている

Yamaguchi Hiroko
第2章 これまでの環境政策とその限界

1. 政府介入による規制と補助金

○ 直接規制の長短
経済的手段と比較したときの短所
・ 個々の企業や家計の情報不足による、非効率。
・ 政府と企業間に癒着が生まれる危険性。
・ 汚染者が規制された汚染レヴェルまでしか削減しなくなる。
・ 政府に税収入をもたらさない。
汚染の種類によっては直接規制で十分対応できる。
→税制との活用と直接規制をケースごとに使い分けるべきである。
直接規制を実効的にするには、違反が生じたときの罰則とその施行体制(摘発体制を含む)を
制度化しなければならない。

○ 補助金
現在の日本でとられている「経済的手段」→補助金
・ 政府が事業者に経済的助成を施す措置→国際的には是認されていない。
・ 「環境保全のモノ」に対する税負担の軽減

○ 補助金とPPP
補助金の欠点
・ OECD諸国で採用しているPPP原則に反する。
※ PPP原則(polluters' pays principle):「汚染者負担原則」p.45
汚染者に公的便益を供与することは、社会的公平に合致しないし、このために別途の財源も
必要となる。
・ 特定産業の保護につながりやすい。

2. 企業の自主取り組みとその限界

○ 経済界の取り組み
経団連の動き
・37業種の参画による「環境自主行動計画」の策定(1997年6月)
→温暖化対策について、企業の自主的取り組みの成果を挙げそうなのは21/37にすぎない。
・ 経済界は温暖化対策を企業の自主的取り組みを中心に進めようとしており、また、政府に対
して、この自主的取り組みの支援、奨励も期待している。
→環境税への反発
主な理由: 新たな税負担による経済成長の伸び悩みや、企業の国際競争力が低下するという懸
念。

○ 自主的取り組みへの限界
CO2排出量削減に関して、企業の自主的取り組みの効果に対する疑問
・ 供給サイドしか抑制できず、需要サイドの抑制ができない。
・ 非協力的な企業もかなり存在する。家計の排出するCO2を抑える手段がない。
・ 自主的取り組みを実効的にするには、直接規制と同様に、罰則を課す必要がある。

3. 家計のライフスタイルを変更できるか

○ 国民生活と環境負荷
CO2排出量増加→家計が大きく加担している。(大量生産・大量消費・大量廃棄型のライフス
タイルによる)
家計でのCO2排出量増加の要因
・ 物質的な生活水準の向上
・ エネルギー使用効率の低い単独世帯の増加。
・ 電気製品の多機能化、大容量化、24時間使用の増加、機器のパーソナル化による消費電力の
増加。
・ モータリゼーションの進展による、自動車の利用増、商業立地の郊外化、ジャスト・イン・
タイムの配送方式の増加。

○ 家計におけるCO2排出対策
・現在の政府の施策: 情報提供、普及・啓発・環境教育
→家計の自主的取り組みに任せられている。
・家計での資源使用の節約には、コスト意識を持たせることがポイントとなる。(p.68、図
2.5のアンケート)

■ まとめ
企業や家計双方の自主的取り組みの意義・効果を認めるものの、それだけで今日求められてい
るCO2排出抑制は困難であろう。

Asahiro
第3章 環境政策と経済的手段 -環境税の理論的基礎

1. 外部効果としての環境汚染

■市場の失敗
資本主義経済下における、限られた資源を最も有効に配分する機能 
−「市場の価格メカニズム」
−財、サービス、生産要素(資本や労働)など、市場の需要と供給関係
    生産物価格or生産要素価格がその媒介をする。
P(家計がつける価格)=MC(企業が生産を行う場合の限界費用)
    上式が成立するとき、理想的な資源の効率的配分が達成される。「パレート最適」
最適配分がなされない用件
    ・ 市場が競争的でなく独占的状況である場合
    ・ 市場を経由しない経済活動について価格付けを行えない現象
        −外部効果(external effects)、外部経済(external economy)、
−外部不経済 (external diseconomy)と言う。
外部効果は公共財、費用逓減産業のケースと並んで、「市場の失敗」(market failure)
    ・プラスの外部効果=外部経済
        −不特定多数に広く提供される外部便益(教育、保健、医療等)
    ・マイナスの外部効果=外部不経済
        −市場の価格・費用関係に反映しない外部費用を発生させる(公害等)

■ 外部費用とその内部化−ピグー的課税
生産過程で汚染を引き起こしながら生産活動を行っている場合(p75、図3.2)
環境汚染費用EC=外部費用、これは通常無視され、私的限界費用PMCに含まれない。
    需要曲線Dとの交点Aで市場均衡が成立し、産出量q1、価格p1が成立
    −企業は自己の指摘費用しか考慮に入れておらず社会的に望ましくない。
    −より低い費用水準での生産活動は、産出量を増大させる。
PMC+ECで社会限界費用SMCと外部費用を「内部化」した場合
    市場均衡点は移動し、産出量q2は削減され、価格p2は上昇する。
    −過大生産は抑制され社会的に見て最適な産出量水準が実現する。
    −製品の価格上昇は、その一部が消費者の負担増となって表れる。
消費者はメリットを失うが、環境汚染という外部費用を、市場の中で如何なる手段により「内部化」を達成するのかが問題である。
    −当事者間での相互の交渉(コーズの定理)or 何らかの公的介入が必要。
公的介入の代表的な手段
    −環境汚染物質の排出量一単位当たりに租税tを賦課すること。
        −「ピグー的課税」といわれる伝統的な租税手段(環境税の原型)
他の手段として、直接規制、補助金、排出権取引、等があるが、利害得失がある。

△ABCの分、消費者及び生産者の余剰が失われるが、△ABCより大きい環境汚染費用E1が削減される。E1は社会全体としての環境改善となる公共財的性格のもので、私的な厚生ロスの発生を上回るだけの便益を、社会にもたらしていると考えるべきであろう。

依然残された環境汚染費用E2についての考え方
    ・ 自然の浄化作用を重視するなら、社会として容認し得る汚染量と考える。
    ・ 環境汚染費用を高く評価し社会限界費用も上昇させる。(倒産の可能性あり)
    ・ ピグー的課税による税収(T)を環境汚染対策として目的税化する。

■ 環境汚染のコントロール
環境汚染の最適なコントロール水準    (p78、図3.3)
−限界削減費用(MAC-marginal abatement cost)=
限界損害費用(MDC-marginal damage cost)
最適コントロール水準Eを実現し得る二つの選択的手段、
政府の規制か、市場メカニズムによる手段。
−しかし企業にとって、直接規制に対し租税手段はより多くの対価支払いが必要。
直接規制により汚染主体に追加的負担を免除するか、課税によって環境資源利用の対価を支払わせることのどちらが、社会的公平に合致するのかが問われる。

■ ボーモル=オーツの接近方法
環境汚染の生み出す外部費用の内部化には、その費用を数量的に把握しなければならないが、 情報入手の精度が上がったとはいえ、諸費用の具体的な数量化は困難である。
ボーモル=オーツの価格設定・基準化の設定方法 (W.J. Baumol and W.E. oates, 1971)
    現実的な目標を設定→課税→見直し→課税→.....目標の達成まで繰り返す。
    プロセスを繰り返すことにより、市場からの適切なシグナルを得て基準化する。

2.経済的手段とその選択
■ OECDによる経済的手段
経済的手段とは:規制によらない市場メカニズムの積極的な活用。
OECDは一貫して、環境政策にあたって市場メカニズムの重要性を強調してきた。
    OECDによる経済的手段
@ 税・課徴金、A補助金、B排出権取引(tradeable permits)、Cデポジット制
@−(1)排出税(emission taxes) or 排出課徴金(emission charges)
−(2)使用者税(user taxes) or 使用者課徴金(user charges)
−(3)生産物税(product taxes) or 生産物課徴金(product charges)
従来は直接規制が重視されていたが、近年は経済的手段が広く用いられている。(p86 表3.1)

■ 税・課徴金と「二重の配当」
環境政策にあって、もっとも代表的な手段が税・課徴金であるが、後者が圧倒的に利用されるケースが多い。
・ 課徴金は特定の環境汚染の処理と結び付き、その収入を特定財源として確保しやすい。
・ 租税手段が重視される理由
    第1:直接規制と比較して、汚染削減費用を細小にできるメリットを持つ。
    第2:汚染コントロールに関し、技術を開発させるインセンティヴを与える。
租税を経済的手段として用いると、環境税の「二重の配当」(double dividend)と言う現象が招来される。何を二重と勘定するかの解釈には混乱もあるが、次のようになる。
環境税は環境に対する賦課を低減させる狙いのほか、税収により税制の歪みを是正する。

■ 補助金の限界
・国際的なルールとしてのPPPに反すること
・国際競争上「隠れた産業保護」として望ましくないこと
・補助金を具体的にいかなる基準に基づいて決定するかの問題があること
・汚染主体は税負担を強いられないどころか補助金を受け、これは別途財源がいる

■ 排出権取引の役割
汚染物質の排出許容量を、まず総枠として決定し、ここと汚染主体毎に一定の排出する権利を割り当て、市場において取引を認めるもの。
問題点: 初期の排出権の配分の合理的公平性、排出量のモニタリング、市場の透明性

■ デポジット制度の概要
製品本来の価格にデポジット(預り金)を上乗せして販売し、不要になった使用後の製品が所定の場所に戻された際、デポジットが返却される仕組み。
市場メカニズムを活用しようとする狙いは二つ
    一つ:再生可能な資源を回収するための経済的インセンティヴを消費者に与える。
    二つ:野外へのゴミの散乱等、環境汚染の原因を除去しようとする。

3.バッズ課税・グッズ課税
■ 環境税の類型化
租税手段を環境税として用いるときに二つのタイプがある。
一つ:実績排出量課税 −排出量の測定に基づき単位当たりの租税を決定。
二つ:間接税 −測定値に対する明示的な課税を、間接的に代替しようとするもの。

■ リンケージの問題
リンケージ(linkage) −課税ベースと環境汚染のつながり
リンケージが弱いと、環境税は汚染削減に望ましいインパクトを与えないどころか、かえって生産及び消費活動に不必要な歪みを生じかねない。
間接税タイプの環境税をデザインするとき、課税ベースとして価格より数量の方がよりよいリンケージが確保される。

■ バッズ課税の実態
環境政策としての税制活用に留意すべきこと。
一つ:租税手段のうち、第二の間接税タイプの環境税がより現実的である。
二つ:環境を汚染するバッズ(bads−マイナスの財)に課税もしくは他の財より重課し、環境改善に資するグッズ(goods)には非課税とするかもしくは軽課する。

Iwamoto

第4章 環境税のデザイン -炭素税導入をめぐって

■新税か既存税制か
新税:特定の環境目標を達成すべく導入され,明確に「環境税」として認知されているもの
既存税制の活用:当初は環境上の理由から導入されたものではないが,環境に対し何らかの影響をもつため,その後環境政策の観点から増減税が考えられるもの

環境税を現行税制との対応で考えた際に,生まれる3つのカテゴリー
01. 環境政策目的のため,既存税収を部分的に振り替える.  主として,道路財源として徴収されている既存の自動車燃料税を始め,他のエネルギー源も含め,その 一部を新たに環境税として課税する  メリット:国民の税負担を増加させない
02. 既存税制の中で,非エネルギー関連の財・サービスに対する課税に着目する. 自動車に対する付加価値税,売上税などを活用etc...
03. 炭素税に代表される独立した名称が付与される新しい環境税の導入. 

新税として炭素税が導入された場合,いかなるメカニズムを通じて,地球温暖化をもたらすCO2排出量を削減しうるのか?
炭素を含む化石燃料の価格上昇
→環境保全意識の向上・エネルギー消費の多い製品の相対価格上昇・省エネ技術の進歩...
→CO2排出源の使用料の減少
→CO2排出量自体が削減現在の所,石油燃料の必要度は高く,炭素税を導入してもエネルギー消費の抑制効果は小さいのでは,という批判もある.しかし炭素税によるエネルギー価格の上昇は,長期的にみれば,エネルギー技術の開発,新エネルギー開発を進展させ,価格弾圧力性の値も高めるものと考えられる.

炭素税と既存税制の活用
現在日本の税制には,炭素含有量を対象とした炭素税は存在しない.しかし化石燃料によるエネルギーに対する課税は,実質上,炭素に対する課税であり,インプリシット(暗黙に課されている)な炭素税と言うことができる.こうした制度は世界中で見られ,この既存税制の組み替えによる炭素に対する実質的な税負担の余地は十分にある(グリーン税制改革・税制のグリーン化).

・既存税制の中で,環境税へと転換可能なもの
 自動車燃料および自動車に対する租税
 その他エネルギー製品に対する租税
 財・サービスに対する個別消費税

・既存税制の一部を環境税として使用するために
 石油および自動車関連諸税の使用目的の転換.道路特定財源(道路工事目的)→環境目的
 付加価値税(消費税)の引き上げ.
 自動車燃料の有鉛,無鉛等の違いを考慮した差別税率の実施.

・既存税制全体の環境目的からの見直し
 e.g. 自動車関連税制のグリーン化
   自動車の重量や総排気量による課税
   →消費者が自動車を購入する際,低燃料車を選択するように,低燃料車の自動車所得税の税制を低くする.逆に高燃費車は税率を高くする.
    自動車税の算定に当たり,総排気量区分でなく燃費効率を考慮した区分に改め,低燃費車への誘導を図る.
    定額課税に当たり,クリーンエネルギー車,低公害車,低燃費車を優遇し,その普及促進をはかる.売上税,付加価値税,個別消費税などの活用

■炭素税および炭素・エネルギー税 -日本に関するケース・スタディ

なぜ,炭素・エネルギー税か?
炭素税の1つの欠点は,原子力発電によるエネルギーを課税ベースに含みえないことである.炭素税が導入された際,原子力発電が不課税のままでは,原子力発電が相対的に有利になり,炭素税は原発促進税となってしまう.これを避けるため炭素含有量のみならず,エネルギー発熱量をも加えた炭素・エネルギー税を考案するのも,環境税としての一つの発想といえよう.

EC時代に出された炭素・エネルギー税導入に関する指令案
01. 課税の対象 再生可能なエネルギーを除く,化石燃料,水力,原子力などのすべてのエネルギー源,た  だし,原料として使用されるものを除く.
02. 課税ベースと税率 課税ベースとして炭素分とエネルギー分のおのおの50%ずつが採用される.
03. 税収の使途 税収中立が原則とされ,税収は他の組織の減税に充当される.但しその処理の仕方は,各  国政府に委ねる.
04. 減免借置 EU域内の企業に国際競争力を維持させるため,エネルギー集約産業に対し,エネルギー費に  応じて段階的に減免借置がとられる.
05. 導入の条件 他のOECD諸国が同じような租税あるいは同様の影響をもつ借置を導入することが,炭  素・エネルギー税実施の条件である.

既存税制におけるインプリシットな炭素税は,環境保全,地球温暖化防止に役立っているか?
 税収の大部分が道路特定財源に充当されているため,地球温暖化対策としてのCO2削減目的とは無関係. CO2排出量に対し,税率は全く無関係に設定されている.また石炭のように課税の対象とされていないも のもあり,環境保全目的の炭素税とはいえない.

新しい炭素税のデザイン -新税として,炭素税,炭素・エネルギー税を導入する場合
目的 CO2排出量の削減 + エネルギーの効率的利用の促進
前提
 課税の対象は,化石燃料 + 水力発電,原子力発電
   課税ベースは,エネルギー源の炭素含有量を50%,発熱量を50%とする2つの部分から構成       課税段階 輸入段階と消費段階の2カ所のいずれかで賦課
   税率のレベル 原油換算1バレル当たり10ドル
結果(重要点) p138表4.4
 多額の税収 課税段階の違いによる差
  輸入段階で税収の大部分は原油と石炭を対象に徴収できる.課税段階を輸入段階に置くならば,徴税コストが最小で,最も効率的な税務執行が可能.それに対して,消費段階での課税になると,その対象範囲が拡大し,徴税コストが大幅に上昇する.
  原子力への課税
  炭素税による原発促進を防ぐためには,消費段階における課税が推奨されるべきである.そうなれば,原子力に対する税負担は,他のエネルギー源を利用した際と比べても同じ程度の負担となる.

■実施上の諸問題

税収の中立性
環境税により徴収された税収を,別途他の租税の減税にあて,税収全体の水準を一定にする(税収の中立性)を維持すべきか否か.
 ・環境税の目的税化の是非
  家計・企業に対する負担を所得税・法人税の減税によって軽減するという方法は,国民の支持を得るという政治的理由からしばしば正当化される.しかし税収の目的税化は,現在問題となっている道路特定財源としての揮発油税と同様に,始めは重要な特定の財源を賄うために,うまく機能したとしても,次第に本来必要な財政上のニーズから経費水準が決定されるのではなく,自動的に造出される税収によって,不必要になった経費でさえ継続的に増加する状況になることが予想される.
 ・環境対策費そのものを,いかなる手段で調達すべきか
 もし環境対策費の財源として,ある特定の租税を用いるとするなら,その支出からの便益が納税者の税負担コストと明白に結びついていなければならない.これが環境税にも適用しうるかどうかが議論の分かれ目となっているが,例えば,地球温暖化が防止される便益は,国民全体に広く拡散する純公共財的なものであるとすれば,一般的な租税でその財源を調達することも正当化され,炭素税の目的税化は必ずしも必要ではなくなるかもしれない.

■炭素税の実態 -北欧諸国とオランダ p150-151 表4.5

フィンランド
個別消費税としてのエネルギー税と調整後,炭素税を賦課
課税対象 化石燃料全般
課税目的 CO2排出量削減のための燃料消費の抑制.省エネ投資の促進.低炭素集約型製品への代替促進
税収の使途 一般財政としての取り扱い.基本的には所得税減税に充当 

ノルウェー
既存のエネルギー税に賦課
課税対象 石油燃料,石炭,コークス
課税目的 CO2排出量削減
税収の使途 一般財政としての取り扱い.基本的には所得税減税に充当 

スウェーデン
包括的な財政改革の一環として導入.既存のエネルギー税の税率削減と同時にエネルギー消費に対する付加価値税を導入
課税対象 化石燃料全般
課税目的 CO2排出量削減のための燃料消費の抑制.
税収の使途 一般財政としての取り扱い.基本的には所得税減税に充当 

デンマーク
既存のエネルギー税に賦課.(ガソリン,天然ガスにはこれまでのエネルギー税を賦課)
課税対象 軽油,重油,ディーゼル,LPG,石炭,石油/ガス残留物

オランダ
古くからある環境税を発展させた形
炭素税
課税対象 化石燃料全般z
課税目的 CO2排出量削減のための燃料消費の抑制.
税収の使途 一般財政としての取り扱い.  
規制税
課税対象 一般家庭ならびに小規模エネルギー消費者の電力消費,暖房に使われる天然ガス,軽油,重油,LPGに対する追加的な炭素税
課税目的 CO2排出量削減のための燃料消費の抑制.
税収の使途 一般財政としての取り扱い.

 

asahiro@kyushu-id.ac.jp