九州大学ソーシャルアートラボ 

Social Art Labat at Kyushu University (→HP) (→English)

  2015年度より、九州大学芸術工学研究院ではソーシャルアートラボという取り組みを始めています。社会の課題に向き合い、人間や環境との新しいつながりを生み出す芸術実践を「ソーシャルアート」と捉え、「生」の価値を新しく創造しようとするものです。詳細はHPをご覧ください。 http://www.sal.design.kyushu-u.ac.jp/ 

 私は依頼を受け、コアメンバーとして「人材育成実践コース、企画立案プログラム」に関わっています。福岡県八女市笠原地区、黒木地区を中心に、10月に3回のワークショップを行いました。参加者だけでなく運営側も、体験から気づきを得ることが多かったと思います。 実を言えば、私は「ソーシャルアート」という言葉に違和感をもっていました。なぜならば、ものつくりの私にとって、アートがソーシャルであることは自明のことだったからです。ほとんどのアーティストは社会の事象や環境から何かを得て制作し、それを発表することで社会意識にアプローチしています。むしろ「ソーシャルアートという言葉が新鮮に響くほど、人々はアートが社会とコミットしていないと考えている」こと自体に、驚きを感じました。また、社会問題に注視しすぎて、PC(political correctness)しか感じない息苦しい表現にならないか、という危惧もありました。とはいえ、アートと社会との乖離を感じている人々が多いならば、これまでのアーティストや芸術業界のあり方に何らかの問題があるといえるでしょう。 戸惑いながら踏み出したプロジェクトですが、多様なバックヤードを抱える人々と、何かを考え合わせる経験は貴重なものでした。改めてアートが持つ「創造」の魔力を感じます。多様な人々を惹きつけ巻き込む力、本心を発信できるという自由、社会に影響を与えられるという喜び。「一粒の人間」たちが社会を形づくっているという当たり前のベクトルを、活動を通じて思い起こします。違いがそのまま豊かさとなるアートを中心におくと、戦争にならないのだと。

*7月担当した第2回ソーシャルアートカフェや八女ワークショップ参加者の感想をみても、それをうかがい知ることができます。→ソーシャルアートカフェ感想PDF →八女ワークショップ感想PDF

 自ら発信したもの(創造)がよいものとして社会に関わる。本気でそう思えたなら、人は安堵の中で生き永らえます(この世を去ることができる)。私たちが文化や芸術と呼ぶものは、そういった次世代への愛の集積なのです。ソーシャルアートとは「社会のための」というより、「社会(様々な人間)が形作る(広義の)愛」なのかもしれません。       2015.11 知足美加子

 

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ワークショップ風景

ファシリテーション中は写真を撮ることができず、多分に抜けがあります。詳細は(→HP)
10月10-11日八女フィールドワーク。NPO山村塾の小森さん、八女をフィールドにしている本学の朝廣先生が日程を調整してくださいました。
霊巌寺の和尚様のお話は心を落ち着かせ、あたたかくしてくれます。地域の歴史、3年前の豪雨水害による影響など、丁寧に説明してくださいました。戦後の木炭バスの話が新鮮でした。
霊巌寺は八女茶発祥の禅寺です。このお茶の木は最初に植えられたお茶の子孫だそうです。
お茶の花。お茶は寒暖の差が激しいところの方が葉の厚みが増え、甘みが増します。
無農薬のお茶作りや林業を営む大橋さん。ここのお茶は本当に美味しい。身体にスッと馴染みます。農業学校を作りたいという夢を持っておられます。溢れるような活力と志の高さ、あたたかい人間性に惹きつけられます。
家具作家の泰心さん。尊敬する素晴らしいアーティストです。一度インドネシアのグループ展でご一緒したことがあり、彼の作品の存在感に心打たれました。自然林を作る「杣人(そまびと)の会」という活動を主催されています。
人形浄瑠璃の練習を、旭座に見学に行きました。旭座人形芝居福岡県無形文化財です。家族で継承するという伝統があります。
ありがたいことに、人形に触ることを許可していただきました(滅多にないことです)。観るだけでは得られない、触ることのインパクトを実感します。
人形の倉庫を見学させていただきました。着物やお顔の佇まいに、大事にしてこられた地域の方々の手、時の重みを感じました。

 

「六感マップ作り」を行いました。六感で感じたことを地図上にアウトプットし、他者の経験を共有しました。
「SWOT分析 Inside-Out」です。フィールドワークで得た気づきを「強み、弱み、機会、脅威」の4つに分けます。それを逆転させて発想する(弱みに見えているが実は強みといった)ことを促します。アドバイザーの大澤寅雄さん、難しいとりまとめお疲れ様でした。
最後に、この場で行いたいアートプロジェクト案について、各自発表しました。地に足がついた素敵なアイディアが次々と飛び出し、幸せなビジョンを感じるものばかりでした。(画像なし)
八女ワークショップ感想PDF

(中村美亜先生聞き取り)

  10月24日、九大大橋キャンパスで参加型アート実践のためのストーリー作りと方法を共有しました。もやいバンク福岡の古瀬秀泰氏に事業計画書の知識。大澤さんの方から助成金の知識、私の方からストリー作り、企画書作りについてお話したあと、自分のアイディアを事業計画書や予算書に落とし込んでみました。 10月31日、九大大橋キャンパスで、各グループのアイディアを具現化するための手立てを考えました。まず山村塾の小森さんに、八女で実際行われた事業の計画書や内容をプレゼンしていただきました。その後、各グループのプロジェクト案をについてプレゼンを行いました。朝廣先生や、小森さん、salスタッフからコメントをいただき、アイディアをブラッシュアップさせていきました。今後、salの方でアイディアを引き継ぎ精査していく予定です。

「アーティストがつくる地域の未来」(WS報告書)
                     知足美加子

 私は「自然からの感」を受けて作品を制作している。ここでいう自然とは生命体や風土そのものでなく、それらが有機的に絡み合う何かである。アーティストはそれらを感受し表現につなげる。このような「感」のやり取り(アート)は、地域内外の認識を変え活性化する契機を与えてくれる。アートの中では各表現の相違は争いの種ではなく、豊かさとなる。芸術実践には、多様な人々を惹きつけ、巻き込む魔力があるようだ。


 地域をテーマにする場合、現地以上に情報がある場所はない。今回の企画立案プログラムは、八女市笠原地区(福岡県)合宿を皮切りに展開された。ここは平成24年に九州北部豪雨災害に見舞われた地区である。多様なバックヤードを抱える人々と、何かを考え合わせることは刺激的だ。アイディアは、人、モノ、コトの「化学反応」の中で磨かれることを、プログラム参加者達も感じたのではないだろうか。「良いメンバー」が、直感を「良いアイディア」に育てる。最初に留意すべきは、アイディアよりメンバーである。今回面白いメンバーが集まったのは、アートが中心にあったからだろう。


 アートを通じて、人は精神的な自由と喜びを見出す。現代アーティストのヨーゼフ・ボイス(1921-1986年)は、人類の社会を意味あるものにして精神的な深みを与える鍵は芸術家が握っている、と考えた。そして誰もが芸術家(自ら考え、自ら決定し、自ら行動する人々)になるべきだとし、未来の理想社会を「総合芸術作品」とよんだ。ソーシャルアートならぬ、Artistic Society(芸術的社会)である。ボイスの野望は、地域という小さな社会から実現しつつある。(2016年2月)

 

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