第15回 生きのびるためのデザインヴィクター・パパネック晶文社(1974.8.15)  戻る

 99年2月9日(火) 18:00〜 (古賀先生、皆川、岩本、太田、山口、朝廣)

第二部 デザイン、その可能性

7. わけのある反乱
8. 努力もしないでデザインに成功する法
9. 知識の木-生体工学
10. 人目をひくようなはでな浪費 - デザインと環境
11. ネオン・ブラックボード
12. 生き残りのためのデザインとデザインによる生き残り


以下、レジメ 

(岩本)
 7.わけのある反乱 

創造性対同調性現在のデザインとデザイナーを取り巻く諸問題

1.広告,マス・メディア,マス・プロダクション,オートメーションなどによってたえることなく現代社会に加えられてきた個人主義の抑制と同調性の増大への圧力とともに,問題を意想外の新しい方法で解く能力はますます減少してきている.
2.急速に進展しながら複雑化の度合いをいちじるしく増大しつつある社会においては,デザイナーはますます多くの問題に直面するようになっており,それらの問題は根本的な新しい洞察によってはじめて解決されることとなるだろう.
3.デザイン学生は,若干の実用的な知識,多くの手わざ,ある種の美的感覚などを身につけて卒業することとなるのであるが,根本的な洞察力を修得する方法についてはほとんど教えられていない.
4.かれらは,知覚,文化,連想,情動などの面での阻害のために,新しい問題を解くことが出来ない.これらの阻害は,同調性或いはいわゆる「適応」に向けてたえず早くなっていく競争が生みだした直接の結果にほかならない.
5.この競争は本当のデザイン創造によって有害であるばかりでなく,まさに人類の存続の可能性をも侵害するものである.
6.さまざまな阻害は性来人間に備わっている性質ではない.それは,むしろ教えられたものであり,制限的ないし抑制的要素である.創造性とは...同調性に対抗する意味での創造性とは,「誰にも感づかれたことのないような諸問題を「発見」し,それを明確にし,解決しようと試みること」であり,デザインにおける創造性を教育する主な「方法」は,「新しいアプローチがさかんに生まれてくるような環境をつくってやること」である.
8.努力もしないでデザインに成功する法 責任あるデザインの新しい目標大恐慌の初期に生まれたインダストリアル・デザインは,生産コストを引き下げ,商品を使いやすくし,機能上の要求に従いながら,製品の外観を改良して,不況下の市場において売り上げを増大していこうとする一つの仕組みであり,時代における明確な役割を担っていた.しかしデザインが当たり前のものとして世の中に氾濫するようになると,デザインはその当初の意義を失い,多くの無駄な製品を世に排出する結果となっている.

本当の現実的な問題とは...

1.マス・プロダクションの神話 デザイナーはあたかも自分が万人のためにデザインしているかのように,自分がデザインしたものが多くの人々の手に渡って愛用されているかのように思いがちであるが,実際のところマス・プロダクションといっても個々の製品の生産量は限られており,それを手に入れることができるのはほんの一部の人々なのである. 
2.廃棄化の神話:使い捨て型の商品が広まるにつれ,人々の消費に火がつき経済は永遠に回り続けるという考え方は単なる神話であり,実際は人々はそうたびたび商品を買い換えることはない.また古き良きデザインを守り続けて商品を作り続けたり,商品に永久保証を付けることで売り上げを伸ばしている企業もある.
3.公衆の「欲求」の神話: 
4.デザイナーに権限はないという神話:商品の失敗は,それの売り方に問題があり,デザイナーには責任がないとする考え方があるが,それは商品を産み出す過程に参加し,多大な影響力を持つデザイナーの責任を抜きには考えられない.
5. 「質はもう問題ではないのだ」という神話:消費者が商品の質ではなく,価格を重視するという考え方は,しかし実際には多少高価でも質の高い商品の人気が依然高いことからも誤りであるといえる.デザイナーは上のような神話に惑わされがちであるが,実際デザイナーの仕事は自分が思う以上に社会的に大きな影響を持っており,その点から考えても,単に人間の欲求,あるいは人為的につくり出された欲求ではなく,人間の必要のためにデザインすることの意味を理解し,国内のマーケットという小さな対象に縛られず,より多くの,世界の人々についても考慮しながらデザインすること,質やマス・プロダクションの問題について考えることが必要である.

デザインの可能性とは...

1.低開発地域のためのデザイン:世界中には,未だに不便な環境での生活を強いられている人々が多くいる.そういった人々のために,使いやすく,安価で,自国で容易に生産できる製品を提供することは意義がある.しかし例えば,道路のない地域を走るオフ・ロード車のように,必要とはされていても,需要が広まれば大きな環境問題を産み出すようなものもある.デザイナーはどのような商品を,どのようにして,あるいはどのようなタイミングで開発するかという所にまで責任を追っている.
2.心身障害者のための教育,訓練用器具のデザイン:心身障害者のためのデザインに関わるデザイナーは未だに少なく,そのレベルは非常に低い.また価格をみても,一般に流通している商品がどんどん安価になっていくのにもかかわらず,障害者向けの商品は非常に高価である.
3.内科,外科,歯科用器具及び病院用設備のデザイン
4.実験研究用器具のデザイン
5.極限状態のもとでの人間生活を支えるためのシステムズ・デザイン:全体環境のシステムズ・デザインの必要性.
6.画期的な着想のデザイン:これまでのデザインに付加的に何かを付け足し,まるで新しいものであるかのように売り出すのではなく,商品の基本的な機能を見直し,環境問題等を重視した発想が必要がある.

(皆川)

9 知識の木-----生体工学 生物学的原型の人工系デザインへの適用 

 ■この章の基本原理

1,いつかデザイナー=プランナーが問題のあらゆるパラメーターに精通できるようになる日まで、生産品や環境のデザインは学際的なチームによって成し遂げられなければならない。

2,生物学、生体工学、およびもろもろの関連領域
  :デザイナーが創造的な新しい洞察力をもつのに役立つ広い分野を開く

3,社会環境、心理学的環境、都市景観などとの関わりなしに生産品自体をデザインするべきではない。それゆえ、デザイナーは、生体工学自体を利用するばかりでなく、生態学や動物行動学の分野から引き出された植物学的システムズ・デザインの方法を用いてアナロジー(類比)の道を見いださなければならない。

 ■諸分野を貫くデザイン・チームの必要性

 インダストリアル・デザイナー、環境デザイナー
   →他の分野との橋渡しの役割を担う(他にその役割を担えるものがいない)

 あらゆる分野の教育:垂直的な専門化を深めていく

 デザイナーの教育 :水平に諸分野を貫通する仕方で行われている

  ■生体工学の導入:デザインを全体のつながりでとらえる

生体工学の定義:自然の中にある基本的な原理を研究し、そうした原理とプロセスを人間の諸要求に適用していくこと、部分と部分との関係やもろもろのシステムの存在などを追求するもの

  <トータル・デザイン>の生物形態学的見方
     →生産設備や販売政策の面をも含めた製品を、もっぱら一連の長い生物形態学的系統発生史の一部と見るような見方

ex)スチームアイロンが一方では熱せられた岩石とかストーブアイロンの段階に立ち返り、他方では<パーマネント・プレス>の繊維とか<ノン・アイロン>繊維といったものの大量導入によって<スチーム・アイロン>という種類がついに消滅するような段階へ進んでゆくような流れ

 デザインにおける生体工学の適用例

  ・カエデの種子の落下原理を応用した消化剤
  ・グリンピースのさやと種子との関係:子供用座薬容器への適用
  ・基本的な細胞体の理想形態という、最も安定した十四面体構造の様々な応用
  ・ロンドンの給水系統→生物形態学的着想:動脈や葉脈の分枝に関する経験的規則を適応

環境デザインの分野においてこそ、諸分野を貫くアプローチはもちろんのこと、生態学や動物行動学の最近の研究をもととした生体工学的アプローチや植物学的見方が最も有効となるだろう。

10.人目をひくようなはでな消費 デザインと環境、環境汚染、混み合い、飢餓、およびデザインされた環境

■デザイナーの責任

人間の(悪意はもとより)善意に基づいた自然への干渉→地球に大きな破壊をもたらしてきた

   「地球の大きな破壊のほとんど全てが、我々自身によって生み出されたものである」

我々が、それぞれの個人的責任を無視しようとするのは、問題を悲劇的な局面へ移し替え、宇宙的な見方のために個人としての見方を捨てることによって、問題を回避しようとしていることである。

デザイナー:環境汚染に関して一般の公衆よりも深い関わりをもつ 「デザイナーは、操作を誤って危険を招くようなものや環境を汚染するようなものデザインしたことについて、かなりの責任をもたなければならない。」

「デザイナーは事実や問題やもろもろのシステムを分析し、その進行を予想し、また判断することを訓練されているため、他の者たちよりも、このような問題に対し、はるかに大きい責任を背負っている。」

  ex)自動車に由来する問題のデザインによる解決
   :ガスを減少させる装置等のデザインによる解決ではなく、輸送機関全体のシステムおよび、それを構成する部分について根本的な再検討を行い、その関係をデザインするような解決

 

■住むための人工的な環境(人間的スケールのゆがみ)

 <個性のない住宅、非人間的な借家またはショッピングセンター>

   ・・・整理して配置される<要素>としての人間、車を中心とした計画

  「デザイナーが考えなければならないのは、住宅と現代人の生活方式との関連ということである」

 <フランク・ロイド・ライト>
   :個人住宅とアパートの住居との間をつなぐ重要な<失われた環>を創造した建築家。かれによれば、スケールの問題は社会的意味に最大の影響を与えるものであった。

   <小さな形、産業のための小さな施設、小さな工場、小さな学校、小さな大学、これらはたいてい人々の関心をひきながらかれらにつながってゆくものだ・・・・小さな研究室・・・>(ライト)

 

■「スケールの呪い」

「ものの形を変えることなく、単にものを拡大すると、そのものの性質全てが変わってしまう」     →様々な変化:環境汚染、気候変動、人口増加、食糧危機・・・環境汚染、または飢餓などの問題=システムの問題

 ・何か一つの副次問題を解決しただけでは、決定的な解答を提供したことにはならない。  ・どのような部分的な問題も、十分な政治的、経済的配慮のもとでの解決と深く関わり合っている。

  世界の人口問題への<心配>には、エリート主義的な暴力と一種の<現実逃避>の姿勢が隠されている。こうした変化にも関わらず、デザイナーは(多くの分野の人を集めた課題解決のチームの一員として)問題処理に関わり合っていくことができるし、またそうしなければならない。   

 *パパネックはここで、いくつかの問題に対し、デザインによる技術的な解決の具体例を挙げているが、今日、それらはあらたな環境問題を生みだす要因となることが判明している。

(朝廣)

11. ネオン・ブラックボード デザイナーの教育と統合デザイン・チームの構成 

デザイナー養成の教育について:技量の修練とひとつの哲学の修得を基礎に行われる。

ジョージ・B・レオナードの主張:学習というものは無我の状態の経験でなければならない。 例、自動車の運転を学ぶぐらいの経験しかできない。教官と生徒の一対一。

教育とは、環境が学習者を変え、学習者が環境を変えていく過程。

=自らを変えていくプロセス。

∴相互作用がなければ、人間に対して強い影響を与えることはできない。

しかし、現状の教育は、従来の諸価値を維持するものでしかない。

 

人類の生活史について

何百万年の間、人間は狩猟人=漁夫=水夫として、非専門的な万能人であった

万能人=ジェネラリスト=社会を理解し、刺激をコントロールできた。

多くの独創的な発想(ブッシュマン、エスキモー族など)

農耕民族よりも高度な組織を持ち、十分な食料を持つ精妙な社会生活説

 

一方、農耕社会は、人間の専門化を進めた。退屈な時間、学習から伝統を知識へ。

土地への定住、災害への畏怖、階層や祭司、縄張りと戦争。

専門化した諸生物の中で、人間の能力は、理解し、情報を扱い、新奇な仕事ができる。

自然との相互作用は、それに反応するという非専門化的人間能力を養った。

諸デザインの学校は、相互作用的な学習経験へ立ち返り、非専門的な基盤で仕事を進めなければならない。

社会的、経済的、政治的環境などの社会的問題への立ち返り。

しかし、現代の経済は新しい消費財を常に創造し続け、消費、廃棄することを求める。

表層的デザイン;地域計画家は造園家に、建築家は装飾家になり生産品は完全性を欠く。

著しい専門化は外観のみを対象とする美学の出現。

しっかりしたデザイン観とは、人間、手段、環境、思考法、計画の方法などを非線的な、同時存在として、包括的な全体として考える。=統合的デザインと呼ぶ。

目標は、道具、生産品、居住地域などのすべてについてその機能と構造を再計画ないしリデザインし、統合した生活環境へ変えていくことである。

 

包括的なデザイン・プロセスを処理できるデザイナーは?

統合的デザインは、慎重な分析によって問題がどのレベルに属するか決定する。

人間的因子、価値を考慮する。

社会的関連の中で追求する。

多くのデザインは既存社会の永続を目的とし、よく検討してみる必要がある。

・幅広い万能人が求められる中で、大学等での教育は専門化養成が強化されている。

しかし、一つの種が専門化ないし分化のために払う代償は絶滅である。

理想的には、様々な年齢のグループが学びあい、研究しあい、デザインに入らない人々も一緒に討論を進める。小規模のグループでの共同作業の継続。諸分野の参画。

成績などによる圧迫感を取り除くかわりに学生達は、自分自身の成長に積極的にかかわり合うようになり、環境によって変えられると同時に、反対に環境を変えて行くようになる。

教師は学生からも学ぶことができる。現代社会の諸矛盾を他人に対して説明できる能力。

デザイナーが経験しないような教育や共同作業の経験は、多くの人々の要求の理解を助け、人々の存在を認知する。旅行や様々な仕事の経験の勧め。

 

従来、デザイナーは苦闘する孤独な天才というイメージが売り込まれてきた。しかし、実際に活躍しているデザイナーの多くはチームの一員として働いている。

学際的な専門化チームの必要性。

クライアントとの共同による、社会的意味の確認。

やり取りの難しそうな非専門化の人々に対してでも、最終的にはなんとかなる。

デザインチームの課題は、問題の解決だけではなく、解決しなければならない諸問題を探し出し、それをはっきりとつかまえることである。(大学の盲点)

包括的なデザインの分枝を完全に理解するには、関係するすべてを知るよう努力する。

文字の流れから新しい関係ない結び付きが浮かび上がってくる(完結しない)。その後に、何時、誰が、どこで、どのように進めるか計画を行う。また、フローに戻る。

 

適用事例:デザイン会議でのデザイナーの位置づけ、脳性小児麻痺の子供達が使う装置等

 

12. 生き残りのためのデザインとデザインによる生き残り われわれのなしうること

 

デザインは人間の活動の基礎となるもの。
・ デザインのプロセスは、予知できる望ましい目標に向けて行動を計画し整えること。
・ 先を見越すデザインは学際的で、基本的に境界面に表れる行為である。

変化と、その周辺の構造とシステムの出会い デザインの活性化

パパネックの予言

コンピューター処理の社会の中で、デザインチームの仕事(研究、社会計画、創意)は、人間に残されたただ一つの有意義な、そして切実な活動となるだろう。

フラーの話し

専門分化の過度の進行は、適応性の喪失と絶滅へと向かわせる。

・ 万能人の人間は、道具や環境により専門化ないしは分化を助けられている。しかし、両者の関係は常にフィードバックでき、相互作用のとれる環境においておく必要がある。
・ 喜び、つりあい、調和のある美しい状態への美的、連想的な操作、そして、美的環境の重要性(ネズミの実験:恵まれたグループが学習能力が大きく、適応性が強い等)。
・ 富や食糧の分配について

・変化を恐れ、専門分野へ若者を教育していく変転の激しい社会では、先を見越すデザイナーは献身的な総合者である。

・(p243)将来生産される生産品と、廃物化されていくだろう生産品。
・ 変革へのコスト、多大な研究を要し、多くの問題が問われなければならない。

 

・人間の理想的な社会組織とはどのようなものであるのだろうか?
・地球上の生態系のパラメーターはなんであるか?
・われわれの資源はどれほど限度のものか?
・人間の限界はどこにあるだろうか?
・われわれの知らないものは何であるか?

 

第二の仕事

・現在浪費されているデザイン上の力を、切実な要求へと転換する。

第三の問題点

・デザイナー養成教育における新しい方向性の探求。 →

デザインの問題を学習できる作業場ないし工房的なもの。

共同生活、共同作業、共有財産、共有技術。余暇と活動の分離はない。

・デザイナーの洞察力、非専門的、相互作用的で幅の広い見方は、いまや責任感と結びついていなければならない。デザイナーは多くの点で脱デザインを学ぶことで、デザインによって生き残ることができる。

読書会メモ
上記の内容の多くは、芸工大の構成に取り入れられているものである。
デザインチームは専門化集団であり、デザイナーも専門を持ち合わせることが条件である。
ジェネラリストの条件は、決められた期間内に問題を「気合いとスピード」でこなせる能力である。

asahiro@kyushu-id.ac.jp