東屋「泰庵」セルフビルドと植栽ワークショップ 

 九州北部豪雨災害復興支援「黒川復興ガーデンとバイオアート ー英彦山修験道と禅に習うー」 

2019年度報告(九州大学 知足美加子)    →福岡エルフの木「東屋と植栽」報告ページ

 

 

  

 

「黒川復興ガーデンとバイオアート ー英彦山修験道と禅に習うー」について

皆様の尊いご尽力のおかげをもちまして事故や怪我なく、大変美しいアートガーデンが誕生いたしました。厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

新型コロナ拡大防止のため、「東家(あずまや)セルフビルドと植栽(3/5.6)」は、一般参加者のイベントとしては中止としました。
ただ、復興支援のためのアートワーク研究(佐藤先生科研の知足分担費)として、関係者のみで打ち合わせと作業を行い、無事に終了しましたことを報告します。

共星の里の全面的なご協力、長崎。、鹿児島、宮崎、朝倉などから集まってくださったの優れた技術者有志、大学関係者が、無償で、尊い汗を流してくださいました。
また、被災地の方々が(2m以内の接近は避けて)、植栽の手助け、手作りの竹飯(細工した竹による炊飯)や、焼き芋、お菓子、飲み物などの差し入れで応援してくれました。心より感謝申し上げます。

東屋は、被災木を用いたもので、
神社遥拝場を参考にしたオリジナルデザインです。
釘を使わずに、木のムクリ(ソリの反対)まで計算にいれ、木のみで組み立てています。
魂がこもった製材美しい設計1ミリも違わない手刻み・手鉋の木組み正確な建て付け
災害に関わる川石を何度も拾い、敷き詰め、石灰とにがりを混ぜた朝倉の赤土による三和土(たたき)
これらは、携わった方一人ひとりの純粋な真心があって、具現化したものです。
参加者の手で磨かれ、錆止めを塗られたブランコ(唯一土砂で流されなかった)では、早速子供が遊んでくれました。
花や木も、綺麗に植え付けられ、光を放っていました。

あの少人数と日数で、これだけのことができたことは、本当に奇跡でした。
関係者の方々、誠にありがとうございました。

災害時、多くの土砂や流木とともに、様々な思いが流れていった筑後川の河口付近の海水を汲んできて、最後にお祓いをいたしました。
天と山と水と人の心が今一度幸せに結び合うことを、皆で祈ったところです。

---

東屋のコンセプトづくりと製材・制作に携わった杉岡氏から提案があり、この東屋は「泰庵(たいあん)」と名付けられました。易経の中の「地天泰」という言葉から発想されました。地天泰とは「天地創造化有のはたらきを人間の有用なものに応用し、天地が造化したものに人功を加へて、民衆の利便に供する」という天地和合を意味する言葉だそうです。また、この「泰」という文字は「水中に落ちた人を両手で助け上げる形で、安泰の意」(白川静『字統』)という成り立ちをもっているとのこと(→木挽棟梁のモノサシ)。被災地の人々の心をいたわり、自然環境を慈しむという気持ちがこめられた、とても素敵な名前です。ぜひ、この泰庵と黒川庭園に訪れ、天地和合の光と空気を感じていただければと思います (朝倉市黒川 1546-1 共星の里)。

 

活動報告映像ダイジェスト版(1分30秒) 撮影:園田裕美

黒川庭園企画制作:    
知足美加子(九州大学 芸術工学研究院)
泰庵制作:    
杉岡世邦(杉岡製材所)・池上一則(大工池上算規)
協力:    
柳和暢、尾藤悦子(共星の里)   
八尋晋(彫刻家)、田中一成(田主丸グリーンセンター)
堂薗隆博(堂薗建築)、押川博美(押川工務店)
池上太規(大工池上算規)、後藤茂行(杉岡製材所)
佐藤宜子、藤原敬大、尾分達也(九州大学 農学研究院)
白水祐樹、真崎一美、田中葵(九州大学SAL関係)
上田眞樹、近藤富美、藤田ゆか里(福岡県建築士会)
泉田寿裕(泉田商店)、東徹太郎(トポスデザイン)、知足空香
宮崎久遠、林利則・秀子(黒川地域住民)
記録:   
長野聡史(写真撮影)、園田裕美(映像撮影)

 

   
   
*(見出しと表上段3つの画像、撮影:長野聡史)

 

↓ 一般参加のイベント、および講演会・ワークショップは中止されています。

      

 

→PDFチラシダウンロード

→毎日新聞2020年2月20日


 

豪雨被災地の土砂の前で茫然としたあの日から、「いつかここが命を思う美しい場として再生する」と、心に描いてきました。
 アートは、自然からの呼びかけから生まれることが多く、その究極の形は「ガーデン」ではないかと思います。日々変化する自然界と人間の心が調和する場を共創し、自然と人間、人間同士のつながりを紡ぎ続けるからです。

 2019度は、その「復興ガーデン」が現実化した1年でした。朝倉市黒川地区住民は、災害後100世帯から20世帯に激減しています。私は、離村者の一時的な帰村経験を担保し、また地域外からの「関係人口」を増やす場づくりの必要性を感じていました。強制的ではなく、そこにある美しさ、喜ばしさに浸るために立ち寄りたくなる場。地域外からの意識継続のために、関心をつなぎとめる何らかの仕組み。それらを実現するあの日のビジョンが、「アートとしての庭の共創」だったのです。 災害時、共星の里(旧黒川小学校)には大量の土砂や岩石が流れ込んだため、多くの樹木が弱り、枯死しています。災害岩石を活かし、樹木を再生(土壌改良して植樹)することを目指すとき、学ぶべきものは「禅」の庭でした。禅僧の作庭家・枡野俊明先生を招き(→講演「禅と庭」テープ起こし)、共星の里で造園案を練ったのは昨年度のことです。

 2019年度はまず、複数の企画案について地域住民の方々に意見をきくところから始まりました。アンケートには、養蜂を始めたいという夢や、植樹したい花木などが記されていました。それらをもとに、九州大学学生と植生計画と庭案を作成しました。  

 9月から本格的に庭づくりに取り組みました。被災した住宅廃材を消炭に変え、土壌改良と鎮魂につなげました。空気や水の循環を改善するための側溝づくり、剪定。また、災害流木の木材チップによって土を養生し、岩石をレイアウトしました。最後に、参加者それぞれが未来を思いながら植樹しました(→報告ページ)。身体を通したこれらの活動は、参加者の意識に「被災地への想像力を喚起する何か」を刻みました。そこに植えた自分の木から、被災地を感じるような感覚です。3月には、災害木による東屋を制作し、花の植栽を行います(予定、上記ちらし)。

 この庭づくりと並行しておこなったのは、復興支援団体紹介小冊子「かたり」(→PDF)の制作です。社会人と学生によって取材を行い、朝倉市、東峰村、添田町で創造的な活動を行う21団体の記事をまとめました。地域内外の相互理解と意識継続、「支え合いの輪」が広がることを願うものです。実際に、この冊子を手にしたことが契機となり、福岡青年会議所(JC)主催の復興シンポジウム(→報告ページ)が開催されています。
 また、復興ガーデンを舞台にした、学生達によるアート活動も生まれています。庭の岩石や樹にプロジェクションマッピングし、パフォーマンス(↓動画)を行うものです。年末の寒い夜の公演にもかかわらず、被災地の方々が集まってくださいました。庭に様々な光が満ち、アートによってひとつになった心が、解放されたひと時でした(→報告ページ)

 庭は、命ある自然物が成長し循環しながら、日々変化を刻むアートです。今後、この庭から感じたことを、連歌や音楽、パフォーマンス等で表現しあう「喫茶養生会」を開けたらと考えています。

 

(2019年度 九州大学ソーシャルアートラボ報告書)

 
Homealbumexplain・mail)  九州大学芸術工学研究院 知足美加子