第16回 地球環境報告U石 弘之岩波新書(1998.12.21)  戻る

 99年2月23日(火) 18:00〜 (皆川、岩本、太田、山口、朝廣)

第一章 地球破壊の構図
  1. 共有地の悲劇  2. 悪化する天然資源  3. 「進歩」の代償

第二章 地球の森が消える
  1. 煙害の震源地  2. 宝くじ売りの村で  3. 地球が燃えた年

第三章 干上がる地球
  1. 流れが途絶えた黄河  2. アラル海が消えていく  3. 始まった水飢饉

第四章 水浸しの地球
  1. 森林枯渇のツケ  2. 恒例の大洪水  3. 増える洪水

第五章 辺境に迫る危機
  1. 死に急ぐインディオの若者  2. 大豆ブームで奪われる生活  3. 環境悪化と先住民

第六章 追われる生き物たち
  1. 沈黙の春  2. カエルが消えていく  3. 種の大量絶滅時代

第七章 壊滅する熱帯の海
  1. サンゴ礁の死滅  2. エビとマングローブ  3. 沿岸の危機

第八章
  1. やせ細る氷河  2. 南極棚氷の大崩壊  3. 北極圏の温暖化

第九章
  1. 環境破壊と国家崩壊  2. 最初の人口戦争  3. 環境悪化と政治・経済の破綻

第十章
  1. どこへ向かう地球  2.先伸ばしの限界  3. 将来への希望


以下、レジメ 

iwamoto

第5章 辺境に迫る危機
 世界の先住民族のあいだで若者の自殺が相次いで起こっている.自殺を図る若者たちにその理由を聞いてもはっきりしない.それは彼らにも理解できない,ただ漠然とした失望感なのである.しかし彼らの住む居住区を訪れ,その変化と現状を目の当たりにすることで,その理由を理解することができる.
 インディオの居住地が指定された当初,居住地の周辺には広大な森林が残っており,そこで彼らは自分たちの伝統的な生活を営むことができた.しかし開発が進み,森林の面積は減り,さらに人口の増加もあって,狩猟だけでは生きていくことができなくなる.そこで彼らは近隣の都市に出稼ぎに出るが,彼らには白人の嫌う,低賃金の仕事しかまわってこない.それまでは自給自足で自由な生活を営んできたインディオの部族は,その国の社会の最底辺に組み込まれることになったのだ.
 一度その国の社会的構図の中に位置づけられてしまうと,それまで伝統的に受け継がれてきた知恵は既存の社会の中では重要性を持たないことが明らかになる.彼らの中の豊かさの基準や幸福の価値観も,生活に貨幣が媒介してくることで転換されてしまう.もはやインディオとしてのプライドも,個人の尊厳も持てなくされてしまうのである.
 世界の先住民族は,既存の社会から,保護という名目で排除され,固有の生活習慣も,近代的な生活も,どちらも営めないまま社会の最底辺におかれている.開発の進行とそれによってもたらされた人々の豊かな生活は,環境の悪化を産み出すばかりでなく,それによる先住民族の固有の生活様式の崩壊を通して人々の精神を荒廃させ,若者の将来に対する漠然とした絶望感からくる自殺を促しているのである.

6章 追われる生き物たち

渡り鳥の減少
 繁殖地の喪失:湿地の埋め立て,森林破壊(開発による森林の分断,面積の減少...)
  生息地の自然破壊
 経由地の自然破壊:干潟(渡り鳥の国際空港)の開発,森林破壊
 越冬地における自然破壊:開発,農作物の品種改良

カエルの減少,絶滅,奇形の多発
その理由は明らかではないが,カエルの個体数の減少や奇形の多発における共通点は,それが自然環境が著しく破壊された地域だけでなく,浄化の進む河川や自然環境保護区(特に比較的高地)で多発していることである.理由として,オゾン層の破壊による紫外線の増加,酸性雨,農薬汚染といったことが考えられているが,はっきりしたことは分かっていない状況である.

種の大量絶滅時代
 生息地の破壊:未知の生物が多い熱帯林や,閉ざされた環境のためその地域に固有の種が多い島において も,開発や農薬汚染による生息地面積の減少,環境の悪化による生物種の減少が報告されている.

乱獲
 環境ホルモン:繁殖機能がおかされ,種の存続が危うくされている.地球上では多種の生物が,他の生物との相互作用を保ちつつ,土,水,空気といった自然的要素と一緒になって,様々な生態系を形成している.そのため,環境の破壊とそれによる特定の種の絶滅は,その生物との関係の中で生息可能だった,他の多くの生物を同時に絶滅させることになる.→「生物多様性」の保護

Yamaguchi
第7章 壊滅する熱帯の海
1. サンゴ礁の死滅
・米国の世界資源研究所の報告『危機に瀕するサンゴ礁』(1998年6月)
◆危機の程度
世界のサンゴ礁25万5300平方キロのうち、27%がすでに絶滅またはその寸前。
「高程度」「中程度」の危機をあわせると58%。
※ 1993年調査より危機状態のサンゴが約2割増えている。
アジアできわだって破壊が進んでいる。フィリピン85%、インド68%、インドネシア50%で絶滅またはその寸前。
◆ その原因
1. 破壊的漁法を含む「過剰開発」 :36%
※破壊的漁法
「毒物の使用」 :目的の魚にプラスチック容器にいれた青酸化合物をまき、マヒして浮き上 がってくる魚を捕獲、毒を抜いてから売る。
→青酸化合物により、褐虫藻が死に、その結果栄養を絶たれたサンゴが死ぬ。
「ハッパ漁」 :瓶に白色火薬や自家製火薬を詰め、海底で爆発させ、その衝撃で浮いてきた 魚を捕獲する。
→ボトル1本分の火薬の爆発により、半径10mほどのサンゴが死滅。
・サンゴ礁でとれる活魚は年間2万5千トン、約10億ドル相当が市場で出回っている(95年)
→網や1本釣りでは活魚ブーム需要に応じられない現実。海洋資源の枯渇。
これらの漁法は禁止されているが、海は広く、監視が難しい。取り締まりの当局者に対す る賄賂の横行。→保護が進んでいない。
2.「陸上からの汚染と流入土砂」 :22%
3.都市下水流入などの「海洋汚染」 :12%
4.サンゴの「白化」 :色素を失い、弱って死滅する現象。
・エルニーニョ、地球温暖化による海水温上昇によって引き起こされていると考えられている。
→サンゴは二酸化炭素を炭酸カルシウムの形で大量に固定している。→死滅は温暖化へ。
2.えびとマングローブ
◆マングローブ林の減少
・世界資源研究所(WRI)、国連環境計画(UNEP)の調査。
インドネシア(世界最大の保有国)45%、タイ87%、インド85%、フィリピン80%、バングラデシ ュ73%、マレーシア32%が消滅。

◆ 消滅の原因 :エビ養殖の大規模化による。
伝統的養殖方式 :水田との裏作方式。
集中方式(1970年後半) :マングローブ林を掘り養殖池をつくり、餌を与えて育てる。
※ 問題点 :過密な養殖によってエビに病気が流行。→養殖池を使い捨て、新しい養殖池を開発する。
エビの餌用の魚粉 :世界で毎年100万トンを越える。9割以上がアジアで消費。
魚粉の需要拡大によって地域住民の食料魚が減少。
◆ エビ市場
・養殖池1ヘクタールあたり年1万2千ドルの売り上げ。→地元漁民にとって大きな収入。
・最近10年で、生産量が4倍以上の伸び(最盛期94年)。主要生産国(世界の9割をアジアが生産) :タイ、インドネシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン
・日本のエビ輸入量(1997年) :世界の輸入総量の4分の1以上を独占。
◆ マングローブ林の破壊による被害
1. 地元住民の生活資源としての木材不足。(日本は木炭として大量輸入)
2. 生態系の破壊(マングローブ林は豊かな生態系。漁民の食料資源の枯渇)
3. 沿岸保護機能が失われる。(サイクロンの被害拡大、内陸での塩害)
◆ 保護対策
・大きく遅れている。
・政府はマングローブ伐採を禁止するが、エビ養殖場の造成を奨励。

第8章 極地圏の異変
1. やせ細る氷河
旧ソ連内の天山、アルタイ、コーカサス山脈 :408ヶ所の氷河のうち85%がここ45年間に後退。
ペルー・アンデス :氷河の後退速度、体積の縮小速度が倍増。
「来世紀までには、世界の」山岳氷河の半数から3分の1は消滅する」
・アルプス・アンデスなどで、局地的な水不足。
・海面上昇の大きな原因である。
2. 南極棚氷の大崩壊
「棚氷」 :積もった雪が固まり(氷床)、標高の高いところから海へ向かって流れ、海岸から庇のように張り出した部分。
◆ 人工衛星による、棚氷の監視によってわかったこと
・南極半島の棚氷の9ヶ所中6ヶ所が、近年に縮小。
→原因は急激な極地の温暖化。(半島の平均気温はこの50年間で2.2〜2.5度上昇。)
・過去の鯨の捕獲地点の調査結果 :ここ50年間で海氷は緯度にして2.8度の後退。→海氷の25%が減少。
◆ 野生生物に影響
・アデリーペンギンの個体数減少。
・イネ科植物の発見。
3. 北極圏の温暖化
◆ 北極圏の気温変化
・米国海洋大気局(NOAA)の発表(1997年)
1840年以来、1.5度上昇。(全地球平均の上昇温度よりも2倍以上の上昇。)
・ヒエンソウやキンポウゲなどの特産種が減少
◆アラスカでの被害
・「米国地球変動研究計画」の発表
アラスカでは、過去30年間、10年ごとに1度の気温上昇。
・温暖化で永久凍土(ツンドラ)が融けて地盤が緩み、道路陥没の被害。
・針葉樹が急にふとりはじめる。
・トナカイの移動ルートの変化、個体数の減少。
※その他、シベリア、イルクーツク、レナ川河口などでもさまざまな異変が続いている。
◆ 地球の平均気温の上昇
・過去600年間で、90年代がもっとも高温。(p.176参照)
・90年代は、世界的に異常気象が増えている。
地中海周辺の干ばつ、英国の渇水、ポーランド・チェコの大洪水など。
・「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の1995年の報告
「人為的な影響による地球温暖化がすでに起こりつつある」ことを確認。
「現状のまま放置すれば、2100年には、平均気温が約2度、海面は約50cm
上昇する」という予測。

Asahiro

第9章 環境破壊と国家崩壊

1 荒廃するルワンダの自然

1940年 「ルワンダはアフリカのスイス」森林、湖沼、山岳の景勝地
近年 山頂まで開墾された山、侵食の跡
原因- 人口爆発 212万人(1950) 611万人(1985)833万人(1995)内戦直前

結果- 農耕地面積 2.0ha/一世帯(1960) 0.7ha/一世帯(1990) 人口の大移動
無理な開墾
傾斜地での土壌侵食
都市への人口流入
1万人弱(1950) 24万人(1994)

都市機能のマヒ、断続的干ばつ、食料の慢性的不足、貨幣切り下げ、 インフレ、絶対的貧困、フツ族(農耕民)とツチ族(遊牧民)の対立。
1993年の戦闘による更なる環境悪化、国立公園への難民流入
カゲラ国立公園:ツチ族の放牧(100万頭)25ha5ha
1996
年の人口増加率:79

2 最初の人口戦争

中米エルサルバドルの荒廃
2%の大地主が60%の土地を支配、5%の農地に半数の農民が集中 →
森林率(現在約6%)の減少、国土の四分の三の深刻な土壌侵食。
70年代から「ハンバーガー・コネクション」→ 123万頭(1994)国土の三割
「経済難民」、「サッカー戦争」→「死の部隊」、

3 環境悪化と政治・経済の破綻

構図:人口急増 → 環境的欠乏 → 内戦や周辺国との紛争
環境的欠乏:再生可能資源(自然資源)の急激な枯渇化や希少化
環境的欠乏の発生理由

@人口増加に伴う資源の需要増
A 社会的混乱に伴う資源の供給不足
B 資源の社会的分配の不平等性

環境的欠乏の引き起こす社会的影響
@農業生産の低下 A地域経済の崩壊
B人口移動 C政治・権力機構と社会構造の崩壊

そして、貧弱な生態系、社会的対立、組織的暴力が紛争や内戦の引き金を引く。

環境容量の限られた国(小国、山岳国、島国)の環境悪化は、短時間に破局に向かう。21世紀には、環境破綻による紛争がますます増えるであろう。

環境問題の政治性、「環境安全保障」、「地球安全保障」などの言葉

「人間安全保障」:生活環境、食料、健康、住居、教育、雇用の確保

第10章 将来の選択

1 どこへ向かう地球

将来人口推計の誤差:微妙なもので、人間の努力や能力で変わる。
例:197097年 穀物生産量17倍、食肉生産量22倍、漁獲量16倍 →
世界の栄養不足人口は1割り減少

この成功の影で失ったものは?
2倍の化学肥料使用料、15倍の灌漑面積による生産性の向上、増産
農地の増産、酷使、劣化、「砂漠化」(500ha以上/年)

今後30年間に、食料供給に必要な土地は二億ha
しかし、農業用に開発可能な土地は9300ha(多くは国立公園や生物保護区)

21世紀は、「食糧生産」か「環境保護」かという対立の激化。
食糧生産が優先されるが、再生可能資源が犠牲にされ、一時的成功である。

2 先伸ばしの限界

多くの環境対策が提唱されるが、成功例は少ない。本気で取り組む緊張感の欠如
例:二酸化炭素排出に関する取り決め、先進国の想像力不足

「危機感の欠如が対策への怠慢を生み出している」

欲求優先の行動原理が既得権となり手放されることもない。
筆者の考える「先伸ばし」の限界は、2020年頃が一つのやま場。
生産や人間生活を支える水、森林、土壌、水産資源がもちそうもない。

3 将来への希望

環境問題の解決策:人間の活動を地球のもつ環境容量以内に押さえ込むこと。
今後の地球環境対策のシナリオは二つ

一つ:破局的な危機に直面してからのハードランディング

二つ:長期の国家的ビジョンを形成するソフトランディング

 

 

asahiro@kyushu-id.ac.jp