第T部 はしがき
1.メディアはメッセージである
2.熱いメディアと冷たいメディア
3.過熱されたメディアの逆転
以下、レジメ
Asahiro
はしがき
3000年にわたる科学技術による機械化、細分化 → 「外爆発」(explosion)
→ 身体を空間に拡張してきた時代
1世紀にわたる電気技術の発達した現在、→ 「内爆発」(implosion)
→ 中枢神経組織の地球規模での拡張
∴ 現在の地球には、空間も時間もなくなってしまった。→ 人間拡張の最終相に近づく。
これらの技術的進歩は、認識という創造的プロセスも人間社会全体に拡張され、意識の拡張の是非は様々な解答の余地を残す問題である。筆者はこれらの問題に解答を与えるべく主要な拡張のいくつかを、心理的、社会的な結果と合わせて研究を進めている。
・行為の反応の時間的格差
機械の時代(文字文化)には行動も反応も時間をかけることが保証されていた。現在ではこれが同時に起きるにも関わらず、我々は前電気時代の古い空間と時間のパターンで考えている。しかし、自身の行動の結果に、不可避的に深く参与せざるを得ない。
・表現様式の変化
機械の時代は、私的な見解を激しく主張することが自然の表現様式であるが、電気の時代では、全一、共感、自覚の深さにあこがれる。私達の時代の特徴は、課せられたパターンに反発し、物や人に全体としての存在を主張させてみたくなる(全ての存在に究極の調和を得るという本書の深い信念)。
・本書の目的
人間個々の拡張の起源と展開とを調べる前に、メディア(すなわち人間の拡張したもの)の全般的姿をいくつか見る。まずは、メディアの拡張が個人及び社会にもたらす感覚の麻痺という現象を扱う.
T メディアはメッセージである
この題目は、いかなるメディアのもたらす個人・社会への結果は、我々自身の個々の拡張は世界に導入される新しい尺度に起因する。
・オートメーションの技術
この新しい技術は、従来の職務を駆逐する傾向があるが、反面、人材の流動化、及び、機械技術が破壊した過去の人と作業の関わりを呼び戻す。多くの人は機械を使ってなすことをメッセージと言いたいであろうが、機械技術の本質は、人間の労働と人間の結合の再構造化が細分化の技術により形づけられたということである。人間関係のパターン化についてみれば、機械は細分化、中央集権的、表層的で、オートメーションは深層的、統合的、分散的である。
・電気の光
電気の光 = 純粋なインフォメーション、メッセージを持たないメディア
→ 内容は別のメディア
→ メディアの「メッセージ」(デザイン、パターン)は心理的・社会的にどのような結果を生むのか?
・鉄道・輸送
人間の機能のスケールを拡大し、新しい種類の都市・労働・余暇を生み出した。飛行機の輸送では都市や政治を結合・解体する傾向が見られる。
・メディアはメッセージであるという要点
電気の光は利用目的に関わらず、人間の結合と行動の尺度と形態を形成し、統制するメディアである。
メディアの効用は様々であるが、その内容が私達を盲目にしがちであるという性格により、結合の形態を形成する上で実効がない。
・メディア研究の難しさ
電気の光は商品名を描き出すまでメディアとして気づかれず、気づかれるのは光ではなく内容となる。これらは、人間の結合において時間と空間を駆逐するところ、ラジオ、電信、電話、テレビは深層で関与を引き起こす。
・メディアが作用する文化的マトリックス(p11-13)
これまではメディアの心理的および社会的効果に対し全く気づかれていなかった。
例:デイヴィッド・サーノフ将軍、「技術の〜略〜、その価値を決めるのはその用い方だ」
筆者は、この発言をメディアの本質を無視していると評す。
機械化は連続性により達成されたが、電気は物事を瞬間にすることで連続を断ち切り、物事の原因というものが改めて認識されるようになった。
例:映画の誕生、線→構成、機械主義→成長と有機的な相互関係の世界へ (キュービズムの誕生)
例:アレクシス・ド・トックヴィル、口誦的イギリス社会とフランスの均質性、アメリカとの違い。
例:E.M.フォースター、口誦的で直感的な東洋文化、合理的で視覚的なヨーロッパ(p15-16)
例:J.C.キャロラーズ、文字文化と胸酔効果により部族の民を脱部族化することができる。
我々が電気の世界で麻痺しているのは、現地人が文字文化と機械文化に巻き込まれているのと変わらない。
・技術が精神の形成及び発言に与える影響(p17)
技術は画一的で連続的なパターンに従って行動することを求め、技術の要求に従えない障害者、女性、黒人などは公平の犠牲者という役を帯びる。一方、固定した職務ではなく流動する役割を当てる文化では、こびと、かたわ、子どもなどにそれなりの居場所を作る。
例:知能テスト、検査者は画一的習慣を知能の印と思い込み、聴覚・触覚人間をはみ出させる。
・電気技術の脅威(p18-21)
メディアの効果が強化・激化するのは、メディアの用い方ではなく、「内容」が与えられるからである。
例:ヒットラーのメッセージ
メディアの影響は、「内容」を分析しても、その魔術や潜在的攻撃力に迫ることはできない。
人類はメディアの衝撃を無自覚のまま従順に受けてきたため、使う人間にとって壁のない牢獄である。
例:A.J.リーブリング、メディアという武器は、芸術と娯楽、そして多数の内戦の時代を生み出した。
筆者は、メディアの形成力がメディアそのものであるならば、技術であるメディアは共同体の全精神生活に課せられた「基本料金」であり、我々の意識と経験をまとめあげる。
2.熱いメディアと冷たいメディア
熱いメディア:ラジオ、映画、写真、表音アルファベット、紙、講義、書物
冷たいメディア:電話、テレビ、漫画、象形文字、石、演習、対談
・区別する基本原理
熱いメディア:単一の感覚を「高精細度(データを十分に満たされた状態)」(high
definition)で拡張
冷たいメディア:「低精細度」(low definition)
特徴として、熱いメディアは受容者による参与性が低く、冷たいメディアは参与性・補完性が高い。
・二つの関係
熱いメディアの強烈さの故に、熱い形式は排除し、冷たい形式は包含する例はいくらでもある。
強烈な経験が「学習」「同化」されるには、その前に「忘却」「検閲」され、冷たい状態が必要。
また、冷たい技術のあとに熱い技術が続き破壊的衝撃を与えることもある。
例:伝統的・部族的・封建的ヒエラルキーが機械的・画一的・反復的なメディアに出会うと崩壊する。
反対に専門分化を促さない電気技術は再び部族(分散化?)を生み出すこともある。(文化の停滞)
・電気時代の基本的変化、意味から効果への関心の移行
(p27)
電気に基づく生の構造化と形成化が進行すると、古い線条的で断片的な手順と分析の道具に衝突する。我々はメッセージの内容から目を逸らして全体の効果を究めることになる。
例:不安、倦怠、病気、ストレス(驚愕、抵抗、消耗)
・電気の時代に起きた手順と価値の逆転(p28-29)
先進国では過去の工業の時代が熱く、テレビの時代が冷たい。ワルツが熱くジャズが冷たい。等?
例:マーガレット・ミード、後進社会での画一的動きの加速 → 温度の上昇。(文化情緒の風土安定)
例:ルイス・マンフォード、冷たくてくつろいだ構造の街のほうが熱くて過密な都市よりよい。
・メディアの競争(p31)
熱いメディアのラジオ、新聞と冷たいメディアのテレビを巡る敵対関係。
熱いメディアが熱い物を冷却することができるかどうか、議論の余地が残されている。
例:死刑と犯罪の予防、核による冷戦と平和の手段
これらが飽和点まで押し進められたとき、堕落が生ずるのは明らかではないか。
熱いメディアが熱い世界と冷たい世界で使われるのでは、その効果は違う。
熱いメディアと冷たいメディアを区別する原理は民衆の知恵の中に完全に表現されている。
3.過熱されたメディアの逆転
あらゆる事物は発展の段階で、最終的に示す物と対立するような形態を取って現れる。
例:ソ連の口誦伝統と、西欧の文字文化偏重
社会生活と問題に深いところで反応するに従い、「社会的に目覚めた人」を保守主義者に変える。
例:実在世界とSF、東洋の西欧化と、西欧の東洋化
・外爆発から内爆発へ
機械の形態から瞬間的な電気の形態への移行の速度が増したとき、上記の逆転が起きる。この傾向が古い組織の拡張主義的な伝統的パターンと衝突を起こす。社会、政治、経済上の制度や配置などの一方向のパターンを「拡張的」と考えるのは有効ではない。「人口爆発」の数が問題ではなく、全ての人々が身近に生活しなければならないという事実のほうが関心が高い。
他:教育、数→知識相互の関係。
・集中化から分散化の意味するところ
鉄道は終端駅や大都市を必要とするが、電力は農村でも重役室でも同じように使える。中心も大きな集合組織も必要としない。この逆転パターンは家電製品の中に表れ、これは労働の節約ではなく、誰もが自分の仕事を自分でやれるようにするのである。空間と組織において極めて不連続と多様を許容するのである。
・商品が帯びる情報としての性格
情報と計画生産には多くの広告費が必要であるが、メディア一般の維持を担うのはタバコ、化粧品などの一般流通商品である。情報水準の上昇は、知識人の生産への尽力が求められる。
・形態及び動力の逆転の瞬間
ケネス・ボールディング:「システムがその流動的なプロセスの中で突然に別の物に変わってしまう、あるいは帰還不能の限界を過ぎてしまう(変換点)」というものが、どんなメディア、構造にも存在する。
また、システムの破壊原因の一つとして、他のシステムとの異種交配も多く見られる。
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