リズム知覚の基礎としての時間知覚に関する
精神物理学研究

中島 祥好

[introduction]
[聴覚とリズム]
[1. 時間分解能]
[2. リズムを生ずる時間間隔]
[3. 弁別]
[4. 尺度]


2 リズムを生ずる時間間隔 ( ”時間分解能”より続く )

 二つの音が続けて鳴るだけで、我々はリズムを感ずることができる。ドアのノックがよい例である。Nakajima, Shimojo & Sugita (1980) は、継時的に鳴らされる二つのクリック音の時間間隔を様々に変化させ、時間間隔が 150〜2000 ms くらいの範囲にあるときに、身体の動きを連想させるような、明瞭なリズム感の生ずることを見出した。Bolton (1894) は、物理的に等しい時間間隔をおいて並んだ、物理的に均一な音の列が、知覚のうえでは二つずつや三つずつに群化する現象、すなわち主観的リズム化を発見した。2,3,4,6,8個の音からなる群が安定して知覚されることが多く、大まかに見て、音の始まりから始まりまでの時間間隔が、115〜1580 ms の範囲にあるときに、この現象が生ずる。このように、リズムの知覚を生じうる時間間隔は、比較的狭い範囲に収まる。Warren (1991) は、規則正しいリズムからなる、馴染み深いメロディー(例えば「キラキラ星」)を、音楽の正式な訓練を受けていない被験者に聴かせ、何のメロディーか鳴らされたか判るかどうかを調べる実験を行った。その結果、テンポが、一音符あたりの時間にして、160〜1280 ms くらいの範囲にあるときに、何のメロディーであるかを認知しうることが判った。実際の音楽における一音符あたりの時間は、大部分が 150〜900 ms くらいの範囲に収まると言う Fraisse (1982) の分析結果を考えあわせると、音楽のリズムも、Bolton や Nakajima らが見出した範囲の時間間隔を基本にしていると考えられる。

 ある時間間隔が、音楽や音声のリズムの基本単位となるためには、その時間間隔を、音の始まりから始まりまでの時間間隔として、規則的な音列を作ったときに、全ての音がはっきりと聴こえるくらいの長さを持っていなければならない。したがって、100 ms くらいが最小の長さであろう。しかし、二つの音が 40 ms 程度離れていれば、その前後関係がはっきりと判るので、部分的には 40〜100  ms くらいの時間間隔も、リズムを構成する単位となりうる。一方、隣りあう音が知覚のうえで結びつくためには、あまり長い時間間隔があってはならない。  Fraisse (1978) の言う「知覚的現在」の上限は約 5000 ms であるが、精神物理学的な実験で用いられるような単純な条件においては、多くの研究が 1500 ms 程度の値を示している。 本論文においては、聴覚コミュニケーションの基礎となるようなリズム知覚に 興味の中心があるので、確実に前後関係の知覚を生ずる 50 ms 程度を下限とし、 確実に知覚上の結びつきを生ずる 1200 ms 程度を上限として、種々の考察を進める。この範囲は狭いように見えるかもしれないが、ここまでに述べてきたように、リズムの基本となる時間間隔の長さの範囲は決して広いものではない。

 

(続く)

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