義務教育についての考察 (1997年) →BACK(lecture目次)

   九州芸術工科大学 芸術情報設計学科 芸術文化論講座助手 知足院〈ともたり〉美加子

 改革のための改革ではなく、今あるものを(予算と時間と人間)をどう使うかを熟慮する方向で。日本の教育システム最大の欠陥は、融通性の欠如である。現状をよく研究して、柔軟に対応できるシステム。現場から中央へ情報を還元し、集約するシステム作りが必要。この提案は特に問題が深刻化している、中学校教育を中心に考えている。また青年海外協力隊活動から帰国してから、教育現場にかかわった経験から、学生は「実感」のともなった知識を求めていることを痛感した。実感の伴った知識や(これも全体の一断面にすぎないことを自覚していなければならないが)、既存システムの批判的・客観的に再構築する力を養う教育の必要性を内外に訴えていくつもりである。

 しかし、これを「開発」教育と呼ぶ風潮には抵抗を感じている。・Interactive Education of Culture  (文化における相互教育)という意味をこめて「インターカルチャー教育」・Sentient Net Education (感性的ネットワーク教育)など、新しい名前を考えてほしい。あたらしい名前は、新しい概念を連れてくるものだ。

(具体的提案・7項目)


 実際に文部省が提案したシステムを試行した場合、緻密なデーターによる「反省的考察」を徹底して行うこと。その現実に即した成果を、システムの改善に結びつける努力をおしまないこと。 教育委員会からの視察に対して、学校側は良い面ばかりをアピールする傾向があるが、これでは重要な問題点の発見や改善点を隠蔽する。こういった研究授業では、現実の具体的問題点は見えない。
 教育問題をモラルの問題にすり替えることは危険である。(例:今の親・先生・生徒が悪いなど)その殆どの問題は、今の現実にそぐわない老朽化したシステムを強固に守ろうとする歪みから起こっている。
 事務処理に携わる職員を増やすこと。 できれば先生2人につき1人の割合で。 事務仕事をコンピューター等を活用し簡略化すること。 現在、教師の教育研究の時間の殆どは事務仕事に費やされ、教師の精神的疲労の原因になっている。
 メンテナンスへの思慮なしに、小中学校教育にコンピューターを導入してはならない。 約4年ごとに型は古くなり無駄とゴミを増やすだけである。 また維持管理に教師の研究時間が費やされることになる。 コンピューターはレンタルを利用することが好ましい。 データー管理、メンテナンスは先に述べた、事務室所属の計算機の専門家にまかせること。 
 教員の教科研究の時間を確保しなくてはならない。 それが良い授業につながり、学生にとっても落ち着いた知的活動を約束する。 海外とも協力して、各国の現実や教育システムの研究と、それを基盤にした明快かつ具体的なビジョンを再構築すること。(例:各国の環境教育等の現状把握、新しい教育システムや教材の情報交換に、インターネットを活用する)
 学校の建築物への法的拘束をゆるめること。 拘置所のような建築物の中で良い教育はできない。 美的な空間の中での教育的効果に早く気づくこと。

 建築業界における公的事業、むやみな開発への方向性を、教育機関の改築へと転換すること。(この際、省ごとの予算の移管という問題を解決しなければならない) 才能ある建築家の独創的な発想が活かせる場は、制約が多い住居空間よりは、こういった公共空間の創造にある。


 生徒の数が減ることと、現場の仕事が減ることとは比例しない。 ひとクラスから10人減ったとしても、授業や学校の運営に関する業務が減るとは限らない。 生徒の数が減るからといって教官の数を減らすのは、短絡的な発想である。
(教育コンセプトへの提案)

 教育を価値付け、評価付けの一点張りから、現実をよく見、思考を再構築する機会を与える場に移行すること。将来的に知性は、カリキュラム化によって分断された知識の相関関係をとりもどす方向に進まなければならない。まず青少年期は自分を取り巻く現実を把握し、学んだ知識を結びつけ、自分の見方を確立させる努力が必要。その礎なくして、自分の見方を反省し、批判的に考察するのは困難である。 →BACK(lecture目次)