ソーシャルアートラボ・志賀島プロジェクト 

2018年10月,12月報告(九州大学 知足美加子)

 

 2018年冬至の日、作曲家・藤枝守先生ディレクションの「冬至にうたう『阿知女作法』〜ISOLA2018〜」が催されました。 私はその公演の美術を担当しています。以下は、私が担当した部分の報告書です。詳しくは九州大学ソーシャルアートラボの報告ページをご覧ください。→ソーシャルアートラボ・志賀島プロジェクト

 

「冬至にうたう『阿知女作法』〜ISOLA2018〜」公演風景

 

「海と潮、山と樹の響きを形にする」      知足美加子
 

 志賀島にある志賀海神社は「龍の都」とよばれ龍を大切にしてきたところです。龍は水の神様であり、水を治め、波や潮の満ち引きもおこせるといわれています。日本は今、豪雨や台風による災害が増えています。水への祈りをこめて、子供達と砂浜に力をあわせて大きな龍を描くワークショップを企画しました。音叉と波の音に耳をすませながら、志賀島に「海音の龍神様」を招くものです(前日までの台風の影響を鑑み、残念ながら中止となりました)。


 志賀海神社のことを学ぶ過程で、古代より「志賀島の砂には強い祓いの力がある」と信じられていることを知りました。神社の入り口には、参拝者用のお清めの砂が置かれていますし、穂高神社(長野県)では、式年遷宮の際わざわざ志賀島から砂を運んで清めるそうです。

 彼方の土地をつないだのは「船」であり、造船を支えたのは山の樹木です。海に命を預けて生活していた古代の人々は、海にも山にも深い敬意を感じていたことでしょう。志賀島の砂浜に立ち海風をうけていると、それらのイメージが響きとして重なりあい、私の中で形に結ばれました。

 2018年12月22日に行われた公演「冬至にうたう『阿知女作法』〜ISOLA2018〜」において、私は美術を担当しました。「阿知女作法」は志賀島に伝わる神楽歌なので、この海辺の龍のイメージから舞台美術を発想しました。透明な円柱に、塩と杉、山桜の粉を積層しています。塩は「海」、杉は「船」、山桜は「山」として、海と山の繋がりをイメージしました。これらに波の映像が揺らいで、たくさんの龍が飛んでいくようにみえました。

 美術でつかった杉の粉は、九州北部豪雨災害被災地の朝倉から運びました。また、山桜は英彦山の麓にあった樹齢300年の天然記念物で、豪雨災害の際倒木したものです(現在この倒木で守護童子像を彫刻中)。公演が行われた会場近くにおいても、工事のため桜が伐採されたばかりです。繰り返しよせる海の波、春の度に咲いた桜。本公演の「共創」が、繰り返される自然の営みを再現し、人間の命のスパンをこえる想像力と救いを与えてくれたことに感謝します。

 

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(付記)

 10/7は、台風でワークショップは中止になりましたが、当日天候が落ち着いたため、有志で災害復興祈願として砂浜に龍を描くことになりました。すると、当日参加予定だった地域の方々が、大きな龍の作画やドローン撮影で協力してくださいました。龍のうろこや瞳が貝で装飾され、砂の美しい質感をもつ海の龍が完成しました。

 

 

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