黒川復興ガーデンとバイオアート ー英彦山修験道と禅に習うー  

2018年10月26日、11月10日の作庭ワークショップ風景の映像です(10 分)

 

  

 

  【災害復興×アート、美しい庭としての再生】  知足美加子

 大規模な山林崩壊(約1065万トンの土砂流出)を引き起こした九州北部豪雨災害。 災害直後、おびただしい量の流木や巨石が流れついた「共星の里(朝倉市黒川の廃校利用の美術館)」の被災現場に圧倒されながらも、「ここがいつか美しい庭として再生している」というイメージが私の心に浮かびました。

人間が心の力を出し合い共同で何かを創造することは、尊厳を回復し前を向く契機となる」、そう信じて復興ガーデン制作を企画しました。本プロジェクトは「命」を潜思し、心安らぐ空間(庭)を、愛をもって創造するものです。

 黒川は英彦山修験道文化圏に属し、室町時代より英彦山座主院を大切に守ってきた地域です。 英彦山には、自然を凝縮し慈しむ石庭が複数存在します (知足は英彦山山伏の子孫)。修験道は自然を信仰の核におき(山川草木悉皆成仏)、水、植物、石、土(微生物)、気配にも神仏を見出しました。 英彦山修験道および禅の庭に習い、植物や粘菌なども取り入れ企画・提案を行います

 庭は3年の時間をかけ、一般市民と共に企画・制作します。地域内外の方々と深く感じ、考えあわせることで、人々の意識が「場」に永続的につながることを目指します。 最終年度には、庭を静かにみつめ感得したものを、互いに自由に表現し交流する「美的コミュニケーションの場」を設けたいと考えています。

 そのためにまず本年度は「感じることから始める」をコンセプトに被災地をめぐる現地研修(7月)を実施しました。 10月に共星の里において、枡野俊明講演会(禅僧、作庭家)を開き、禅の庭の根本概念について学びました。その後参加者はグループに分かれ、造園にむけてのアイディアを創出しました。 11月には、本学に柳和暢、尾藤悦子(共星の里)、杉岡世邦(杉岡製材所)を招き、前回のアイディアをブラッシュアップするブレインストーミングを行いました。

 来年度は黒川地区を中心とした被災地の方々に、できるだけ個別に聞き取りを行えたらと考えています。 仮設住宅とみなし仮設は、2019年の夏を目処に入居の期限が終了してしまいます。これからの住居や仕事をどうするのか、入居者は決断を迫られているのです。 聞き取りの際は上記の庭の企画案についても意見をうかがい、「造園後には立ち寄って、近況を語りあう場にしてほしい」と伝えるつもりです。 大規模災害が複数発生している昨今、九州北部豪雨災害被災地への関心が薄れたように感じる方や、「我慢しなくては」と苦しさを抱え込む被災者もいるかもしれません。 しかしここが幸せな復興をとげる姿は、今災害に直面する人々にとっての救いや希望になることを忘れてはなりません。

 

九州大学アーシャルアートラボの活動

 

 

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