彫刻と建築の協奏詩
イサム・ノグチと谷口吉郎の写真展
〜「萬來舎」に見る芸術と工学のコラボレーション〜
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慶應義塾創立150年記念イベント報告書

(文責・小高喜久夫 実行委員)

 写真展は福岡市の繁華街天神から、西日本鉄道株式会社の大牟田線急行で二つ目の大橋駅の前の「九州大学USIサテライトLUNETTE」で行われました。会場の展示は共催を引受けていただいた「九州大学大学院芸術工学研究院」の諸先生のご協力で素晴らしいものになりました。来場していただいた方達も「萬來舎写真展」の意義を理解していただけたと思います。
 写真展とは別に11月15日に基調講演と座談会が行われましたが、これがまた感動的なものでした。基調講演ではイサム・ノグチと谷口吉郎両氏の業績、思想が語られました。ほとんどの方達が初めて聞くことばかりでしたが、実に興味深い話でした。そのうえに座談会が大変な盛り上がりを見せました。それがどれほどのものであったかは、基調講演・座談会を聞かれた一人の来場者からいただいたメールをご覧いただければ分かります。以下そのメールを記載させていただきます。

 
 本日は講演会・座談会に参加させていただき、大変ありがとうございました。
皆さんの貴重なお話を拝聴し、建築・芸術分野から、文化・人間性・命といった深い本質の内容まで広がったので、とても有意義で考えさせられました。

●印象に残ったポイント
・存在の美  死と向き合い限られた人生の中での存在表現/意義
・芸術の要素は骨格構成とボリューム+テクスチュァ
・人間空間をどう創るかが建築の原点で”人と人”が最重要
・経済の時代は終わり、真の芸術/文化/感性の時代がくる
・今は文化の混乱期、人類貢献をどうしていくかが高貴な目標
・子供の純粋な心をいつまでも育むことの大切さ
・よき伝統の継承活動

 私が携わっている商品デザインの仕事においては新デザイン開発時は継承と進化(どこを残してどこを変えるのか?)が重要ポイントとなります。そして常に新鮮さが求められます。
マーケティング主導の商品開発の中で、純粋なデザインや自己表現は困難を要 しますが、改めて原点に立ち返ってモノ創りに励みたいと思います。
また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。


 なお、写真展については、西日本新聞とRKBニュースでとりあげられました。萬來舎写真展は福岡の前は札幌で開催され、福岡のあとは広島、来年は中津で開かれます。写真展が福岡で開かれたきっかけは、塾工務課に勤務されていた当時、萬來舎の現場を担当した基調講演者の一人である由良滋・九州芸術工科大学名誉教授(現九州大学)、谷口吉郎氏の次女で塾員の杉山真紀子氏、現在九州在住の塾員であり、当時の塾工務課長楠元一正氏の長男の楠元泰弘氏が九州で会ったことから始まりました。楠元氏の話では、写真展がこれほどの盛り上がりを見せるとは考えていなかったようです。実行委員を引受け、会場の選定、設営、運営、ポスターやチラシの作成に真摯なご努力をしていただいた九州大学の石川幸二教授を始めとする諸先生のご協力がなければ、これほどの成功はなかったと思います。更にまた、建築家・菊竹清訓先生を始め、イサム・ノグチ、谷口吉郎両氏に縁のある高名な建築家・彫刻家の諸先生が基調講演・座談会のために福岡に来ていただけるとは、想像外のことでした。これはイサム・ノグチ、谷口吉郎両氏がいかに人間性に富んだ、優れた芸術家であったかの証であると考えます。総合プロデューサーを努めていただいた元塾評議員の四島司氏には感謝です。福岡で多大な功績ある経済人であると同時に、高名な文化人である四島氏には、資金集めを始めとし、精神的支柱になっていただきました。また、特筆すべきことは、終戦直後に「福沢精神のルネッサンス」の発現として、当時の潮田江次塾長を始めとする塾のトップが萬來舎の再建を実行したことであります。これは、九州大学大学院芸術工学院が1968年に日本で初めて「芸術と工学」の領域を学ぶ大学として開校したことと連動しているかに感じてしまいます。これが、今回の写真展の成功の根底にあったのではないかと思うほどです。


2008年11月11日〜16日実施

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