音楽知覚認知研究 Journal of Music Perception and Cognition
1998, Vol. 4,No. 1, 26-42
展望 Tutorial
日本音楽知覚認知学会

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このページは、日本音楽知覚認知学会の許可を得て作成しました。


 

リズム知覚研究の動向

末富大剛       ・       中島 祥好
d-sue@ai.ad.kyushu-id.ac.jp,  nakajima@kyushu-id.ac.jp
九州芸術工科大学 音響設計学科 中島研究室
〒815−0032 福岡市南区塩原4丁目9−1

概要

人間特有の聴覚コミュニケーションである、音声および 音楽においては、リズム知覚が重要な役割を果たす。本論文では,聴覚におけるリズムの知覚について,古典的 な研究から最新の研究にいたるまで概観し,混乱が生じやすい「リズム」という語の意味を,知覚心理学の立場 において整理した。知覚心理学におけるリズムとは,時間軸上で続いて経験される事象の秩序のことを表してお り,リズムは時間軸上のゲシタルトであると考えられている。リズムには,主として視覚が捉える空間上のゲシ タルトと似ている点もあるが,時間上のゲシタルトに固有の特徴もあり,時間軸上の事象の群化および階層化が, リズムの形成に重要である。

キーワード: リズム,ゲシタルト,時間知覚,知覚心理学
 

Rhythm as viewed in perceptual psychology

Daigoh SUETOMI and Yoshitaka NAKAJIMA
Department of Acoustic Design, Kyushu Institute of Design
4-9-1 Shiobaru, Minami-ku, Fukuoka 815-0032, Japan

Abstract

Rhythm perception plays a very important role in our auditory communication, such as speech and music. This paper is an attempt to review empirical studies of rhythm from the viewpoint of perceptual psychology. Rhythms are defined as temporally organized patterns of experienced events, and often they are considered to be Gestalten in time, which have both similar and different aspects when compared with Gestalten in space.

Keywords: rhythm, Gestalt, time perception, perceptual psychology



目次

リズムとは

時間上のゲシタルト
   空間上のゲシタルトと似ている点
        類同の原理
        時間的近接の原理
   時間上のゲシタルトに固有の特徴
        時間的規則性の原理
            時間の格子
            主観的リズム化
            英語のリズム・日本語のリズム
        時間の異方性
        階層性
        時間とリズム

聴覚における問題点
            知覚的な音の始まり
            音脈とリズム

まとめ



リズムとは

    「マンボのリズム」や「好景気・不景気のリズム」といったように,全く性質の異なるものに対して「リズム」 という言葉が用いられる。後者の例では,好景気と不景気が交互にやってくるという「繰り返し」を表しており, 前者の例では,「繰り返し」に加えて,「繰り返されるパターン」という意味も含まれる。

    リズムという言葉を広辞苑第四版(岩波書店)で引くと,「1.律動。調子/2.詩の韻律/3.音楽で,音の強 弱が周期的に繰り返される構造。節奏。拍子。」と書かれている。また,日本語大辞典(講談社)によると, 「1.運動の秩序/3.続いて,または繰り返して起こる事がらの組み合わせ。また,それによって起こる快い印 象」と定義されている。2つの辞書からだけでも,リズムという言葉が広い意味を持っていることがわかる。

    Gabrielsson(1982)によると,音楽におけるリズムの体験には,拍子・複雑さなどの「リズムの構造」,テ ンポ・前進感などの「リズムの動き」,また,いきいきした感じ,静かな感じなどをあらわす「リズムの感情面」 といったように,さまざまな側面がある。「リズムが感ぜられる/リズムが流れていない」といった表現に見ら れるように,我々が日常用いるリズムという言葉には,価値観を含めることもあり,リズムは,評価することの できる対象として扱われることがある。しかし,ここでは,「音楽的である」,「心地よい」といったような価 値観を含めず,主として,知覚心理学の立場からリズムについて論ずることとする。

 知覚心理学におけるリズムとは,続いて起こる事象の秩序を表す(Fraisse,1982)。リズムは時間上のゲシタ ルトであると考えられている。知覚心理学的なリズムの研究の基本は,時間パターンの測定や制御を,ミリ秒 (ms)の精度で行い,時間間隔の物理的な長さと,それに対する知覚的な長さや知覚内容を照らし合わせること である。これによって,日常の経験や,音楽の知識を背景とした体験からだけでは十分に理解できない事柄を捉 えることができる。このような意味で,知覚心理学的な手法は,リズム体験を解明する上で,有力な手 法となりうる。


 
 

時間上のゲシタルト

 リズムが知覚されるためには,時間上に位置づけられる事象が知覚されなければならない。時間の知覚よりは 空間の知覚に優れた視覚においても,刺激を点滅・運動させ,時間上の事象にすることでリズムが知覚される (Koffka,1909)。一方,話し言葉や音楽においては,重要な情報が,時間上の事象ないし事象間の時間構造に 含まれる。リズムの知覚は,時間知覚に優れた聴覚が得意とするところであり,このことが,話し言葉や音楽な どの聴覚コミュニケーションを支えている。

空間上のゲシタルトと似ている点

 視覚研究において発展してきたゲシタルト心理学の考え方によれば,多数の部分が与えられた場合の全体の知 覚は,個々の部分の知覚内容の総和ではなく,大きなまとまりとしての知覚内容であることがわかっている。な かでも,いくつかの対象,事象が,知覚の上でどのようにまとまるかという,群化の原理が指摘されている (Wertheimer, 1923; Metzger,1953)。時間上のゲシタルトであるリズムにおいても,空間上のゲシタルトと似 ている面がある。

類同の原理

 空間上のゲシタルトに関しては,いわゆる「よい形」が知覚上形成されやすいということが知られている。 「よい形」とは,単純性,緊密性,均等性,対称性などをもつ形のことを意味する。視覚的に同じ柄のものどう しがまとまりやすく,また,近くにあるものどうしの群が形成されやすい。これらの原理は,それぞれ,「類同 の原理」,「近接の原理」と呼ばれており,群化の原理の一つに数えられる。

 Royer and Garner (1966) は,聴覚システムが捉える時間パターンにおいても「よい形」があるのかどうか,あ るとすればどのようなものなのかを調べた。強さ,継続時間がほぼ等しく,質的に異なった2種類の音 1 および 0 が8個並んだ系列を,1秒あたり2音の呈示速度で反復呈示したものを刺激として用いた。被験者には,呈示され る音に合わせて 1,0 に対応するキーを押すことを求めた。 その結果,111100001100110010101010 のように直観 的にみて単純な刺激パターンにおいては,多くの場合,キーの押し間違いが少ないことがわかった。すなわち, 単純な刺激パターンは容易に把握されることがわかった。 逆に,1101001011011010 のように,直観的にみて複雑 な刺激パターンは把握されにくい。1111 のような一連系列や,1010 のような一重交替系列は,同じ音のつながり, もしくは同じ音の単純な繰り返しでできていることから,知覚上のまとまりの形成には,視覚同様,聴覚において も,類同の原理が働いているとの見かたもありうる。

Play Button11110000 「1」は、周波数 1000 Hz の正弦波を、「0」は、50 Hz から 10000 Hz までの帯域雑音を表している。いずれの音も、継続時間は 50 ms (10 ms の立ち上がり・立ち下がり時間を含む)である。
Play Button11001100
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時間的近接の原理

 時間的近接の原理とは,時間的に近い音どうしがまとまりやすいことをいう。日常的に知覚されているリズム は,時間的近接の原理が働いた結果生ずる知覚内容であることも多い。応援団の「三三七拍子」を例にとる。こ れは,時間的に近くにある3つの音,3つの音,7つの音がそれぞれ群をなして知覚されるものであり,時間的近 接の原理が働いていると考えられる。「三三七拍子」という名称は,時間的近接の原理によって知覚的にまと まった,各群の音の数に由来する。

 時間的近接の原理が働いていることは,実験によっても確かめられている。Povel and Okkerman(1981)は,短い時間間隔と長い時間間隔との交替系列(図1)を呈示したときに,短い時間間隔を作る2つの音どうしがまとまり,ひとつの群が形成され,その群を単位とする知覚が生ずることを明らかにした。

 音楽においても,時間的近接の原理が働いている例を,無数に挙げることができる。このように,空間上のゲシ タルトと時間上のゲシタルトとの間には,多くの共通点がある。

Fig.01
図1. 時間的近接の原理.Povel and Okkerman(1981)が用いた音系列.近接の原理 により,短い時間間隔(100 ms)を作る2つの音どうしが知覚的にまとまることを示す.刺激音は全て,1000 Hz の純音で,継続時間は 50 ms(7.5 ms の立ち上り・ 立ち下がり時間を含む)であった.
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時間上のゲシタルトに固有の特徴

 時間上のゲシタルトが,空間上のゲシタルトと異なる点もある。

時間的規則性の原理

 時間の格子. Povel(1984)は,「時間の格子(temporal grid)」 という概念を用いて,音列の時間秩序の知覚について考察した。「時間の格子」とは,時間軸上に等間隔に置か れた目盛りのようなものである。同じ時間パターンに対して,異なる格子が生ずることがあり(図2),音列を 最も効率的,単純に把握することを可能にする時間の格子は,格子に一致する音の数などによって決定される。 時間とともに現れては消えて行く事象を捉えるためには,時間の格子のような,時間上で等間隔な枠構造が必要で あることは,音楽におけるリズムの捉え方を考えれば,直観的に理解できる。 音楽を聴取する際には,聴取者が,拍という枠組みをあてはめることによって,細かな音符を捉えやすくしている。また,小節という枠組みを適用することによって,拍のまとまりを作り出している。この例からもわかるよ うに,音楽においては,拍,小節のような異なるレベルの時間の格子が階層秩序をなしていることが多い。 このことについては後述する。時間的に等しい長さを基本として知覚がなされやすい傾向は,時間的規則性の原理と 呼ぶことができる。この原理は,リズム知覚を特徴づけるものである。

Fig.02
図2.時間の格子.呈示される音列に対して,5つの異なる時間の格子が考えられる(Povel,1984).この中で,格子点が捉える音の数が多く,音を欠いた格子点が少ない「経済的な」 格子として,格子2が実際に生ずる可能性が高い.なお, Povel(1984)が用いた刺激音の継続時間は全て 50 ms であり,最小の時間間隔は 200 ms であった.
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 主観的リズム化. 時間上で,相対的に近接している音どうしが,群をな して知覚されることは上で紹介した。一方,物理的に等しい間隔で並んでいる音は,相対的な時間間隔の差がな いために,時間的近接の原理や類同の原理により群化することは考えにくい。ところが実際には,物理的に等し い間隔をなす音が,知覚的に群化する現象,すなわち,主観的リズム化(subjective rhythmization)が知られ ている。

 Bolton(1894)は,物理的に等質であり等間隔である音の系列が, 知覚の上では2,3,4,6,8個ずつの音として群化され やすく,いったんある数ずつにまとまったら,まとまる数は変わりにくいことを発見した。つまり,2つずつに 群化すると,それ以降は3つずつの群などが生じにくいということである。2つずつや3つずつの音を単位とし た規則的な知覚が生ずることから,主観的リズム化は,時間的規則性の原理の一つの現れであると考えられる。

 Fraisse(1982)や Handel(1989)は, 「主観的リズム」という語は適切ではないと指摘している。そもそも 物理的には次々と起こる事象の連続が,「主観」によって,リズムとして知覚されるのであり,「主観的」でな いリズムは存在しえないからである。しかしながら,リズムが「主観」によって生ずることを明らかにしたのは, Bolton(1894)である。ゲシタルト心理学が生まれる以前に行われた彼の研究は貴重である。

 インフラピッチ. 時間間隔の知覚について述べる際には,インフラピッチという知覚内容があることを知っておく必要がある。Warren(1982)は,音圧波形の時間的手がかりから音の高さを知覚するメカニズムによって,音の高さとは別の知覚内容が,リズムの知覚に際して生じていると考えている。 10 ms から 50ms の範囲内で,雑音をある長さだけ切り出して繰り返して呈示すると,繰り返し頻度 20 Hz から 100 Hz に対応する音の高さが知覚され,彼は,このときの音の高さを,雑音的ピッチ(noisy pitch) と呼んでいる。 これは,時間波形の周期が手がかりとな り,その周期の逆数の周波数に相当する音の高さが知覚されるという,「時間説」に関係づけられる(Moore, 1997)。ところが,雑音の繰り返し周期(切り出す長さ)が 50 ms を超えると,つまり,繰り返し頻度が 20 Hz より小さくなると,明確な音の高さが知覚されなくなる代わりに,音の高さとは異なる知覚内容が得られる。こ れを インフラピッチ(infrapitch)と呼んでいる。 具体的には,繰り返し頻度が 4 Hz から 20 Hz のときは, ブルブルというモーターボートが走っているような音(motorboating)が知覚され,0.5 Hz から 4 Hz のと きは,シューシューという音(whooshing)が知覚されるとしている(図3)。 この考え方によれば,メトロノームが刻むような等間隔の音の系列でも,その系列特有のインフラピッチがあるので,時間間隔が変化したときに感じられるテンポの変化は,インフラピッチの変化として知覚されると考えることができる。

Fig.03
図3.インフラピッチ.音圧波形の時間的手がかりによって生ずる,音の高さと は異なる知覚内容であり,Warren(1982)によって提出 された.250 ms から 2 s の範囲内で,雑音をある長さ だけ切り出して繰り返し呈示したときに得られる知覚内容(whooshing),および 50 ms から250 ms の範囲内 で繰り返し呈示したときに得られる知覚内容(motorboating)が,インフラピッチである.10 msから 50 ms の範囲内で繰り返し呈示すると,繰り返し頻度 20 Hzから 100 Hz に対応する音の高さが知覚され,こ のときの音の高さを雑音的ピッチ(noisy pitch)と呼ぶ.
Play Buttonmotorboating:継続時間が 100 ms である、50 Hz から 10000 Hz の帯域ノイズを、繰り返し呈示したもの。
Play Buttonwhooshing:継続時間が 500 ms である、50 Hz から 10000 Hz の帯域ノイズを、繰り返し呈示したもの。
Play Buttonnoisy pitch:継続時間が、30.580 ms のノイズを繰り返し呈示したもの、24.271 ms のノイズを繰り返し呈示したもの、20.408 ms のノイズを繰り返し呈示したものが、この順序で呈示される。C(32.70 Hz), E(41.20 Hz), G(49.00 Hz) の音の高さをもった音が、この順序聴こえる。

 

 リズム的注意. Jones(1976)やJones,Kidd and Wetzel(1981)は,メ ロディパターンやリズムパターンの記憶,再認についての研究を行っている。Jones,Kidd and Wetzel(1981)は, 時間的に等間隔をなす音系列の有無によって,音脈分凝(音の系列が,周波数,時間間隔などに規定されて群化し,複数の系列に分かれて知覚されること)の生じ方が 変化することを発見した。 時間パターンが変化して,特定の音脈を際立たせるような予測が行えない場合には,先行する音と後続の音とを関連づけることが困難になり, 音脈分凝が生じにくい。逆に,時間的に予測可能であれば,先行音と後続音との関連づけが容易になり,音脈分凝が生じやすい。このような考えが,Jones のリズム理論である。リズムの知覚に際して,周期的な注意の働き が重要な役割を果たしていることを,Jones and Yee(1993) や ten Hoopen(1996)が論じている。

 英語のリズム・日本語のリズム. 音楽と同じように,音声にもリズムがある。Handel (1989)は,英語のリズムについて体系的にまとめている。音声にも音の大きさ,長さ,高さがあり,ある音が 他の音と異なることで,その音はより明瞭に知覚される。強勢が置かれた音(強拍)と,強勢の置かれていない音(弱拍)との配列が,音声のリズムの基本をなしている。


 まず彼は,Hayes(1984)や Liberman and Prince(1977)の例を用いて,フレーズ(句)の強勢の構造を,強拍・ 弱拍の枝分かれで記述している。この際,相対的に強い音節と結びつく「強い枝(strong branch)」,相対的 に弱い音節と結びつく「弱い枝(weak branch)」,および2つの枝が集まる「節(node)」を定義している。

 このような,言語的な強勢の階層性を反映する,発話リズムの強勢構造を考える。図4は,音節の強勢の構造を表している。各音節について,それにつながる強い枝の数より一つ多い数だけマル印(●)をつける。これに よって,それぞれの音節における,強勢の相対的な大きさがわかる。

Fig.04
図4. 音声のリズム. 言語的な階層性を反映する,発話リズムの強勢の構造。 まず,単語・句・文における強勢の構造を,強勢の置か れた音節へ向かう「強い枝」,強勢の置かれていない音 節へ向かう「弱い枝」,および2つの枝があつまる「節」 で記述する.次に,((強い枝の数)+1)個のマル印(●) を,その音節の下に置く.マル印が多いほど,強勢が相対的に大きい.ただし,マル印2個の強勢が,マル印 1個 の強勢に比べて,2倍大きいということを意味するので はない(Handel, 1989).


 

 図5に示したように,"a hundred thirteen men"という句では,強勢の置かれた音節"-teen"と"men"とが隣接 するような「強勢の衝突」が生じている。英語では,強勢の衝突を嫌うので,強勢の入れ替わりが生じ,その結 果として,時間の格子に当てはめやすい強勢パターンが生ずる。 この例では,強勢の衝突が生じている音節のうち,相対的に弱い方("-teen")の強勢がなくなるように,強勢の入れ替わりが生ずる。最終的に,強勢は, "hun-","thir-"および"men"という位置に置かれ,より規則的なリズムができあがる。このような英語のリズム は,現在,全世界のポピュラー音楽に影響を与えているのではないかと思われる。

Fig.05
図5.強勢の衝突および強勢の入れ替わり.強勢の置かれた音節が隣接するような「強勢の衝突」を嫌う英語では,強勢の入れ替わりが生ずることがある.その結果,強勢の衝突が生じている音節のうち,一方の強勢が遠ざかり,時間の格子に当てはめやすい,規則的 なリズムができあがる(Handel, 1989).

 
 

 なじみ深い"Japanese"という単語でも,上のような強勢の入れ替わりが生じている場合がある。"Japanese"の 最大の強勢は,辞書(小学館ランダムハウス英和大辞 典第2版)によると"-nese"の音節に置かれている。この単語の後ろに,1番目の音節に強勢を持つ単語(例えば, "apricot")が続いた場合,強勢の入れ替わりが生じ,"Japanese"の強勢は"-nese"から"Jap-"へ移動した形に なる(図6)。 2番目の音節に強勢を持つ単語(例えば,"persimmon")が後に続く場合,"Japanese"の強勢の入 れ替わりは生じない。

Fig.06
図6.英語音声における強勢の入れ替わり.強勢の入れ替わりが生ずる例を示す.(a) "Japanese" の本来の強勢は,"-nese" の音節にあることを示す.(b)一番目の音節に強勢がある単語 "apricot" が後に続くと,"Japanese" の強勢は "Jap-" へ置かれる.(c) 二番目の音 節に強勢がある単語"persimmon"が後に続く場合は, "Japanese" の強勢は "-nese" のままである.なお, Japanese apricot は「梅」を,Japanese persimmon は 「柿」を意味する.

 
 

 このように,英語のリズムは,強勢の時間的近接を嫌う(これは,英語を話すときの特徴であって,知覚上の 原理である時間的近接の原理とは矛盾しない)。英文を読み上げたり話したりする際に,強勢がほぼ等間隔をな すことを意識して発音すると,通じやすい発音が得られる。

 英語のリズムが音楽に関連づけられる例として,Zwerin(1990)によって書かれた記事が挙げられる。ジャズトランペット奏者の Clark Terry は,ジャズ・ワルツを演奏 していた。そして,いっしょに演奏していた,若いドラム奏者の奏でるジャズ・ワルツの拍が遅れてきていた。 Clark Terry は怒ったりせずに,ピアノのソロとなって手が空いたときにドラム奏者のそばへ行き,次のように言った。「こう思うんだ。"Who parked the car? Who parked the car? Who parked the car?"」 すると,ド ラム奏者はウィンナワルツのような3拍子を演奏することができるようになった。 "Who parked the car?" とい う文には,"Who"と"park-"と"car"とに強勢がある。発音するときは,それらの強勢が等間隔になるように試みるが,"-ed"や"the"があるために,"Who"から"park-"のまでの時間間隔よりも,"park-"から"car"までの時間間 隔の方がどうしても長くなる。 したがって,この文における3つの強勢を1小節におさめようとした3拍子は,2拍目がやや長い3拍子になり,自然にワルツの感じが生まれると思われる。ドラム奏者に対する Clark Terry の指示は,英語のリズムの性質を巧みに生かしたものだったといえる。

 次に,日本語の音声のリズムについて考えてみる。「坂(/さか/)」と発音するとき,/さ/ と /か/ の間を隔てて発音すると,「作家(/さっか/)」となり,もはや同じ意味をもたない。 藤崎・杉藤(1977)は,このような例(「甥(/おい/)」・「覆い(/おおい/)」,「尼(/あま/)」・「按摩(/あんま/)」)を挙げ,日 本語では,母音や子音の持続時間を延長することにより,新たな音素が加えられたときに生ずるのと同様の意味の違いが生ずる場合があることを示している。 図7のように,日本語においては,要素がほぼ等しい時間間隔で並ぶことが重要であり,その時間単位をモーラと呼ぶ。1モーラは,90〜250ミリ秒くらいに相当し,160ミリ秒 くらいが典型的な値である。 上の例でいえば,「甥(/おい/)」は2モーラ,「覆い(/おおい/)」は3モーラの単語である。日本語のリズムは,モーラ基準のリズム(mora-timed rhythm)であり,強勢基準のリズム (stress-timed rhythm)である英語とは,リズムが異なる(Port, Dalby & O'Dell,1987; 小泉,1996)。日本語に不慣れな外国人であっても,モーラに注意すると,通じやすい日本語の発音が得られる。

Fig.07
図7.日本語におけるモーラ構造.「坂(/さか/)」は /さ/ および /か/ からなる2モーラの単語であり,「作家(/さっか/)」は /さ/,/っ/ および /か/ で構成される3モーラの単語であることを示す.

 
 

時間の異方性

 空間においては,左右対称もしくは上下対称である部分は,体制化されやすく(Metzger,1953),また,その対称性ははっきりと知覚される。しかし,音系列が時間上で対称であっても知覚的にまとまりやすいということはないし,そもそも対称であることさえ知覚されにくい。 ラヴェルの「ボレロ」の中で,小太鼓が刻むパターンのはじまりの部分(図8)を思い起こすことは容易であろう。ところが,このパターンにおいて, 一つ一つの音の始まり(オンセット)が,時間軸上で対称であることに,どれだけの人が気づいているであろうか。

Fig.08
図8.時間的対称性の知覚の難しさ.ラヴェルの「ボレロ」の中で,小太鼓が刻むパターンの始まりの部分を示す.一つ一つの音の始まり(オンセット)が時間軸上で対称的であることに,気づきにくい.

 

 音の立ち上がり・立ち下がり部分が完全な対称ではない小太鼓の音のかわりに,コンピュータで合成した,音 の立ち上がり・立ち下がり時間が等しく,物理的に完全に対称である系列(図9)が(ヘッドホンを介して)呈示された場合も,ボレロのリズムを明確に知覚することができる。しかし,この場合も,音系列の時間的な対称 性は容易にはわからない。

Fig.09
図9.物理的に対称な音系列の時間波形.コンピュータで合成した音系列の波形。音の周波数は 500 Hz,音の継続時間は 20 ms で,5 ms の立ち上がり・立ち下がり時間を含む。音の始まりから始まりまでの時間間隔は,前から,450, 150,150, 150, 450, 150, 150, 150, 450 ms である。これを聴くと,ボレ ロのリズムが明確に知覚される。視覚的には,対称であることがすぐわかるが,この音系列を聴いたときには,系列が時間上で対称的であることに気づきにくい.
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 時間上の対称性が知覚されにくいことを指摘したのは,物理学者のMach(1918)である。彼は,音符の配列が視覚的には対称的になっていても,その音系列を聴いたときには,時間的な対称性が知覚されにくいと述べている。

 音系列が,その時間的な対称性によって体制化されることはほとんどない。近接性,類同性や時間的規則性な どによる群化が,リズムの知覚においては重要である。

 時間知覚において,時間縮小錯覚とよばれる錯覚現象がある(例えば,Nakajima,ten Hoopen,Hilkhuysen &  Sasaki,1992)。これは,継時的に示される3つの短音で区切られる2つの時間間隔 t1 および t2(t1<t2)があるとき、2番目の時間間隔が著しく過小評価される現象である(図10)。 錯覚が生ずることによって,主観的な長さが等間隔に近付くことから、時間的規則性の現れと解釈することができる。t1<t2 のときには,t2 に対して過大評価が生じないことや,t1に対する過小評 価ないし過大評価は,t1 と t2 との長さによらず, ほとんど生じないことから,この錯覚がかなり限定された条件にのみ生ずる同化現象であることがわかる。特に,先行する時間間隔が後続する時間間隔の知覚に影響するにもかかわらず,逆方向の影響はほとんど出ないことは, 時間軸上の対称性知覚の欠如に関連づけられる可能性がある。 なお,飯塚・中島(1996)は,実際の音楽においても時間縮小錯覚が生じている可能性があることを示している。 著者ら(末富・中島,1997)は,3つの時間間隔からなる パターンにおける時間縮小錯覚の現れ方について調べた。 その結果,2つの時間間隔ならば錯覚が生じるパターン 160/240 ms の前に,最後の時間間隔と等しい長さの時間間隔を隣接させると(240/160/240 ms),錯覚が全く生じなくなった。著者らは,最初と最後の時間間隔(240 ms)が等しい長さを持つために,類同の原理に従う群化 が生じたという仮説をたてて,錯覚の消失を説明している(図11)。 時間知覚における類同の原理は,RoyerとGarner(1966) の研究に示されるように,時間的近接の原理とともに働くことが多い(「1111」というパターンでは,音が同じ であると同時に,時間的に近くにある)。 しかし,著者ら(末富・中島,1997)の結果では,時間的に隔たりが ある時間間隔どうしが,類同の原理に従ってまとまっている。

Fig.10
図10. 時間縮小錯覚.対照条件における空虚時間 t2 の主観的等価値,および,それより短い時間間隔 t1 を隣接させた隣接条件における,t2 の主観的等価値を示す。 隣接条件における主観的等価値の方が,対称条件における主観的等価値よりも,小さくなることが示されている.この例では,時間間隔 t1 が隣接しているとき,時間間隔 t2 が著しく過小評価されている. Nakajima,ten Hoopen, Hilkhuysen & Sasaki(1992)の実験によると,t2=100 ms(対照条件)のときの主観的等価値は,100 ms であったが,t1/t2 が 50/100 ms(隣接条件)のときの,t2 に対する主観的等価値は,60 ms であった。つまり, 隣接条件では,40 ms もの過小評価が生じた.
Play Button 240 ...... 240 ms
2つの短音によって作られる 240 ms の空虚時間 t2 が呈示され、 その 1.50 s 後に比較時間 240 ms が呈示される。両方の空虚時間の 長さは等しく感じられる。なお、短音は、周波数が 3000 Hz 、 継続時間 7 ms (立ち上がり・立ち下がり時間 1 ms を含む) の正弦波である。
Play Button 160 / 240 ...... 240 ms
3つの区切り音によってつくられる 160 ms、240 ms の空虚 時間 t1、t2 が隣接している。1.50 s に比較時間 240 ms が呈示 される。比較時間よりも t2 の長さの方が短く感じられる。この 錯覚現象は「時間縮小錯覚」と呼ばれている。

Fig.11
図11. 類同の原理が時間縮小錯覚を妨げる例.  時間縮小錯覚(最後の時間間隔に対する過小評価)が生 ずるパタ−ン(a) と,著者ら(末富・中島,1997)が報告した,時間縮小錯覚が生じないパタ−ン(b). (b)では,最初の時間間隔と最後の時間間隔とが,等しい長さ(240 ms)である.類同の原理により,それらの時間間 隔どうしが知覚的に結びついたため,最後の時間間隔に 対して過小評価が生じなかったというのが著者らの仮説である.なお,著者らが用いた刺激音は,7 ms 程度の継続時間を持つ,3000 Hz の正弦波に近い短音であった.

Play Button 160 / 240 ...... 240 ms
空虚時間 160 ms および 240 ms が隣接するパターン。1.50 s 後に 比較時間 240 ms が呈示される。160 ms に隣接する 240 ms は、 比較時間よりも短く感じられる。時間縮小錯覚が生じていることがわかる。
Play Button 240 / 160 / 240...... 240 ms
4つの区切り音によってつくられる 240 ms、160 ms、240 ms の空虚 時間が隣接している。1.50 s に比較時間 240 ms が呈示 される。このパターンでは、隣接する3つの空虚時間のうち最後の空虚時間 と比較時間とは、同じくらいの長さに感じられる。つまり、時間縮小錯覚 は生じていない。

 
 

階層性

 音の系列において,類同の原理や時間的近接の原理,時間的規則性の原理などによって群化が生じた場合,群と群がさらにまとまり,上位の群を形成するという,階層的体制化が生ずることがある。 Povel(1981)は,周波数・継続時間が一定である,単純な音の系列を用いた実験によって,群化がどのように生じるかを調べた。例えば,250/250/250/750 ms のパターンが繰り返し呈示されたとき(図12)には,まず,750 msの拍単位(beat unit)2つから構成されていると知覚され,さらに,拍単位の一つが 250 msの小単位3つ分から成り立っていると知覚されていることを示唆する結果が得られた。 まさに,階層的な体制化がリズムを作りあげているといえる。

Fig.12
図12. 音系列の階層的体制化. Povel(1981)が用いた刺激パタ−ンおよび,その知覚内容。刺激パターンは繰り返し呈示される.まず,反復パターンが 750 ms の時間間隔2つで構成されていることが知覚され,次に,2つの 750 msの時間間隔のうちの 1つが,250 ms の時間間隔3つから構成されていると知覚される.刺激音は,150 ms の継続時間をもつ,2800 Hzの正弦波に近い音であった.
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 Essens(1986)は,「刻時単位(clock unit)」と呼ばれる,Povel(1981)の拍単位と同様の時間単位を考え,階層的体制化について考察した。 例えば,刻時単位が 1000 ms である場合,刻時単位の3分の1の長さの倍数の時間間隔(333, 667, 1000 ms)からなるパターン (図13(a))を呈示したとき,タッピングで正確に再生できるにもかかわらず,呈示するパターンの中に, 刻時単位の2分の1の長さの倍数(500, 1000 ms)と,3分の1の長さの倍数(333, 667, 1000 ms)とが混在する場合(図13(b))は,正確な再生ができないことを見出した。 階層性体制化が生ずるためには,上位の時間間 隔(刻時単位)を分割してできる,下位の時間間隔どうしの関係も重要であることがわかる。

Fig.13
図13.階層的体制化の生ずる条件.333 ms の整数倍の時間間隔(333,667,1000 ms)だけ で構成されるパタ−ン(a),および,500 ms の倍数の時 間間隔(500,1000 ms)と 333 ms の倍数の時間間隔 (333,667,1000 ms)とが混じりあったパタ−ン(b). Essens(1986)は,(a)ではタッピングによって正確な再生が可能であるが,(b)では正確な再生ができないことを示した。Essens(1986)が用いた刺激音は,50 ms の継続時間を持つ,830 Hz の矩形波であった.
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 リズムには階層性があることを述べてきたが,階層性がリズム知覚にどのようにかかわっているかを,具体例 を示しながら紹介している研究がある。

 Longuet-Higgins and Lee(1982)は,時間の格子の形成過程と,時間の格子が階層構造を形成してゆく過程とをモデル化した(Lee,1985)。彼らの,時間の格子の知覚過程のモデルは,以下のとおりである。 知覚システム に捉えられた第1音の時刻 t1 と第2音の時刻 t2 から, (t2−t1) の長さを仮の時間の格子の単位とみなし,その格子を,後続のパターンに対して当てはめてみる。 当てはまりがよければ,その長さを正式な時間の格子として採用する(図14(a))。 適切な当てはまりが得られない場合には,(t2−t1) の長さよりも長い時間間隔を仮の時間の格子の単位とみなしたり(図14(b)),時間の格子の始まりを,別の音に置き換えてみて(図14(c)),後続のパターンに対する当てはまりがよい時間の格子を見つけ出す。 さらに,間隔の捉え方を,より長い時間単位に適用することによって,階層的なリズムを記述でき る。このモデルを用いると,図14(c)に示される「Auld Lang Syne(蛍の光)」のような弱起のパターンにおける,時間の格子の形成過程,および,リズムの知覚を説明することができる。なお,拍節構造の形成過程が,実際に調べられている(後藤・阿部,1996)。

Fig.14
図14. 時間の格子. Longuet-Higgins and Lee(1982)が示した,時間の格子の形成過程,および,時間の格子が階層的構造を形成する 過程のモデル. t1,t2は,知覚システムによって捉えら れた時刻を表す.(t2−t1) の長さが,後続のパタ−ン に対して当てはまりがよければ,それが時間の格子の基本となる.t3 は,(t3−t2)=(t2−t1)という関係を満たすように予測された第3音の時刻を表す. (a): t3 に第 3音が知覚されれば,(t3−t1) の長さが,より上位の時間の格子となり,t3 を t2 とおき直して,さらなる t3 を予測する.(b): t3 よりも前に第3音を捉えた場合は, 知覚した第3音の時刻を t2 とおき直す. (c): t3 よりも後に第3音を知覚した場合は,t2 をt1と,t3 を t2 とおき直す.当てはまりがよい場合には,さらにt3 を t2 とおき,より上位の格子が生ずる. (c)は,「Auld Lang Syne(蛍の光)」の冒頭部分であり,弱起のパタ−ンである.

 Chomsky(1957)は,文に階層性があることを体系立てて主張した。例えば,文"The boy hit the ball."が,

[{(The) (boy)}{(hit)((the) (ball))}]

という階層構造をなしていることを挙げている。Fodor and Bever(1965)は,文を知覚する際には,句の境界が,知覚上も存在し,それが重要な役割を果たしうることを 見出した。 彼らの実験では,ある文を聴覚的に呈示している途中にクリック音を呈示し,その後で,文を書きとることと,クリック音がどこに聴こえたかを記すことを,被験者に求めた。その結果,クリック音が物理的には単語(句)が発声されている途中に存在するのにもか かわらず,多くの被験者は,句の終わりにクリック音を知覚していた。 これは,音声の知覚において,句の境界 が重要であることを示しており(Aiello,1994),文の階層構造が,音声の知覚を規定していることを示唆する。また,Chomsky(1957)が示した,言語における文の階層性ないし統語構造と関連づけて,音の修飾・被修 飾という観点から,音楽における旋律の階層性を調べた研究もある (Lerdahl and Jackendoff,1983; 村尾,1995)。 Gregory(1978)や Sasaki(1980)は,音楽中の雑音,クリック音の時間的位置の知覚を調べた。彼らの研究結果は,音楽における旋律に階層性が存在することを強く 示している。

時間とリズム

 リズムは時間上のゲシタルトであり,リズムの知覚には時間軸上に現れる事象の知覚が欠かせないことを述べてきたが,事象と事象との間の時間間隔が, リズム知覚にどのように影響しているのかを概観しておく必要がある(中島,1994)。

 主観的リズム化は,物理的には等間隔である音の系列が,知覚上で群化する現象である。Bolton(1894)は,音と音との時間間隔が長くなると,群としてまとまる音の個数が減少すること,および,音と音の時間間隔が約 115〜1580 ms の範囲にあるとき,音の群化が生ずることを発見した。

 Nakajima,Shimojo, and Sugita(1980)は,2つの短い音を,さまざまな時間間隔で呈示し,その2つの短音がどのように知覚されるかを調べた。その結果,被験者の全ての知覚内容は「2つの時間的ピークをもった一つの音に聴こえる」 「ある種のタイミングがあるように聴こえる」「2つの音を知覚の上で結びつけるのは困難である」 という3つのカテゴリーに分かれ,2つの音の時間間隔がだいたい 150〜1500 ms であれば,リズムの印象(真ん 中のカテゴリー)が得られることを発見した。

 Bolton(1894)の実験と,Nakajimaら(1980)の実験とでは,調査対象および実験方法がことなるにもかかわらず,2つの音がリズムとして感ぜられる時間間隔の範囲が類似していることは興味深い。

 Nakajima(1987)は,「空虚時間の主観的な長さは,その物理的な長さに約 80 ms の定数を加えたものに比例する」という「つけくわえ仮説」を提唱した。1秒を超えない程度の2つの空虚時間の物理的長さが t(1), t(2) ms であるとき,知覚的長さが v(1),v(2) ms で あったとすると,v(1) : v(2) = (t(1)+α) : (t(2)+α) (ただし,α=80 ms)の関係が成り立つ。これにより, 時間間隔の物理的長さと知覚的長さとの関係が定式化された。

聴覚における問題点

 知覚的な音の始まり. 「音の始まり」を知覚することは,時間間隔の知覚において重要である。しかし,知覚的な音のはじまりが何によって規定されているかは,いまだに明らかになっていない点も多い。

 Gordon(1987)による,音の立ち上がり部分の知覚について調べた研究や,どのような要因が,知覚的な音の 始まりを規定しているかを調べた,Vos and Rasch(1981)の研究がある。音声における知覚的な音の始まりは perceptual center(P-center)とよばれていて(Morton,MarcusとFrankish,1976) さまざまな研究が行われている(de Jong,1994; Harsin,1997)。いまだ明らかになっていないことはあるものの,リズム知覚を解明するうえで鍵になると考えられている (Harsin,1997)。

 音脈とリズム. 音楽における旋律も,当然のことながらリズムを持っている。旋律知覚に際しては,音脈の知覚が基本となるわけであるから,音楽のリズムについて考えるには,音脈とリズムの関係を整理しておく必要がある。 音脈(auditory stream)とは,Bregman and Campbell(1971) によって紹介された概念で,呈示される音の系列が,周波数,時間間隔などに規定されて群化し,知覚上,複数 の音の系列に分裂した際の,各系列のことを意味する。 音の系列が,複数の音脈に分かれて知覚されることを,音脈分凝(auditory stream segregation)と呼ぶ(Bregman,1990)。

 van Noorden(1975)は,音脈の形成と,知覚されるリズムとの関係について,周波数の異なる2つの純音AおよびBが,ABA−ABA−ABA−...と呈示されたときに知覚されるリズムを調べた。図15(a)のように,AとBの周波数差が小さいときは,AとBとが一連なりになる音脈(ABA−ABA−)が形成され,ギャロップのリズム (galloping)が知覚される。 しかし,図15(b)のように,周波数差が大きくなると,2つの音脈(A−A−A−A− と B−−−B−−−B−−−)が形成され,もはやABA−ABA−というギャロップのリズムが知覚されないことが わかった。これは,どのような音脈を捉えるかによって,知覚されるリズムが変わるという例である (Jones and Yee,1993)。

Fig.15
図15.音脈とリズム.van Noorden(1975)の実験結果をもとに再構成した刺激パタ−ン(左側)と,その知覚内容(右側). (a): 音AとBとの間の周波数差が小さいときは,AとBとが一連なり になる音脈ABA−ABA−が形成され,ギャロップのリズ ム(galloping)が知覚される. (b): AとBとの間の周波 数差が大きくなると,2つの音脈(A−A−A−A− と B−−−B−−−B−−−)が形成され,もはや ABA−ABA− というギャロップのリズムは聴こえなくなる.
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まとめ

 時間上のゲシタルトという観点から,リズムの特徴を述べ,リズム知覚におけるさまざまな研究を紹介してきた。時間軸上に存在する単なる事象である音が,複数個 あることによって,時間間隔が形成され,さらに,時間軸上の音の位置関係,つまり時間間隔の関係が,リズム として知覚される。 複雑な音を聴き,そこから必要な情報を抽出し,音楽を演奏・鑑賞したり,言葉によって情報をやりとりするという,人間特有の聴覚コミュニケーションは,人間が,音の系列をリズムとしてまとめ上げる一連のメカニズムをもっていなければ,行うことができなかったであろう。時間知覚・リズム知覚について研究することは,人間の知覚の仕組みを知るための,重要な研究課題である。


 

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