音楽心理学への御招待1


中島 祥好

17 脱線

 前回のCDの話には、現実問題として興味をお持ちの方が多いと思いますので、少し脱線を続けさせていただきます。これからCDプレーヤーを買う人がどのような機種を買えばよいかという、お買物情報です。

 とりあえず何かオーディオが欲しいと言う方は、大きなスピーカーのついたCDラジカセを安売りで買って、その気軽さを体験なさるとよいでしょう。まずよく知っている曲のCDを試聴用に買って、いくつかの機種を聴き比べてみることをお奨めいたします。ただし、派手に色づけされたポップスやロックなどは、少々問題のあるラジカセで鳴らしても、それなりにかっこよく聴こえてしまうので、要注意です。立派な生演奏で聴いたことのあるオーケストラ曲などが無難でしょう。ラジカセは、長年使うようには設計されていないので、5年くらいでお役御免にしても惜しくない程度の予算を設定する必要があります。ただし、修理に出さなければならないこともありえますので、少し値段が高めであっても、サービス網の充実したメーカーの製品が安全でしょう。

 少し予算に余裕をお持ちの方には、大安売りのCDプレーヤー(携帯用でもよい)を見つけ、格安のオーディオ・アンプにつなぎ、余ったお金を全部スピーカーにつぎこむ、と言う方針をお奨めいたします。スピーカーに関しては、左右合わせて3万円前後の予算でも、ラジカセのスピーカーよりはかなり良いものが買えます。いくつかのメーカーのものを試聴することが絶対に必要です。

 前回申しあげたように、安物でもそこそこの水準に達するのが、CDの良いところです。さしあたり、CDプレーヤーは安物を買えばよいのです。また、オーディオ・アンプは、電気信号を、より強い電気信号に変えるだけのものですから、安物を買ってもそれなりに(あくまでも「それなりに」ですが)健闘してくれます。ところが、スピーカーの役目は、電気信号を気圧の変化という全く異なったものに変換することですから、この場合には、様々な不都合の紛れこむ可能性がありますし、その一方で、職人芸の見せどころもあります。伝統あるメーカーが手間暇かけて作ったスピーカーは、生演奏の音楽とはまた別の美しい音を聴かせてくれます。完全に大量生産のラインに乗っているような製品にも、なんとなくメーカーの特色が現れるようです。

 予算を抑える話ばかりしてきましたが、CDプレーヤーに大金を投ずるのが馬鹿げていると申しあげるつもりはありません。LPプレーヤーにオーディオ・マニアが投じていたのと同じ程度のお金をCDプレーヤーにかけると、デジタル信号が、より忠実にアナログ信号(音になる寸前の電気信号)に変換されるようになり、何となく音質に余裕が出てきます。(この点は、聴覚心理学の研究テーマとしても面白そうなのですが、残念ながら、現在の実験技術では歯が立ちません。)私は自分では経験しておりませんが、高級CDプレーヤーについてもメーカーを選ぶことが大切であるそうです。CDプレーヤーの性能に見あうだけの、高級なアンプやスピーカーを揃えることも必要です。

最後に、関連するデジタル音響機器として、MD(ミニディスク)、DCC (デジタル・コンパクト・カセット)、DAT(デジタル・オーディオ・テープ)に触れておきます。MD、DCCはいずれも、CDに含まれる情報のうち、弱すぎて聴こえない音などの、我々の聴覚システムに関わりそうもない部分を捨ててしまうという発想により、情報量を数分の一にまで落とすシステムです。これは大変面白い考えかたで、音響を専門とする学生に授業でこの話をすると、眠りかけていた学生も目を覚ますくらいです。残念ながら現段階のMD、DCCには、CDの代わりになるほどの音質は望めないようですが、MDなどは、使いやすく編集に便利な録音装置として、魅力的な商品です。

 DATは、CDをしのぐ仕様を持っており、録音にも使えるので、スタジオや音響関係の研究所で、広く用いられています。ただ、根本的な設計に無理があるのか、せっかく録音したテープを破壊してしまうような事故、故障が起こりやすく、私の研究室では、数台しかないDATデッキのうち2台以上が同時に故障することがこれまでに2度起こりました。困ったことに、壊れたのは、デジタル技術において世界の最先端を行くメーカーの製品です。他の研究室、研究所と情報交換したところ、同じ悩みを抱えているところは多いようです。結論は明快で、家庭用にDATデッキを買ってはいけません。DATには今も泣かされており、声を大にしてメーカーに抗議したいと思います。この件について、被害を受けた経験をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ情報をお寄せください。

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