研究の興味(一般向け)

 生物と非生物を分け隔てている性質は何か、と問われたらどのように答えるべきでしょうか。"タンパク質で出来ている"や"DNAを持っている"といった素材で説明するのが、現代の分子生物学の標準的な答えですが、私はあまり納得感がありません。コンクリートのすきまに咲いているセイヨウタンポポには生物らしさを感じますが、それはタンパク質で出来ているからだ、とは思えないからです。真夏のもくもくと成長している入道雲を生物と言っていいのか悩んでいる子供に、あれは有機物ではないから生物ではないよ、と教えてあげたところで彼の疑問に本質的に答えたことになるでしょうか。

 それが生物であると述べる時、物質の素材ではなく、普通の物質にはみれない特殊な機能に着目している場合がほとんどでしょう。それをどうやって表現したらいいか、昔から多くの人がこの問題に取り組んで来て今なお関心が持たれています。例えば、自己複製機械としての生物、進化するものとしての側面、もしくは手足などの複雑な形作りなど、生物らしさを感じる様々なポイントに関して議論がなされてきました。私はそのうちの一つ、"リズム現象"という点から生物を捉えてみたいと考えています。生物は、細胞の分裂、世代交代、呼吸、心拍、神経細胞の発火などに自律的なリズムが見られます。リズム自体は振動する化学反応(例えばBZ反応)やししおどしといった非生物にも見受けられますが数は多くありません。

以上のような動機により、生物のリズム現象に大学院の修士課程の頃から興味をもっています。生物リズムを研究するためのツールは理論的にも実験的にも先人がたくさんのものを用意してくれています。例えば非線形動力学と呼ばれる物理学のとある分野は、個々の対象によらないリズムの普遍的な原理を与えてくれます。分子生物学の発展により、発光遺伝子を細胞に導入し、細胞を24時間周期で点滅させて1つ1つの細胞の寝起きを測るというようなことも可能になりました。

"リズム"という切り口で、生物学、物理学、分野を問わず使えるものは最大限使い不思議な現象を発見すること、そして腹の底から納得できるまで理由を考える、というのが私の研究スタンスです。解きごたえのある奥行きのある問題に出会うことはそうあることではありません。もし運良く見つけたら自分の手持ちの手法にこだわらず、"自然な理解"を目指してツールを探すことになります。

もし私と同じように生物のリズム現象に興味がある方は、一緒に研究しませんか?生物学は他の学問と比較して若い分野ですので、研究を始めるまでに身につけなければならないことはそれほど多くはないように思います(私も工学部機械系出身です)。何らかの分野で基礎を身につけた方の生物学への参入をお待ちしております。

何を研究しているか(大学生~研究者向け)

概日リズムとは

 生命現象のうち約24時間の周期で繰り返しおこるものをは概日リズムとよばれます。例えば、ヒトの睡眠覚醒のリズム、植物の葉の就眠運動などが例としてあげられます。古くは晩年のダーウィンも関心をもっていました。彼は"植物の運動力"という本の中で、”概日リズムは遺伝的に継承される内在の振動であるのか、外から周期的な光刺激を与えられた結果の残存運動であるとみなすべきなのか"と述べています。これは概日リズムが自律的な振動子(self-sustained oscillation)なのか、減衰振動子(damping oscillation)なのかという問いかけであると現代の観点からはとらえることができます。

 過去の概日リズム研究者はこの問題に対して外部の情報を一切遮断した状態(照度一定、温度一定)の生物を観察することで、自律的な振動子が生体内に存在すると結論しました。また生体内の多くの生化学反応は温度依存性が存在するのにも関わらず、概日リズムの周期に関しては温度に依存しないことを見いだしました。さらに周期的に光刺激、温度刺激を与えると不思議なことですが、外部刺激の周期に体内時計の周期が一致してしまうことも見つけました。これらは

  • 内因性のリズム
  • 周期の温度補償性
  • 光、温度刺激への同調

という言葉でそれぞれ呼ばれ、この3性質は生物種を問わず、全ての概日リズムが持っています。

シアノバクテリアの概日リズム

原核生物は分裂が短い期間で起こる為、概日リズムを持つことは難しいのではないかと昔は考えられていました。しかし、シアノバクテリア(藍藻)という原核生物も概日リズムを持つことが1980年代に報告され、それ以来盛んに研究されています。例えば、光合成活性を計測してみると照度・温度一定環境下でもリズムがあります。光合成関連遺伝子のプロモーター活性を調べてみるとやはりリズムがありますし、全遺伝子のmRNAをマイクロアレイでそれまでヒトやマウスが概日リズムの分野では研究対象として良く用いられてきました。大腸菌とほぼ同様の操作ができるため取り扱いがやさしいシアノバクテリアでは、研究人口も大きくなく研究の歴史も浅いにもかかわらず、哺乳類では報告されていない新しい発見が相次いでいます。

体内時計に関わる遺伝子の同定

シアノバクテリア(細かく種をあげるとSynechococcus PCC 7942)は2500の遺伝子を持ちますが、現在破壊すると概日リズムがなくなる遺伝子が3つ報告されています。名古屋大学の石浦-近藤のグループによって1998年同定されたこれらの遺伝子はkaiA, kaiB, kaiCと名付けられており、染色体上で近接した領域にあります。これら遺伝子の発現もタンパク質量も24時間周期で振動しており、この3つの遺伝子が織りなす遺伝子のネットワークが概日リズムを生み出していると考えられてきました。特にKaiCを強制的に細胞の中で発現させてやるとkaiC遺伝子の発現が抑えられることから、自分自身を負に抑制する機構:ネガティブフィードバックが存在することが示され、他の生物の概日リズム機構でもネガティブフィードバックは発見されているので、この遺伝子ネットワークの機構が概日リズムを生み出していると考えられてきました。

試験管内の体内時計

ところがこのモデルは後に修正をされる2005年に遺伝子発現が無い状況でもKaiCタンパク質のリン酸化反応にリズムがあるという論文が報告されました。またすぐその後伊藤も関わった一つの発見がありました。KaiA, KaiB, KaiCタンパク質を3つ試験管内でATPと共に混合するとある自律的な振動現象が観察されました。全KaiCタンパク質の内何パーセントがリン酸化という修飾を受けたタンパク質であるのかその割合をみたところ24時間周期で振動していました。

タンパク質の時計の同期・同調

(執筆中です。2012/05/23)


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