音楽心理学への御招待1


中島 祥好

6 音階の話

チェンバロなどにおいて、純正律の音階を用いると、長三和音がよくまとまって落着いた感じに響くようです。ここでは、倍音関係があれば音をひとまとめに聴きやすい、と言う聴覚の仕組みが現われていると考えられます。例えば、上に示したG、B、Dの音が、それぞれ、基本音、2倍音、3倍音を含んでいるとしましょう。そうすると、

 Gの基本音は 196x4 = 784 ヘルツ、
 Gの2倍音は 196x4x2 = 1568 ヘルツ、
Gの3倍音は 196x4x3 = 2352 ヘルツ、

 Bの基本音は 196x5    = 980 ヘルツ、
 Bの2倍音は 196x5x2 = 1960 ヘルツ、
 Bの3倍音は 196x5x3 = 2940 ヘルツ、

 Dの基本音は 196x6    = 1176 ヘルツ、
 Dの2倍音は 196x6x2 = 2352 ヘルツ、
 Dの3倍音は 196x6x3 = 3528 ヘルツ、

となり、いずれも 196 ヘルツの倍数であることは明らかです。Gの3倍音と、Dの2倍音とは、周波数が完全に一致し、一つの成分になってしまいます。この長三和音は、196 ヘルツの基本音に対する倍音のみから構成されているわけで、聴きかたによっては一つの音に感じられることもありうるくらいに、まとまって聴こえる傾向があります。聴覚システムは、倍音関係にある成分を、ひとまとめにして捉えやすいからです。

 ところで、私たちに一番なじみのある音律は、純正律ではなく平均律です。厳密な呼びかたは「12平均律」となります。現在使われている多くの鍵盤楽器では、まん中のAの音が 440 ヘルツと決まっています。12平均律のもとでは、その半音上のBbの音は466.16 ヘルツ になります。AとBbとの周波数の比率は、1:1.0595 となります。半音の違いは全てこの比率で表されると言うのが、12平均律の基本です。この比率をもっと精密に示すと、

 1:1.059463094

となります。

 Bの音の周波数は 440x1.059463094x1.059463094      ≒ 493.88 ヘルツ、  Cの音は     440x1.059463094x1.059463094x1.059463094 ≒ 523.25 ヘルツ、  Gの音は     440・..059463094・..059463094    ≒ 392.00 ヘルツ、

と言うように、

 「半音上がるたびに 1.059463094 を掛ける」、  「半音下がるたびに 1.059463094 で割る」

と言う簡単な手順で、全ての白鍵と黒鍵に対応する周波数を計算することができます。440 ヘルツのAの音より1オクターブ高いAの音は、半音12個分だけ高くなるわけですから、440 ヘルツに1.059463094 を12回掛けることによって、その周波数を計算することができます。答はぴったり 880 ヘルツとなります。1オクターブ上昇すれば周波数が2倍になると言う原則が当てはまるわけです。実は、こうなるようにうまく選んだ数値が 1.059463094 だったのです。この値は「2の12乗根」で、一番安い関数電卓でもすぐに計算できます(ひょっとすると、計算の桁数は落ちるかもしれませんが)。なぜ、この音律を「平均律」と呼ぶかと言うと、「半音上がる」と言う変化が、どこの半音を取っても、「周波数が 1.059463094 倍になる」と言う等しい変化に「平均化されて」いるからです。

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