夏の学校で講演していただく講師の方の一覧(50音順、敬称略)です。

井澤 毅(いざわ たけし)

(独)農業生物資源研究所 光環境応答研究ユニット 上級研究員

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講演内容

光周性反応と限界日長認識

 1920年に最初に報告された植物の花芽形成が示す光周性反応は、ビュンニングによる概日時計の提唱においても、重要な役割を果たした現象のひとつである。’60年代に、ピッテンドリグらにより、生理学モデルが展開され、光周性反応は、外的符合モデルや内的符合モデルによって説明されることが多いが、今日、分子遺伝学的解析により、長日植物シロイヌナズナ等で、その遺伝子実体が同定されるに至っている。我々は、短日植物イネを材料に、一日の日長が30分以内の差を厳密に認識できる「限界日長設定」の遺伝子レベルの理解を進めるべく、研究を進めてきた。今回、イネのフロリゲンであるHd3a遺伝子の転写制御が厳密に日長により制御受けていること、また、その転写制御が独自の日長反応を示す二つのGate効果(外的符合反応)により、花芽形成を促進する因子と抑制する因子がそれぞれ独立に転写制御され、また、その上で、抑制因子が促進因子の転写を抑えることで成立していることを明らかにしたので報告する。

略歴

参考文献

蔵本 由紀(くらもと よしき)

京都大学数理解析研究所

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講演内容

リズムと同期の理論をつくる

 リズム現象・同期現象の理論はどのように形成されてきたか。ここでは、1970年代以来の講演者自身の試行錯誤をも振り返りつつ、理論形成過程を(必ずしも継時的にではなく)ロジカルに再構成して提示したい。最重要なキーワードは縮約(reduction)である。縮約とはそもそもどのような考え方なのか。具体的にどのような縮約法があるのか。それらはリズム・同期現象を理解する上でいかに有効か。より広い非線形現象における縮約の意義は何か。これらの問題を追究していくと、必然的に現代科学のあり方への批判的検討にまでつながってくる。
 講演者は物理学の出身であるが、その表通りから外れて別の道に迷い込んだために自らの存立の根拠をたえず求めざるを得なかったという事情がある。こうした経験をもとに次世代の方々にとって何らかの意味のあるメッセージが伝えられればよいと思っている。

略歴

参考文献

塩見 美喜子(しおみ みきこ)

慶応義塾大学医学部 分子生物学教室

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講演内容

小さいRNAによる遺伝子発現の制御機構

 20から30塩基長のsmall RNAによって引き起こされる遺伝子発現抑制機構を総称して「RNAサイレンシング」と呼ぶ。その代表例は1998年に発表されたRNAi(RNA interference:RNA干渉)である。RNAiの発見以来、RNAサイレンシング研究は飛躍的に進み、この機構が発生や代謝、ウイルス感染防御といった、生命に欠かせない多くの現象を制御していることが明らかになってきた。ある種の癌の様に、RNAi関連分子の機能異常が発症原因として疑われる疾患も次第に見つかってきている。これらの結果は、我々がこれまでに培ってきた、生命を司るための遺伝子情報発現の仕組みに関する理解 - 遺伝情報はどのようにゲノムに蓄えられており、発現するのか、それらがどのように生物の発生や種の保存を制御しているか - を大きく変えようとしている。

略歴

参考文献 (最近の総説を抜粋)

柴田 重信(しばた しげのぶ)

早稲田大学先進理工学部 電気・情報生命工学科

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講演内容

リズムを生み出す分子時計

1997年に哺乳動物の最初の時計遺伝子Clockがクローニングされて以来、時計発振機構や同調機構の分子メカニズムが解明されてきた。前半では体内時計の基本的性質・分子基盤について説明する。後半では体内時計の研究が、健康科学や医療に如何に関わるかについても、「時間薬理学」や、「時間栄養学」の観点から、現在ホットな話題を提供したい。

略歴

参考文献

堀川 一樹 (ほりかわ かずき)

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北海道大学電子科学研究所 ニコンイメージングセンター

講演内容

体節時計の同調現象、粘菌が示す興奮場

生物に見いだされるリズム現象を皆さんはどのように研究していますか?理論の側から提示される興味深い予測を実際に検証してみたい、もしくは、理論家が驚くような生命現象を提示したいという壮大な夢にむかって突き進んでいる等、それぞれであろうと思います.しかし実験家としてリズム現象と対峙するにはまず例外なく、「可視化」と「操作する」という二つの技術要素が必須となります.それぞれの現象で最適な方法は異なるかもしれませんが、現在や将来の研究対象にどんな手法でアプローチしたらいいか?という悩みを抱えている人は少なくないはずです.本発表では、脊椎動物の節作りと社会性アメーバの自己組織的集合流の形成というふたつの発生現象を例に、リズムを可視化するための手法ならびに、仮説の検証に必要なシステム操作の一例を紹介します.動物の節のサイズを思いのままに操ったり、10万個の細胞集団の自己組織化過程をじっくりと観察できるって楽しいと思いませんか?

略歴

参考文献

三島 和夫(みしま かずお)

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部

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講演内容

研究成果を臨床に展開する

基盤研究の成果を医学や一般生活に展開するいわゆるトランスレーショナル研究、実用化研究の必要性が謳われている。しかしそのハードルは極めて高い。時間生物学領域でも数多くのシーズが眠っているが、基礎研究と臨床研究の立ち位置のギャップは例年の学会場で皆実感しているところではないだろうか。その中でも睡眠医療は基盤的成果を患者や生活者へ効果的に還元している好例の一つである。ヒトの概日リズム調節(概日リム睡眠障害)、季節リズム調節(冬季うつ病)、光療法、メラトニン受容体アゴニストなどをキーワードに、私の研修医時代から現在までの20年間に遭遇した睡眠障害の時間医学の進展の歴史をご紹介する。

略歴

参考文献

八木田 和弘(やぎた かずひろ)

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大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学講座

講演内容

「わたしのキセキ」

 科学者といえども人間であり、社会的な存在である。それゆえ不条理や理不尽にぶつかる人もいるかもしれない。しかし,だからこそ,それを乗り越える喜びに科学的説明以上のものを感じる人も多いのではないか。人間的な側面から,科学者として生きることを考えてみたい。

 [世話人註:この講演中に参加者の明石真(山口大学)さんとの対談も予定されています。]

略歴

参考文献


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