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講演会録「もやいバンク福岡 設立総会」
田中 優 氏  未来バンク事業組合理事長
「お金が変われば世界が変わる」
2009年4月18日、市民活動を支える「もやいバンク福岡」が設立されました。その設立総会における田中優氏の講演録です。後日、講演者による加筆修正の可能性があります。

講演録編集:知足美加子(九州大学芸術工学研究院助教、もやいバンク福岡理事)

 こんにちは、田中優です。

 講演のタイトルは「おカネが変われば世界が変わる」ですが、最初に昨年(2008年)の暮れから始まったパレスチナ紛争についてお話します。

 パレスチナのガザ地域に、突然イスラエル軍が襲ってきました。パレスチナ側の総死者数は1417人、うち926人が民間人です。(パレスチナ人権センター報告、2009年3月)日本国内ではパレスチナ問題について「けんか両成敗」といった報道がされがちです。パレスチナのハマスがロケット弾を飛ばすからだ、というのです。そのロケット弾の現物がこいつです。どれくらいの被害が出るのか見てみましょう。(道路に3センチ程度の傷)道路がちょっとはげましたね。ロケット弾の威力は、この程度なのです。この50年間にロケット弾で亡くなっている人もいます。5人です。もし、ここに5人殺した犯罪者がいたとしたら、皆さんはその町を空爆しますか?警察に任せれば十分ですから、そんなことまでしませんね。ところが、このロケット弾に対する報復が、1400人を越える殺戮です。これはどう考えても防衛のうちに入りません。明らかな過剰防衛です。ところが、日本ではこれをけんか両成敗という形で報道されるのです。僕は、これはどう考えてもおかしいと思っています。

 実は、ここにも私たちのお金が関わっています。イスラエルという国に対して最も融資しているのは、アメリカなのです。ODA(Official Development Assistance−政府開発援助)の対象国といえば、援助する必要がある貧しい国をイメージしますね。ところがアメリカが一番融資している相手は、このイスラエルです。しかも、軍事援助です。ところがアメリカ自体は貿易赤字で財政赤字。お金がないのです。なぜアメリカはイスラエルにお金を届けることができるのでしょうか。それは、アメリカ国債を他の国に売り、集めた資金を運用しているからなのです。その中から援助資金を出しています。アメリカ国債を世界一買っていたのが、日本なのです。現在中国から抜かれてはいますが、日本が最も買い続けてきました。「国債を買う」ということは、「私たちのお金が使われている」ということになります。どういうことか説明しますと、皆さんの郵便貯金・簡易保険・年金等は、財政投融資というお金のプールになり政府に運用されるのです。政府は短期国債(一年以内で返済される国の発行する債権)というものを発行します。みなさんが銀行や郵便局に預けているお金の一部は、日本政府が発行する短期国債の購入にあてられています。それによって得た資金で、政府が大量に購入しているのがアメリカの国債。さらにアメリカは、それによって莫大な資金を得て戦争をすることができています。つまり、私たちのお金のおかげでパレスチナの人々をたくさん殺すことができた、という構造になっているのです。そのことを実感してほしいと思います。僕の親しいミュージシャン・FUNKISTがとてもすてきな曲を作っています。その曲に合わせた形で、映像を紹介してみたいと思います。曲名は『こどもたちのそら』です。

−ガザ侵攻により傷ついたこどもたちや、悲惨な破壊状況の映像紹介−

♪どんな爆弾にだってできないことがある  君をやさしく笑わせること

どんな爆弾にだってできないことがある  君と僕の間を引き裂くこと

君にしかできないことがある  僕をやさしく笑わせること

僕にしかできないことがある  君をずっと思い続けること

聞こえる?

君が笑うと嬉しくなる  

君が泣いていたらさみしくなる

だから僕は大きな声で  君に届くように歌をうたおう

同じ太陽に照らされて  同じ月を見上げて

僕らは分け合っているんだ、この朝と夜  

空のきれいさ  世界中の約束

Funkist『こどもたちのそら』抜粋

さて、これが私たちのお金が現実に起こしている事態です。私たち自身が実際に関わっているのに、なぜこの事実に目を向けられないのだろうと、つくづく思うのです。お金の使い方を変えることで社会を変えることができるのに私たちはその力を使っていない、と僕は思います。

 ap bankという有名なNPOバンクがあります。Mr.Childrenの桜井さん、音楽プロデューサーの小林武さん、音楽家の坂本龍一さん、この3人が出資し、環境に関する市民プロジェクトに融資を行っています。なんと1%の単利固定という極めて低金利の融資です。この活動がはじまったきっかけは、彼らが行っていた自然エネルギー促進プロジェクト「Artists' Power」の勉強会でした。僕は講師のひとりとして招かれました。桜井さんや小林さんという人は目立つのが嫌いで「できれば他の人たちを支えられるようなことをやりたい」と言っていたのです。僕はそれを聞いて「だったら、市民のためのバンクをやればいいじゃない。他の人たちがやろうとする何かに協力することができるから、そちらの方がいいのでは」という提案をしたのです。その頃の桜井さんは、ちょうど病気から回復したばかりでした。彼は悩みを持っていました。彼は一流のミュージシャンであり、ものすごく売れているわけです。ところが、彼の言葉を借りると「僕は人並みには努力したと思うし、人並みには苦労したと思う。でも、人並み外れたお金を稼ぐようになってしまった。こんなことを続けていたら、いずれ罰が当たる」と思っていたときに、脳の病気になったそうです。「そら見たことか。やっぱり罰が当たったんだ」と彼は思ったのです。彼は音楽が大好きでミュージシャンになったのに、音楽をやることが嫌になりかけていたのですね。ところが、このバンクを始めたことによって、音楽で稼いだお金は全部みんなのために戻すことができます。そうすれば「僕が幾らお金を稼いだとしても悪いことにはならない」と彼は思うようになりました。そして、彼はBank Bandという名でCDを出しました。それまでの彼は自分のCDを買ってください、と言えなかった。しかし、このBank Band得られた利益は、市民のための融資に回るわけです。桜井さんは生まれて初めて「このCD、買ってください」と言えたそうです。

 1%の金利ということは、1億円を1年間まるまる融資し続けても100万円にしかなりません。一度の焦げつきがなかったとしても100万円にしかならないのです。つまり、人件費も出ないという、損するだけのバンクです。それではやっていけませんので、損失分を補うために始めたのが、ap bankフェスティバルという音楽イベントなのです。3日間で8万5000人ほどの観客が集まります。一流のミュージシャンがずらっと出演しますが、全員無償です。手弁当で来てもらっています。その3日間で2億円の利益がでますが、うち1億円は税金に持っていかれてしまうのです。残った1億円は、原資としてap bankの活動を支えています。ここの九州の佐賀や福岡にも融資されたところがありますよ。このような形で何とか活動を続けているのがap bankです。

 

 市民バンクの話をしていくのに、もう一つ別の話をしたいと思います。先ほど戦争の話をしました。僕はこの戦争と密着した問題が、石油の奪い合いだと思っています。実は、その石油に関してピークオイルという重大な問題が今起こっているのです。ピークオイルという問題は、この三つのグラフを合計すると出てくる話です。まず、一つ目のグラフ。縦の長さが油田の大きさです。横軸が発見された年度です。世界の巨大な油田は1980年よりも前に見つかっています。その後は大きな油田は見つかっていません。地質学的に世界中の油田はもう見つけ終わっていますので、今後新たに巨大油田が見つかる可能性というのはほとんどないのです。そして、二つ目のグラフ。これは石油の消費量のグラフです。どんどん増えています。ちょっとなだらかになっている時期が、オイルショックです。オイルショックも喉元過ぎれば熱さ忘れるで、その後はどんどん石油の消費量が増えています。そして、三つ目のグラフ。これは油田から採れる石油の量のグラフです。油田はガソリンタンクのようにきれいに入っているわけではなく、地層の岩盤間に挟まっています。そのため途中までは採れる量も増えていくのですが、ピークを迎えると急激に採れなります。アメリカの油田のピークは1971年。それ以降現在に至るまで、アメリカの石油の量というのは生産量が減り続けています。この三つのグラフの時間軸を合わせてみると、こういう事実がみえてきます。

石油は昔見つかったけれども、その後は見つからない。今後はもっと見つからない。石油の需要は、どんどん増えていっている。石油の生産量はピークを迎えると急激に落ちていく。

従来私たちが聞かされていたのは、石油はあと30年〜50年内でなくなる。なくなったとき大変だ、といわれてきました。でも、石油が問題を起こすのは、そこではないのです。石油が実際に問題を起こすのはここ(3つのグラフの交差点)です。石油がなくなる前に、需要が生産を乗り越えてしまう地点があります。これをピークオイルとよびます。石油が足りなくなる時点が問題なのです。

 逆にこれを企業の側から見ると、この地点が金儲けのポイントになります。このピークになった時点で、石油を握っているやつは大儲けができます。さて、このピークはいつごろ来るのでしょうか。多くの人たちは2010年ごろと言っていました。来年ですね。石油産業といってもさまざまです。最上位が油田、最下位がガソリンスタンドです。どこが一番儲かるかというと、最上位の油田です。では、来年になったらどうしましょうか。皆さん車には乗らないでもらって、電気も使わないで、という生活はできないですよね。ということは、やはり高くなっても買わざるをえないことになります。ところが、2008年の11月、国際エネルギー機関(IEA)が現在生産中の原油について新たなグラフを出しました。これによるとピークを迎えているのは、2007年です。石油はもうピークを迎えています。すでに2007年にピークを迎えていたことを、石油企業は当然知っていました。石油企業が収益をあげ続けるためには、できるだけ多くの油田を握ることがいちばん大事です。

 これが世界の石油の確認埋蔵量のグラフです。なぜ、イラクはねらわれたのでしょうか?大量破壊兵器は、持っていなかった。9.11テロとの関係も曖昧です。ニジェールからウランの密輸をしようとしたというのも、でっち上げでした。今や、ほとんどのアメリカの閣僚はそのことを認めているのです。だったらアメリカ軍は「100万人以上殺してしまって、ごめんね」と言ってイラクを去るべきですね。なのに、去ることもしない。いまだにアメリカはイラクにいる。なぜそこにいるのか。石油があるからですね。そして、次にアメリカが襲う予定でいるのが、イランです。石油を持っているからです。そして、チャベス大統領を幽閉しようと計画していました。彼はベネズエラの大統領です。ベネズエラが石油を持っているからですね。

 実は世界の中の紛争地は五つに分類することができます。紛争地は必ずといっていいほど、石油が採れるか、天然ガスが採れるか、それらのパイプラインが通るか、鉱物資源が豊かか、水が豊かか。この五つの中でしか、紛争は起こっていないのです。よく宗教紛争だ、民族紛争だというけれども、それは後から取ってつけた理由です。そうではなくて、実際には金もうけのために戦争は行われている。例えば、チベット。あそこには莫大な鉱物資源が埋蔵されています。中国はそれを採掘したくて、2004年に青蔵鉄道という世界でいちばん高いところを走る鉄道を作った。今、なぜこれほどチベットは中国から圧力をかけられているのでしょうか。チベットではさらに巨大な油田が見つかっているのです。そのために、チベットはねらわれているのでしょう。

 例えば、東ティモール。ここは独立した途端に、海洋油田(ティモール・ギャップ)をオーストラリアに奪われています。インドネシアのアチェが、どうして独立できないのか。そこには巨大な天然ガス田があり、そこから日本に天然ガスを輸出しています。そういう形で、実はどこもかしこも資源と関わって紛争が起こっています。だから、もし戦争を避けたいと思うのであれば、エネルギーを自然エネルギーに切り替えていくしかありません。それが平和に向かっていく近道になるのです。ところが、日本では自然エネルギーと口に出そうものなら「高くて不安定で役に立たない子供のおもちゃだ」というふうにいわれるわけです。「自然エネルギーなんて、無理なんじゃないの?」というふうに思うかもしれませんが、そうでもないのですよ。

 その話の前に、もう一度先ほどのガザの事例を紹介しましょう。ガザはイスラエルの隣にあり、東地中海に面する小さなパレスチナ自治区です。しかし領海権(沿岸航行権を含む)はイスラエルが握っています。1999年にイギリスのブリティッシュ・ガス会社と共に、イスラエルはガザ海洋地区の資源を調べたのです。そうしたら、巨大な海洋ガス田が見つかったのです。年間40億ドル程度を生み出すようなガス田です。イスラエルはこれを渡したくなくなりました。もともとイスラエルが自治を認めた海域ですよ。ところが、イスラエルの持っている海洋ガス田よりもはるかに大きなガス田が見つかってしまった。これはこのままいくと、ハマスの資金源になってしまう。イスラエルは何としても、そのガス田を維持したいと思っていたわけです。

 ガザ紛争が起こり始めたときに僕が非常に疑問を持ったのは、なぜ漁村が爆撃されているのか、ということです。漁村や漁船が次々爆破されていくのです。それは魚を取るための漁船です。そこからロケット弾を飛ばすような戦艦ではない。なぜ漁船を吹っ飛ばすのだろうと疑問に思っていたのです。後々調べてみたら、この海洋ガス田があった。この海洋ガス田を奪うために、イスラエルはガザを侵略したのだと思っています。ですから、従来の宗教的文脈だけによってイスラエル、パレスチナ問題を語ることはできないということです。残念ながら紛争の本質は「資源争い」という形で起こっているのだと思っています。そして、ガザが存在する東地中海地帯は、非常に埋蔵エネルギーが集中している地域なのです。

 かつてペルシャ湾地域が最も石油が採れていたのですが、今は第二のペルシャ湾と呼ばれているところがあります。そこがカスピ海です。そこにはかつてからロシアが所有していたバクー油田があります。そこからパイプラインが2本出ています。その1本は、アゼルバイジャン、グルジアを通っていきます。このアゼルバイジャンとグルジアは、共に独立しました。独立した途端に反ロシアになりました。イラク戦争のときには、ここが基地を提供しています。そうすると、そのパイプラインをロシアが使えなくなってしまったのですね。もう1本のパイプラインが通るルートは、バクー油田から上にあがっていきます。途中、グロズヌイという都市を通っています。ここがチェチェンの州都です。チェチェンは今どんな状態になっているかというと、人口100万人のうち既に25万人殺されています。そして、20万人が傷つき、15万人が難民化しています。全人口の6割が殺されるか、追い出されるか、負傷しています。世界中でもっとも人権状況が悪い国のひとつ、それがチェチェン。

 チェチェンと、中国の新疆ウイグル自治区。それとチベット。この三つはなぜそんな目に遭うかというと油田がある。もしくは、パイプライン、天然ガス田がある。そこが共通するポイントです。ロシアはチェチェンを通るルートだけは死守したいのです。だからチェチェンを徹底的に弾圧することになったのです。もう一方のアゼルバイジャン、グルジアのルートについては、2005年にジェイハンという港を通るバクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン(BTCパイプライン)が新しく作られました。日本の伊藤忠商事、国際石油開発も権益を有しています。ロシアの影響力は大きく低下しました。そして世界が2008年の北京オリンピックに注目しているころ、ロシアはグルジア国内に攻め込みました。「おまえたちの好きにはさせないぞ。いつでもこんなパイプラインなんか吹っ飛ばすことができるのだからな」という形で、圧力をかけました。このルートは絶対に有益です。このままエジプトまでつながっているのです。ところが、一カ所だけ迂回しています。そこがガザです。ですから、このパイプラインから考えても、イスラエルにとってガザ地区はとても邪魔な位置にあるのです。どうしてもガザを奪いたかったのです。

 僕は金儲けのための石油の奪い合いが、今の戦争の大きな根本的原因の一つになっていると思っています。だからこそ、自然エネルギーに変えていきたいのです。ヨーロッパ、アメリカは、自然エネルギーに切り替え始めました。非常に簡単な質問があります。皆さんが政府の役人なり政治家なりに会う機会があったら、一言聞いてみてください。「100年後のエネルギーは何ですか?」。これは日本の政府が出しているグラフです。石油は40年分しかありません。天然ガスは61年分しかありません。ウランは64年分しかありません。石炭だけは227年分ありますが、石炭を使うと天然ガスを使ったときの2倍の二酸化炭素が出てきます。地球温暖化に加担してしまいます。では、100年後のエネルギーは何でしょう?自然エネルギー以外に存在しないのです。自然エネルギーは可能性ではありません。必然です。それ以外に得られる手段がないからです。

 ヨーロッパは自然エネルギーにシフトしています。それはバックキャスティングという思考方法を取るからです。100年後の未来は自然エネルギーしかない。だったら、50年後にはどこまでいっているべきだろう。20年後にはどうなっているべきだろう。今、取るべき施策は何だろう。将来からバックして、キャストを決めていく。配役を決めていくわけです。このバックキャスティングの思考方法をとれば、自然エネルギーしかないのです。ところが、日本だけは世界で唯一そちらに向かっていない国です。何かつまらないアイデアとくだらない改善を加えて、そこに未来があると思い込もうとする。さすが竹やりでB29を迎え撃つだけの民族性があるなと思うわけです。自分が気持ちよくなるためであれば、事実をねじ曲げてしまう。日本だけが世界で唯一、自然エネルギーに向かっていない国です。このばかげた資源略奪のために、悲惨な戦争が行われているのもかかわらず。その戦争に使われている資金、これは莫大です。それを別のことに使ったらどんなことができるだろうと考えてみました。

 一つ目、いちばん効果があるのは、途上国の債務をなくすこと。実は、途上国は先進国に借金をしました。ところが、元本だけでいうと、とっくに返済は終わっています。ところが、金利が金利を生んでいくので、永遠に返し終わることはありません。途上国はこの借金を、必ず外貨で返済しなくてはならないのです。よその国に何か輸出しないと外貨は得られません。僕はフィリピンのミンダナオ島という島に行ったことがあります。そこの先住民の村に行ってきました。そこの貧困状況は厳しく、飢餓によって多くの人々が死んでいきます。たわわに実ったバナナ畑の脇で死ぬのです。パイナップル畑の脇で死んでいくのです。なぜか?彼らは自分達が食べるものを作ることができないのです。外貨のため輸出品ばかりを作らされる。残念ながら、まだ緑色をしたバナナはおいしくないし、食べることもできません。そういうものしか作っていないわけです。先住民の村の平地部分は、ほとんどパイナップルとバナナ畑なのです。山の30度ぐらいの傾斜地に、斜めになって暮らしていました。当然、お医者さんもいません。学校もありません。だから、どんどん死んでいく。当たり前につまらない病気で死んでいくという状態になっていました。だから、もし3秒に一人飢えて死んでいく子供たちを、つまらない病気で死んでいく子供たちを救いたいのだったら、まず債務を免除してやることが重要です。日本の中では、ホワイトバンド運動が5年ほど前に行われました。「ほっておけない世界の貧しさ」というのですが、これは本質的には正しくはないのです。実は、途上国にいちばん貸し付けているのは日本です。日本が貸さなければ貧しくならなかったのです。その原因を作ったやつが「ほっておけない」と言っているわけです。もし「日本がほっておいてくれたら、貧しくならなかった」のです。なのに、みんな真実を知らないがために、貧困をひきおこす社会的構図を是正できないのです。ともあれ、この途上国の借金を軍事費によって免除してしまいましょう。軍事費として使われるお金によって、世界中の兵器を廃絶しよう。飢えている人に食糧を届けよう。地雷を撤去しよう。その他もろもろ、全部やったとして何年分の軍事費がかかるだろう、という計算をしてみると、1年分でおつりがきます。たった1年分の軍事費で、全ての問題を解決しておつりがくるのです。

 ところが、この惑星に住んでいる生き物たちはちょっと変わった生き物のようで、どうやらこういう決心をしたみたいなのです。「お互いに助け合うことだけはやめよう。殺し合おう。みんなで滅びよう」という決心をした自殺の惑星です。この自殺の惑星に我々は今、住んでいるのです。ばかげたことに、経済用語で「合成の誤謬」という言葉が当てはまるケースです。どういうことかというと、小さな点では正しいことのはずなのに、全部あわせたら大きな間違いになる。例えば、隣の国が攻めてくるかもしれないから軍備を。正しいですね。隣の国の軍備のほうが強いかもしれないから軍備の増強を。正しいですね。ところがその正しいことをみんなでやっていって、自殺を余儀なくされたという惑星になっているわけですね。これは発想を逆から考えないと解決できません。この惑星に住んでいる生き物たちが、今後も行き続けたいのであれば、お互いにテーブルを出し合って話し合いをすべきです。外交努力をもっと増やし、とにかく軍事に訴えるということだけは避けるべきです。そうしないと全体が滅びます。もうこのままの社会システムでは存続できない惑星が、この地球なのです。まず僕は、お金の仕組みを変えていかなければならないと思っています。今の社会の構造は、絶対変えなければならないのです。

 アメリカ政府は貿易赤字で財政赤字、全然金がない。その金を届けているのが日本ですよね。私たちのお金がアメリカを支えています。この融資は皆さんの郵便貯金や銀行預金から出されています。私たちのお金がなかったら、アメリカは戦争できませんでした。イラクの人たちを百万人以上殺すことができたのは、私たちの貯金のおかげです。私たちの貯金が、イラクの人たちの頭の上にミサイルをプレゼントしたわけです。そのお金の流れを見てみると非常に面白い。この紺の線が、日本がアメリカ国債を買った部分。こちらのピンクの線が中国で、中国はどんどん伸びていって、今日本を抜いて世界でいちばんアメリカを支えています。だからオバマ政権になった途端にクリントンを送って、中国にまず相談に行ったわけですね。なぜならば、中国がドルを売り払ってしまったら、アメリカは崩壊するのが明らかだからです。

 これまで日本は、どういうふうにアメリカ国債を買ってきたのでしょうか。9.11事件がここ(2001年)なのです。非常に面白いことに、それまでずっと下がってきているのに、上がっていく始まりのところが9.11事件なのですが、よく見てください。9.11事件の前から増やし始めているのです。日本はどうやら超能力があるみたいで、9.11事件の前から「これは買おう」という決心をしたみたいです。(笑)そしてここがイラクに対する侵略です。そこからまた急上昇していますね。こういう形で伸びていった。そしてファルージャの大虐殺で、そこから下がっていくわけです。こういう形で、私たちの貯金は世界的紛争に使われてきました。このお金がなかったらアメリカは戦争を続けるということはできなかったという構造になっています。

 私たちの貯金の流れを調べてみると、実際かなり気持ちが悪い。郵便貯金、簡易保険、年金。これは財政投融資というところに集められます。今この財政投融資はなくなったのですが、金の行き着く先は今も同じですので、同じ言葉で表記しています。そしてそれはどこに使われているかというと、ダム、河口堰、原子力発電所、再処理工場、空港、高速道路、リゾート開発、スーパー林道。つまり、この世の中のありとあらゆる環境破壊の資金源はここにあります。海外や九州にもある水がたまらないダムなどもこれらに含まれます。

 歴史をたどると、もっとすごいのです。日本が戦争をしたときに、税金で戦争費用を賄ったのは全体の8分の1。8分の7の資金は何でやったかというと、郵便貯金です。郵便貯金を使って戦争をしました。税金の8倍です。そのお金なのですけど、当時は外地郵便貯金と軍事郵便貯金というのを持っていて、なんとアジアを侵略して植民地にした人たちから、強制的に貯金をさせていました。そのお金、いまだに返していません。2000万人分の口座が、まだ残ったままです。東京都二つ分の人口の貯金が残されたままになっています。そして戦後になるとその郵便貯金は、一律3分の1はカットされます。しかも6カ月封鎖されました。その6カ月間に、物価は6倍上がったのです。ということは、いちばんラッキーな人でサブロク18分の2しか戻ってこなかったというのが郵便貯金です。しかも下ろせるようになっても小額しか下ろせなかったので、みんなそのまま放置してしまいました。戦後10年間に、物価は300倍上がっています。そうすると、多くの人たちの郵便貯金は900分の2しか戻ってこなかったのです。ですから900万円貯金してもうすぐ家が建てられると思っていた人は2万円もらって終わりになった、というのが実際の歴史です。ところが、このうたい文句は「安全・確実・有利」というのです。非常に僕は不思議です。

 そして銀行預金の方は、先ほど言ったとおり短期国債、アメリカ国債、戦争費用という形に流れています。そして今、世界でいちばん子供を殺している爆弾に、クラスター爆弾があります。これは、兵隊を殺しません。被害者の98%が一般人。中でも4割が子供です。ですから世界で最も子供を効率的に殺している爆弾が、このクラスター爆弾なのです。これを主に作っているのはアメリカのロッキードとかレイセオンといった軍需企業なのです。例えばヨーロッパの国々では「それらの企業に融資してはいけない」ということを国会で決議したところもあります。そのために企業は、儲かるのに泣く泣く融資できないという形になっている。イスラム教はもともと軍備を作るものに融資ができません。そういう中で全く制限がないのが日本。その結果、このクラスター爆弾を作っている企業に、世界で一番融資している銀行が日本の三大メガバンクです。それらの銀行に「利子がいいから」と思って預けるということは、そのままイコール世界中の子供を攻撃するということに繋がる可能性が高いのです。

 僕がいちばん笑ってしまうのは、農協(JAバンク)です。農協は農業の自由化に反対しています。僕も農業の自由化に反対なので、農協に貯金を預けたとします。そうすると農協は金を余らせているので農林中金に集められ、そこから農林中金証券。今、みずほ証券に合併されて、そこから世界最大に世界銀行の債権を買っています。その世界銀行が何をしているところかというと「農業の自由化を進めている」ところなのです。ですから農業の自由化に反対して貯金をすると、もれなく農業の自由化がプレゼントされるという構造になっているのです。(笑)

 ですから、僕はここから定理が導き出されると思っています。私たちが祈ったり、口で訴えたりすることは、現実になりにくい。私たちの未来はお金をどっち側に預けたか、どう使ったか、どう稼いだかによって決まるものであって、私たちがいくらどんなに祈ろうが、口で言おうがそんなことは現実にならない、というのが定理だと思っています。

 では、どうしたらいいのだと考えたときに、僕は運動には三つの方向があると思っています。まず一つ目は縦です。自分自身が政治家になるなり、政治家に影響を及ぼすなりして下から上、上から下に社会を変えていこうとする動き。もう一つは横です。多くの人たちに伝えることでムーブメントを起こしていこう。従来型の運動はこの縦と横だけやって、うまくいかないとあきらめてきたのですが、実は僕はもう一つあると思っています。その三つ目の方向が斜め。全く別な仕組みを考えて、新しいやり方を自分自身でやってみせる方向です。言うならば、第3の道です。その第3の道があり得るのに、これまで私たちは銀行に文句を言ったり、国はおかしいと政治家に言ったりはしたけれど、自分たちで銀行を作ろうとはしてこなかった。僕は、第3の道がなかったことが非常にネックだったのではないかと思っているのです。僕自身は、このお金のことを気にしていたので、斜めの方向として未来バンクというものを作ったわけです。今から15年前に友人たち7人で、たった400万円出し合って作ったものです。

 お金の問題点というのをもう一つ紹介してみると、非常に面白いことに気づくのです。例えば、今サブプライム問題が起こって株価が落ちて、みんな大損しました。大損すると、必ずみんな考えるのです。この分儲けたやつがいるに違いない。そいつを捕まえてそいつに吐き出させようと考えるわけですが、残念ながら現時点に金を儲けたやつはいません。金を儲けたやつは、その株価が上がっていく時期にいたのです。つまり、過去の人間が大儲けをして、現在の私たちはその穴埋めをさせられているという構図になっています。はたと気づいてみると、これは今の経済そのものです。今現在、定額給付金というものが出されることになった。でも、その定額給付金は5年後に消費税を上げて、その人たち、5年後の人たちが払うことになります。私たちがご機嫌にそれでお酒を飲んで騒いで、その分を全部5年後の人たちにつけ回しをするという構造になっております。つまり、お金というのは時間差を作り出すことができる。その時間差を作り出してしまうことによって、すべての問題が起こっているのではないでしょうか。環境破壊というのは、今の人たちが全部の資源を食いつぶして、将来の世代に何も残さないこと。そして、絶望的な状況に追い詰めてしまう。それが環境問題ですね。財政問題は、今、とある首相がやっているように、ばんばん金を使いまくって、その分は後の人たちに全部つけ回しをする。財政問題も環境問題も、結局は今の人たちがいい思いをして、将来の人たちにつけ回しにするという構造なのです。現在の優良企業というのは何をやっているのかというと、ヤシから取れる油を使ってバイオディーゼルを作っています。その時に、熱帯林の山を全部丸裸にします。丸裸にしただけではなくて、ガソリンをつけて全部燃やすのです。こういう状況を作ってお金を儲けます。つまり、将来世代をだめにしながら、その代わりに金儲けをするというのが、残念ながら今現在の優良企業の取っている方法です。それだけではありません。例えば農業だって同じです。ずっと使えるはずの土をだめにして、今作物がいっぱい取れればいいということをやり続けている通常の農業の場合には、将来もうそこには何も育ちません。人間はそういうことをやり続けています。

 これを僕は逆にしたいのです。私たちが今の時点で多少損してでも、将来が豊かになるようにしたいと思うのです。これ、今考えると、みんなそんなばかな、と思うかもしれないけれど、昔の人はこれを普通にやっていたのです。例えば木曽檜というのがあります。ひのきというのは、杉の倍ほど成長が遅いので、100年経たなければ使えないのです。つまり、100歳以上の人というのはほとんどいないのですから、自分の世代でその利益を被った人はたった一人もいないのです。そのひのきの植林をした人の中に自分の世代で儲けた人はたった一人もいないのですよ。それは、将来の世代の資産のために作ったのです。その時には、なんと土がやせているので、背負子で栄養分豊かな土を背負ってひのきを植えていったのですよ。そして、彼らは自分自身が生きるためには、先祖が植えてくれたひのきを使うわけです。そのときには当然感謝していますよね。うちのおじいちゃんが植えてくれていなかったら、おれはこのひのきを使えなかった、と思うわけですから、当然自分の祖先をものすごく尊敬することになります。ところが、今、目上の人を尊敬しろよといわれても、本当に尊敬に値するようなことをしてきたのかな、と思うわけです。我々、将来世代から尊敬されるようなことをした方がいいのではないでしょうか。今、私たちが損してでも将来世代が豊かになりうるような仕組みを作っていった方がいいのではないかと思うのです。

 そして今、サブプライム問題が起こって、世界は非常にショックな状態になっているわけですけれども、日本はアメリカ国債を買っています。この時によく「日本はアメリカとの貿易ですごい黒字で儲けているのだからアメリカに返すのは当たり前なのだ」というふうないわれ方をします。このグラフを見てください。この3年間以外は、すべて日本が買ってあげている額の方がはるかに大きいです。ですから日本は、アメリカから貿易でもうけているのだから返すべきだという論理は全く成り立ちません。そんなのは全くの俗説であって、現実には当たらないということになっています。そして、アメリカの豊かさというのはどういうふうにして生まれたのかというのを見てみると、これはまた非常に面白い。1971年に、ニクソン・ショックというのが起こりました。年とった方は覚えていると思いますが、それまでは1ドル360円という固定為替制だったわけです。だから、1ドルは360円という固定レートでした。ところが、その頃のアメリカのドルというのは、金(ゴールド)の重さとイコールなのです。だから、アメリカにドル札を持って行くと、アメリカは必ずそれに応じた金を返さなければならなかった。ところが、アメリカはどんどん金を失い、お金を失っていった。ドルと金がイコールでつながるというままだと、ドル札が発行できない。経済的に厳しいということで、ニクソン・ショックのときに、これをイコールであることをやめたのです。これによって、アメリカは自由自在にドル札を発行できるようになりました。どれくらい出したかというと、1971年の時点と今とを比べると20倍ドル札を発行しました。そのドル札を日本に持ってきて「トヨタさん、セルシオ1台ください」と言ったら当然売りますね。そして、中東に行って「石油売ってください」と言ったら当然売りますね。アメリカが豊かだった理由は、紙くずを持っていくだけのことで、世界中からただ取りできたからなのです。1971年の時点と比べると20倍もただ取りしたのです。そのせいで、アメリカはどんどんと豊かになっていった。ところが、これがやりすぎたのです。これは言うならば、打ち出の小槌です。ドルが基本になっているから、ドルだけは崩壊しないという神話に寄りかかって、アメリカはやりたい放題をやり続けてきた。でも、サブプライム問題でアメリカにけちが付いた途端に、アメリカのドルへの不信感が高まりました。本当に信用できるのかということで、ポーンと価値が落ちてしまったのですね。昔ドルは360円だったわけですが、今は価値が20分の1に下がっている。ですから、僕は適正なレベルは1ドル18円ではないかと思っています。僕はドルが回復して、経済は上向くという話はどうも信用できません。ただこういうことは、みんなが信じればそのとおりになるので、理論どおりにはならないのですが。でも、どっちにしたところで、アメリカが没落していくのは間違いない事実だと思っています。ところが、日本の政府はそれを買い支えるという努力をしているわけです。正直なことを言って、アメリカはもう軍事費を出せるゆとりはありません。そのために世界中から軍事費を削って撤収しようとしています。なぜ、日本の沖縄に基地が残っているのか。日本は思いやり予算というのを毎年アメリカに3,000億円プレゼントしているわけです。そして、今回基地をグアムに移転するようにしたら7,000億円、ただでプレゼントするわけです。こんな気前のいい国はないわけですよ。だから、残っているだけのことで、結構悲願だった沖縄の基地問題、実は今千載一遇のチャンスです。思いやり予算をここでなくすことができたら、基地は撤去できます。そうしたら、日本はどうなってしまうのかと気にする人も多いかと思うけれど、南米のエクアドルという国はアメリカの基地を全部追い出したのです。当然、アメリカは怒り出しました。なんで、おれの基地を置かせないのだと言ったのです。そうしたら、エクアドルの大統領はこう言いました。じゃあ、分かった。条件をつけよう。アメリカがわが国に置いているのと同じだけの基地を、アメリカ国内にエクアドルの基地として置かせてくれと。アメリカの国の国内にはなぜだか知らないけれど、ほかの国の軍隊を置いていないですね。当たり前です。普通はそういうものです。そういう形で、エクアドルはアメリカの基地を撤収させました。だからといって、エクアドルがはりねずみのように軍事を増強したというわけではありません。今の時点では、戦争を起こす国というのはアメリカだけですから。アメリカを注意していればいいのです。ほかの国が起こすということはほとんどあり得ないですから、心配はいらないのです。

 さて、私たちはお金のことを気にして、未来バンクというのを15年前に作りました。その当時、たった400万円集めただけですから、周りじゅうからすぐつぶれるといわれました。我々もつぶれるだろうなと思ってやっていたのですが、意外なことに今も続いていて、今は出資額が多すぎるのでむしろ断っている状態です。現在2億円の出資額があります。そして、これまでに8億5,000万以上融資をしました。貸し倒れは今のところゼロ。だた、返済が滞っているものは2軒ほどあります。けれども、その人たちは未来バンクにだけはきちんと返そうというふうに努力をしてくれています。事業がつぶれてしまったのに、一生懸命それでも返済を続けてくれています。私たちも金儲けのためのバンクでありません。普通は返済が滞ると金利を倍にするのですが、我々の場合は返済が滞って、相手にやむを得ない状況があると、金利をゼロにしてしまいます。元本だけは返してね、という形です。あとは返済しなくてもいいですから、元本だけは戻してください、としています。

 そして、我々が融資の対象にしているのは、環境にいいことか、福祉か、市民が社会を作ろうとするような市民事業にだけ融資をする。金利は3パーセントの固定。単利で融資をします。我々15年前に始めましたけれども、10年経つか経たないかというころになると、同じようなバンクがあちこちにどんどん生まれてくるようになりました。今回この福岡に生まれました。(もやいバンク)熊本県、石川県、福島県、青森県、そして沖縄、こういったところでもバンクが作られようとしています。つまり、ほとんどすべての都道府県で、今やNPOバンクが作られようとしているという状況になってきました。なぜ僕が、多数の市民バンクが生まれることを応援するのか。未来バンクが一つ大きくなればいいじゃないかと思うかもしれない。

 例えば皆さん方の貯金というのは、郵便貯金に預けても、農協に預けても、銀行に預けても、それらのお金の使い道は必ず東京が決めています。皆さんがそのお金を使うことができるのは、公共事業を引っ張ってきたときだけ。しかも、その公共事業がどの場合も環境を破壊し、そして経済をだめにし、赤字になってつぶれて消えていく。借金だけが残る、という仕組みになっています。例えば、この辺で公共事業が行われる。もし、皆さんが自分で選ぶとしたら、もっとお金が少なくて、もっと効果的に雇用を生めるような仕組みを考えつきませんか。恐らく、考えつくだろうと思うのです。実は、皆さんがそのお金の権利を放棄し、東京に使い道を預けてしまったことに問題があるのです。しかも、地方の人の方が東京の人よりむしろ貯金の額というのは多いのですよ。なのに、東京にそのお金のその使い道を決めさせている。そして、その余った部分をやっとの思いで公共事業にもってきても、元請けは全部東京のゼネコンです。そして、下請けぐらいのところにやっと地域の事業が入るというレベルですね。同じように借金になるのだったら自分たちで使い道を決めたらどうでしょう。つまりお金というのは、絶対に地域分散するべきだ、と僕は思っています。それを地方に残しておくべきです。お金がもし自分たちの手元にあって、そこで融資なり、投資なりされると、そこには必ず雇用が生まれます。雇用された人は何か食べる必要があるので、必ず生産を必要とします。つまり、経済循環を生み出す最初の一撃は、「地域が金を持っていたかどうか」なのです。だから、地域の中にお金を残しておく。自分たちの地域にバンクを作るということは、どうしても必要なことだと思っています。だから、未来バンクは大きくなるのではなくて、各地域にバンクを作ろうとする人がいたら、その人たちに協力するという姿勢を基本にしているわけです。

 そして、複利と単利。金利に金利がつくものを複利といいます。金利に金利がつかないものを単利といいます。私たちは単利でしか融資しません。単利のお金だと、真っ平らですね。ところが複利の計算だと、こういうカーブを描くのですよ。ところが、今の経済というのはどうなっているのかというと、GDP(国内総生産:Gross Domestic Product)は対前年比ですね。つまり、これは複利計算になります。複利計算でやっていくと、この経済というのは必ず上がっていかなければ、追いつくことができなくなっています。ですが、残念ながらこんなことはあり得ません。農業でも、鉱業でも、必ず最終的には単利のお金になります。なぜかというと、有限だからです。1年を500日にしたいといっても無理です。降水量をもっと増やしたいといっても無理です。日照時間をもっと増やしたいといっても無理です。私たちが生きてこの世界は有限社会なのです。有限の社会では必ず単利の形でしか伸びなくなるのです。一時的には複利のように見えますけれども、最終的には必ず単利になります。ところが、経済という理屈だけは複利になっているので、どんどん借金ばかりがかさんでいって、追いつかなくなっていく。ですから、現在の経済は必ず破綻する形にできています。それが証拠に、100年以上保つことができた通貨はこの世に存在していません。100年以内で必ず暴落しています。なぜかというと、経済そのものが上昇を前提にしているので、持続するはずのない経済になってしまうのです。だから、我々は単利の融資をやるのです。そして、僕は単利の融資を小さく集めていけば、いずれ社会は単利の社会になると思っています。なぜかというと、皆さんが借金するとき、両方あったらどっちから借りたいですか。必ず単利の方を選ぶでしょう?企業だってもちろん単利を選びますから、ですから、単利の融資が増えることによって、単利の社会に切り替えることが可能なのです。そうすると、無理矢理に毎年、毎年事業規模を拡大しつづけなくてはいけない、なんて無理なことはしなくてもすむことになります。持続可能な社会にするためには、金利そのものが持続可能な形でなければ絶対だめなのです。サラ金のようなものから金を借りて、返済しつづけていくなんていうことはできないのです。先ほど、金利が20%などという話が出ていましたが、金利20%払い続けることとは、毎年その企業なり、個人なりの収入が20%ずつ上がっていかない限り無理なのですから、それは無理な相談だといえます。

 そして未来バンクが考えることは、お金をきちんと返済してもらうための信頼というのは年輪状になっている、ということです。どういうことかというと、例えば皆さんが大借金を抱えてしまったとします。ところがたまたま宝くじを買ったら、当たったと。そうしたら、皆さん最初にだれに返します?まずはいちばん信頼してほしい友人、家族、親戚、こういったところにまず返すでしょう?それでもまだお金が余っていたら、ある程度信頼し続けてほしい地域の信用金庫とかに返すかもしれない。まだお金が余っていたら都市銀行に返すかもしれない。それでもどうしようもなく金が余っていたら、自治体に返すでしょう。ですから、返済には順序がある。信頼の厚いものから順に返済をされるのです。ですから、この「信頼の年輪」と呼んでいますが、これの内側に入ることができれば、きちんと返済されるわけです。これまでは、脅かしてお金を取り立ててきたわけですね。担保である家を取ってしまうぞ、というように、脅かすことで借金の返済を求めてきましたが、その逆の方法もある。地域の中で、ここで生き続けていきたい。この人たちの信頼を失いたくないと思うから返済する、というような仕組みは作ることができるのです。現実に、NPOバンクは最も返済率が高い。しかも、例えば先ほど言ったように事業に失敗した人はいます。ところがその人も元本だけは何とか返そうということで、ほんのわずかな額ながら一生懸命返すのですよ。我々にとってみれば、元本さえ返してくれれば問題はないので、ほんの少しずつ返してもらうというやり方で十分です。金利は止めちゃっていますから、それ以上増えることはない。毎年ちょっとずつ返すだけでちゃんと返済がされていって、やがてはゼロにできるではないですか。

 もう一つ、また新たな発想がというのが生まれてきています。ある産業廃棄物の企業(アニータ・ロディック)の社長が、会社を上場したときの株の利益を全部ぶち込んで、信頼資本財団というのを作りました。資本というのは、従来資産のことをいう。お金持ちが偉いのだというように考えていた。これは間違いだと彼は思ったのです。資本というのは「信用」なのだ、と彼は考えました。何をし始めたかというと、無利子の銀行を作ったのです。信頼資本財団というのを作りました。例えば、ある人が事業をしたいと言ったとします。そのときに周りの人が「あいつのことなら大丈夫。おれは100万円までなら保証するよ」という人がいる。そして、「私も50万円までだったら保証するわ」という人がいる。そういう人たちがいると、その金額を無利子で融資するのです。信頼こそが大事なのであって、お金持ちが偉いわけではないのです。お金を持っていなかったとしても、友達が100人いるやつの方が偉いのだ、という社会の仕組みを作ろうとしているのが、この信頼資本財団です。

 つまり、社会の流れが変わったのです。新たな事業、新たな方向が生まれてきているのです。新たな方式を使うのか、従来の方式で滅びるのか、それを選択するのは私たちです。今日の日経新聞に、今年の経済状況が書かれていますね。(2009年4月18日) 九州は最悪だそうです。指を加えたまま、唯々諾々とせざるを得ないのでしょうか。いまこそ自分たちで社会を作っていくことを考えてもらいたいのです。今回福岡に「もやいバンク」ができました。これによって、自分たちで自分たちの社会を作っていくという方向が開けたのです。僕は、これをぜひ生かしてほしいと思います。地域にお金が回れば地域で雇用が生まれます。新しい仕組みを作り出すことができます。例を挙げると、東京の足立区にある東和商店街がやった仕組みですが、ここは学校給食が民営化されるときにその事業を受託しました。現在38校の学校給食を受託しています。給食の材料は自分たちの商店街の中から調達するのです。そして肉や野菜や紙などすべて、地域の商店街から買い叩かずに調達しています。東和商店街は、今行ってみてもほとんどお客さんがいません。人が全然歩いていない。だけど全然つぶれない。地下水脈に金が流れているからです。そのような仕組み方も、市民の力でできるのです。さらに非常に面白い取り組みも行いました。足立区役所が敬老祝い金を毎年5,000円高齢者に渡していたのです。その5,000円を「ちょっと待ってくれ。我が商店街の商品券で配ってくれないか。ただでとは言わない、5,500円分出しますから」ということで商品券が渡されることになりました。お年寄りの人たちは、もともとあまり遠くまで出ない人たちです。地域の商店街で買える券を、前の年より10%多い5,500円受け取ることができた。祝い金の総額が、なんと1年当たり4億円なのです。4億円の地域商品券を売って、その商品券は必ず地域の商店街に戻ってくるのです。つまり、その地域に循環する4億円の仕組みを作ったのです。皆さんの地域のお金を、地域で循環させるということがとても大事なのです。東京から来た企業から物を買ってしまうと、東京に流れます。そうではなくて、地域の中でお金を使っていくことが大事なのです。

 私たちが、お金に接するのは三つです。買う、働く、貯金する。買うときにはなるべく地域の物を買う。貯金するときには、やはり地域のものがいい。できれば、このような市民バンクに預けられればいい。地域の信用金庫も地域にしか融資できないから、そういうのもいい。だけど、都市銀行とか郵便貯金に預けてしまうと、みんな東京に行ってしまう。最近特に難しいとみんな思いだしたのが、働くことですね。働くときに「じゃあ、地域循環への貢献はどうやったらできるの」。すごく難しいイメージがあります。でも、難しく考えなくてもできる方法があります。例えば、先ほどの挨拶をしていたもやいバンク代表の中村さんのような人ですね。自分の収入の10%くらい飲んでしまっている人が(笑)、ここに10人いたとします。そしたら、その10人が集まって一軒の飲み屋さんをつくればいいのですよ。そしたら一人雇えますよ。だから、自分たちの経済を作るというのは、自分たちの中に回せるお金の仕組みを作っていくことです。なるべく地域の、例えば工場とかを利用して、そこで作ってもらうようにできないか。買うのだったら地域から買うことはできないか。そういうふうにしていくことで、間接的ながらその地域の人たちに雇用を生み出すことができていくのです。だから、東京から出店してきたような店からは、なるべく買わないで、地域の店から買うというのが、地域を豊かにする方法だと僕は思っています。

 そして、私たち未来バンクは新しい事業として「天然住宅」という住宅会社を始めました。非営利の住宅会社を作ったのです。とにかく長く使える住宅でなければ意味がない。300年はもたせられる住宅を目指しています。そして建築には合成接着剤や化学繊維を使いません。ベニヤ板も修正剤も一切使わない、体に悪い物は入れないという住宅にしました。

 そして、これのいちばん大事な点は、山側にお金を落とせるような仕組みにすることなのです。林業に従事する人たちが生きていくためには、その木材を高く買ってあげることが大事なのです。今日本の中では通常の家は、26年の寿命しかありません。男が家のローンを組む平均年齢は34歳です。つまり、60歳、定年ぴったりで家が壊れるのです。退職金で家を建て直して、それがもう一度壊れる頃人生が終わる。つまり男の一生というのは、家一軒と大体バーター取引になっているのです。(笑)

 ところがヨーロッパの住宅を見てみると、数百年前に建てた住宅に住んでいる。彼らは収入の点では日本よりずっと少ないはずなのに、ずっと豊かに暮らしています。何が違うのか。長く使える住宅を使っています。数百年もたっていますから、とうの昔にローンは終わっていますね。無駄な負担をせずに済むわけです。人生最大の支出というのは家なわけですから、それはできるだけ長く使える物にしなければだめなのです。杉にせよ育つまでに50年はかかるのだから、50年以下で壊れるような家は、そもそも絶対建ててはならないのです。ラジアータパインというニュージーランドの松ですけど、これで造ったベニヤ板は、接着剤の強度が半分に落ちるに5年間です。ベニヤで家を造って、熱帯材を使っても接着剤の強度が半分に落ちるのに15年です。そんな物で家建てていいはずがないのです。きちんと長く使える住宅を造るべきなのです。

 ところが、長く使える家はどうしても値段が高くなります。そこで考えました。どうやったら、お金持ちでない人に家を届けることができるか。一つ目は家自体を安くする。二つ目は家のローンの金利を下げられる方法を作る。三つ目は生活費を無理せずに圧縮できる方法をアドバイスする。この三つを考えました。そして、一つ目の家そのものですが、極めて早く造れる仕組みにしました。これ実は、基礎があってそこから上物が建つまでに二日半です。日数を節約する施行方法で、非常にコストを圧縮することができた。この辺と比べると高いですが、都内の坪単価で70万を割るというところまでもってくることができました。そうすると大手のハウジングメーカーの価格と並ぶのです。でも向こう側は長くもたない、こちらは長くもつという住宅を造りました。そしてローンというものを一生懸命調べていったのです。みな人生最大の買い物を家だと思っていますが、家ではないのです、家のローンなのです。家の値段を気にする人は多いのですが、金利のローンの額を調べる人はあまり多くありません。本来全ての人が、この家のローンというものをきちんと調べるべきだったのです。例えばこの20年の金利は、上がり下がりしています。このいちばん高かった時に、固定金利で借りてしまったら今頃破産しています。でも、今の低い金利の時期に変動金利で借りてしまったら、上がったときに追いつきません。つまり、金利が高い時期は変動、今みたいに金利が安い時期には固定、これを必ず選べというのが一つ特徴になります。そして金融機関に折衝して、信用金庫に新しい仕組みを作ってもらうことにしました。家のローン3,000万円ローンを組むときに、オフセットモーゲージローンを取り入れたのです。同じ銀行に500万貯金をしていたとします、そしたら3,000万借りたのだけど、自分は500万同じ銀行に貯金している、その場合に、この500万円に対応する部分の金利をゼロにするのです。これがオフセットモーゲージローンという仕組みです。この仕組みを入れることによって、本来余裕資金をきちんと持ち続けるということは絶対に必要なのですが、ところがほとんどの人は頭金に入れちゃうわけです。なぜならば、そうすれば金利負担が減ると思うからです。そんな無理をしなくても成り立つ仕組みとして、オフセットモーゲージローンを入れてくれ、という交渉をしました。金融機関側はそれを入れたいということで話を進めてくれています。例えば、ここで市民バンクを作って現実に我々はやるのだぞ、という勢いを見せると金融機関がやっと聞く耳をもってくれるのです。地域の信用金庫とか地銀にこのような仕組みを作らせることは、多分可能だと思います。私たち未来バンクは現実にできています。例えば今、家賃を払いながら5年後に頭金を500万ためてから買おうと思った場合の負担、総額で6,430万必要です。ところが、今すぐ買った場合でも5,995万。そして、そもそも5年後に500万ためるつもりだったのだから、365万だけ繰り上げ返済しようとした場合には5575万。返済の年数はそれぞれ5年ずつ圧縮される。実は金利が安い時期には、むしろ買ってしまった方が得になるという仕組みも実際にできるのです。こういうのを徹底的に計算し、そして金融機関に折衝し、その仕組みを作るということを私たちは今やっています。

 そして人生第一の買い物が家のローンですが、では第二位は。生命保険です。皆さん生命保険に入るのですが、日本人は入り過ぎなのです。平均で月額4万3,833円払っています。でも、これは払い過ぎなのです。実はアメリカの生命保険会社と比べると、日本の生命保険料は4倍高いのです。でもなぜみんなが生命保険をかけざるをえないかというと、万が一を考えるわけです。例えばずっと入院したらどうするのだと、お金がなくなってしまうではないかと不安なのです。でも、健康保険には高額療養費という制度が必ず付いていて、約100万円以上はかからないのです。だから、100万円以上かけていても無駄になります。だから、あまりかけ過ぎてしまうと無駄になる。では、2年以上入院せざるをえなくなったらどうしたらいいのか。そのときには身体障害者の基準があります。必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活が極めて困難なので、労働による収入をうることができないという条件にあたるので、ほとんどの場合身体障害者の2級に該当します。そうすると医療費は無料になります。そして障害年金を受け取ることができます。だから、そこも掛け過ぎです。世界でいちばん安い保険が、なんと日本にあるのです。それが県民共催などの共済保険です。あれは極めて安い。それから、ネット保険も安いです。その安い保険を使っていった場合、同じぐらいの補償をするのになんと8,500円で足りてしまいました。私たちはこれを今現実にアドバイスとして、相談に来られたかたの相談にのっていますあなたの場合この保険についてはこのまま取っておいた方がいいですよ、こっちは解約された方がいいかもしれません、と助言します。最終的にその方の選択ですが、大体ほとんどのかたが月額で2万円から3万円安くなっています。2万円から3万円安くなったらその分、家のローンに回せますね。そういうことをアドバイスするわけです。

 保険に入るときにみんな気にするのはこういうことです。30年後の満期には1千万円もらえる。将来1千万円もらえるのだったらそれもいいかな、というふうに思ってしまう。ところがその人が月額10万円のアパートに住んでいたとします。そうするとそのアパート代の方も、同じレベルであれば、インフレに合わせて上がっていくのです。この20年間は、平均して経済成長が3.7パーセントありました。今後下がって3パーセントとして、実はこの30年後の家賃、10万円だったものが24万2,000円に上がっています。そうすると、1千万円受けとっても41カ月分の家賃を払うとなくなってしまう。1千万円もらえると大きいなと思いきや、実は全然大きくないのです。でも、もしその人が家を持っていたら、そののちには家賃を払う必要がない。しかもこの間の家賃を合計してみると5千710万円もあるのです。つまり家が買えるということです。それ以外に保険料を払うわけですから、お金を払いすぎています。ここではっきり言えることは、将来の収入を得ることは将来の支出の削減と同じこと。どちらが得をするかというと、将来の収入をえることよりも、将来の支出を減らした方が必ず得になります。ですから、将来にお金をえるということを考えるのではなく、将来支出をせずに済むことを考えた方が得になるのです。例えば省エネ商品にして電気料金を安くしよう。雨水利用を入れて水道料金を安くしよう。自然エネルギーを入れて電力会社の送電線を切ってしまおう。そういう形ですね。自分たちでやっていくということの方がはるかに得になっていくのです。

 それを地域ごとで考えてみると、例えば断熱というのを考えた場合には、こういう窓を変えるといいのです。北海道の窓なのですが、普通のアルミサッシの内側に木製のサッシが一つ入っている。これ一つで抜群の断熱性能です。なぜならばアルミと木材を比べると木材は圧倒的に断熱効果が高くて、1800分の1しか熱を伝えません。ですからこの木製のサッシを一つ入れただけで、暖房費がずっと安くなる。実は、家の中ではこの窓の部分から逃げていく熱が最大です。熱の半分は窓から逃げていますから、窓対策をするというのが大事なのです。そこで我々は新しい仕組みを作りました。あるマンションで、冬場になるとすごく結露してしまう家があったのです。そこに木製のサッシの断熱内窓「断窓」というものを商品化して作りました。これが今どんどん伸びています。それをしてみたらどうなったか。マンションで壁がぐちゃぐちゃ、窓もびしょびしょだったのが一切結露しなくなりました。ガラスの温度を測ってみたら外のガラスが6度の時に内側のガラスが16度。なんと10度も差があります。それによってもう結露はしない。しかもものすごく暖房代が浮く、という商品ができました。こういうものに私たちは今融資をしています。そしてもう一つ、これはペレットストーブ。材木のカスをきゅっと固めたものがペレットです。つまり自然エネルギーの暖房器です。この暖房器は新潟の小さな企業が作ったのですが、世界でいちばん熱効率が高いのです。なおかつ従来は使えなかった木の葉、根、アシ、ヨシに至るまで何でも燃料にすることができるという優れものです。これを天然住宅ではお勧めして、入れる方には融資をする。そうすると山側(林業の業者)に積んであるこれは木材の皮です。従来はこれらを、お金を払って産業廃棄物として燃やしていました。これが全部燃料に代わるのです。そうなるとどうなるか。日本全体におけるエネルギー自給率はたったの4%です。例えば北海道において暖房をこうやって地域の木材に変えると、エネルギー自給率50%を超えます。このような仕組みによってエネルギー問題も解決可能になります。

 家の中でいちばんお金がかかっているのは電気です。電気には必ず四天王がいまして、その4つだけで2/3の電気を食っています。それはエアコン、冷蔵庫、照明、テレビです。私たちは引っ越して来られる方がいると、これらのものについては我々がリストを出します。そのリストから選んでもらったら、その額全額融資します。なぜそういうことができるかというと、ものすごい勢いで省エネが進んだのです。95年製品を100としてどれぐらい省エネが進んだか。すべての品物で50%以下になっています。そしていちばんすごいのが冷蔵庫。冷蔵庫の場合は90%。たった10%の電気で同じ性能があるという状態になっているのです。だから我々はこの融資をしても、安くなる電気料金だけで返済することができるから、融資をするのです。それによって、私たちの住宅に引っ越してきた方については、家具、家財、電化製品は全額融資です。そしてその人の負担は従来の電気料金、ガス料金と灯油代と合計したものと比較すると、それにローンを加えても同じ額で済みます。そうすることによって将来を楽にしていくということを考えるわけです。

 この地域(福岡)はときどき水が足りなくなる地域ですが、その水も家庭の中ではほぼ4つで消費しているのです。飲み水なんて1日2リットルが限界ですからね。それ以上飲みたかったらアルコールしかないですね。(笑)その4種類というのは、炊事、洗濯、風呂、トイレ。この4つなのです。ということは、ふろの残り湯で洗濯をすると1/4消える。雨水を使ってそれでトイレを流せば、それで1/4消える。半分に消えるということです。こういうふうにすると水道料金を得しますね。下水道料金も安くなります。ダブルで得します。なおかつ将来の支出をしなくて済むようになっていく。家の中の支出を見てみると、電気が最大です。車よりでかいですよ。ですから、まず電気を節約すると得になります。次に得するのは車。その次が暖房のガス。そして、次が水道です。ですからこう考えてみるとこれらのものを変えていくことによって、負担を避けることができる。私たちは、例えば働かなくてはいけないと思うときに、なぜそう思うかというと、「だって生活費がないでしょう、だから困るのよ」。ではその生活費とは何かと考えてみてください。例えば家賃、電気料金、ガス代、電話代というふうに考えてもらったとすると、例えば省エネした後に自然エネルギーに切り替えると、少ない額で替えることができます。雨水利用で水道料金も下げていくことができる。そして、インターネットをうまく使うと、スカイプといって無料の電話に変えることができる。そういうふうにしていくと支出の方を減らすことができるのです。無理に自分の信念を曲げてまで働かなくてはいけないというコースから離れることができるようになるはずです。こういう仕組みを作ることによって相手に損をさせない形で環境を良くする。と同時に経済的に得させるということが可能です。

 ここで、お金について全く別の発想を、ぜひ皆さんに持ってほしいのです。たとえば農家。農家の方にお金を貸して農作物で返してもらう、という仕組みを作ったらどうなるか。そうすると農家はお金を先取りすることができますね。農家が一生懸命有機無農薬をやって、いちばん困るのは売り先が見つからないことです。ところがこの金を借りると売り先がついてくるのです。農家の取り分というのは、一般的には外で売っている価格の12.5%しか取れていません。この場合の作物が仮に半値だったとしても農家の収入は増えます。農家にお金を出した分を債券化しましょうか。はがき商品券という形でしてみましょう。私は都会に住んでいて、農家の人からお米を買うのです。そのときにはがきを使います。僕のうちの米櫃が減ってきたら、融資をした農家特製のはがきを投函する。そうするとその農家の方にはがきが届いて「田中さんのうちはそろそろお米がないのだな、送らなくちゃ」ということで米を送ってもらう。これは地域通貨に応用することもできるし、これは偽造が不可能です。なぜならば農家の側が書くのですから。それでも心配だったら大根汁か何かであぶり出しにしておけばいいのです。(笑)そうすればこれは偽造困難なはがき商品券という仕組みにも応用できますね。だから私たちが地域を豊かにするためにできる仕組みというのは、実は考えていくとたくさんあるのです。それによって自分が持っている資産だけで暮らせる暮らし、これがいちばん望ましいと思っています。ただ、そこまでの資産を持っている人はあまりいないです。

 ですが、それ以前に資産と負債というものをみんな勘違いしているのです。車、別荘、ヨット、これは資産ではないですよ、負債です。なぜならば車を持っているとガソリン代、車検代、保険代、駐車場代と金を失っていますね。持っていて金を失うものは負債なのです。持っていて金をえられるものが資産です。でも、その資産にはもう一つ定義があります。収入がえられるものだけではなく、支出を減らせるものも資産なのです。雨水利用をやって水道料金が安くなった。それは資産です。そして、その中からこういう社会になっていくのがいちばん望ましいと思っています。今の社会はみんな会社にぶら下がって生きていますから、会社から首になると生きられないと考えます。これはセキュリティー低過ぎです。(笑)こういう生き方は望ましい生き方とは思えない。そうではなくて、自分を中心において、会社にも勤めていて会社から収入もえるけれども、と同時に地域の農家のお手伝いをして、野菜がもらえる。それは資産です。それと同時に全然儲かりはしないけれども、実費だけ受け取るという形でNPOに関わるとか。この、「もやいバンク」にかかわるとか。実費しか受け取れないから全然儲かるわけではないけど、それでも資産になります。それ以上に僕が望ましいと思うのは、自分自身の能力を上げていくことによって、お金を得る、もしくは野菜がもらえるというような資産を持つことです。それは例えば、私はビデオが作れます、写真が撮れます、映画が作れます、音楽ができます、字を書くことができます、イラストができます、なんでもいいです。そういうことができるようになることによって、自分がやったことで何らかの報酬がえられる。別に金でなくて野菜でもいい。そういうものによって成り立つ暮らしができたとしたら、仮に会社を首になったとしても自殺しなくて済みますね。僕はこれを「生活の百姓」と呼んでいます。百姓というのは百の仕事を持っているから、不作でも大丈夫な生き方なのです。ですから生活のセキュリティーを高くするために、さまざまな収入源を持ちうるような生き方をしてほしいのです。そうすることによって私たちは、今よりもずっと自由になれる。まるで会社の奴隷のようになるというのは、僕は実に不自由なことだと思います。そうではないやり方が目指せるのです。  

 これがお金にできることなのです。私たちは残念ながら今までお金に使われてきてしまった。だけど、お金は使うものです。私たちがお金の主人になってお金をこき使うことによって自分が成り立つような仕組みを作っていくべきです。お金が主人じゃない。我々が主人で、お金は使うためにあるのです。それをどうこき使うかというふうに考えてほしいと思います。それができるきっかけをついに福岡は作ったのだと僕は思っています。つまり「もやいバンク」を作ったことによって、地域の中を自分たちでコントロールすることができます。ある事業をもっと伸ばしたいと思ったらそこに融資ができます。保証人もたてますので、万が一の貸し倒れはないのです。未来バンクは金利3%ですが、これは手間賃が1%と100人に貸したら2人ぐらい返せなくなるのではないか、ということで3%にしているのです。ところが万が一のときにはほかの人が担保を提供していますから、そこから取れるので万が一はありません。自分たちで自分たちを信用し合うことによって、金利は限りなく下げていくことが可能になります。たった1%の金利でも持続した事業をやっていくことはできるのです。ところが今、銀行などでも15%という金利を取るのですが、そんなところから借りてはだめです。というのは、15%以上の成長率なんて絶対に無理ですから。そういうことではない仕組みを自分たちで作ることができます。そのきっかけをつかんだのが僕は今回の「もやいバンク」設立だと思っているのです。ぜひ、皆さんがたが自分たちの地域の中を見直すことから始めていってほしい。それによって、ここの地域は大丈夫だという状態を目に見せてあげてほしいと思います。各地域は今残念ながら公共事業をもらうことに躍起になってしまっている。そうではなくて自分たちの経済を作ることで、自分たちのところはいけているぞというモデルを、ぜひほかの地域にも示してほしいと思います。ぜひこれからも頑張ってください。

 どうもありがとうございました。

2009年4月18日、九州大学西新プラザ大会議室にて

*本資料は西日本新聞社出版による冊子に収録される可能性があります。

5月30日18:30〜

田中 優(たなか ゆう)

1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」 理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「中間法人 天然住宅」副代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、大東文化大学の非常勤講師。  著書(共著含む)に『環境破壊のメカニズム』『日本の電気料はなぜ高い』『どうして郵貯がいけないの』(以上、北斗出版)、『非戦』(幻冬社)、『Eco・エコ省エネゲーム』『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方』『戦争をしなくてすむ30の方法』『世界の貧しさをなくす30の方法』(以上、合同出版)、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』(岩波書店)『地球温暖化/人類滅亡のシナリオは回避できるか』(扶桑社新書)『おカネで世界を変える30の方法』(合同出版)『今すぐ考えよう地球温暖化!1〜3』(岩崎書店、子ども向け)

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