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講演会録「未来につづく道」
第1回 田中 優 氏  未来バンク事業組合理事長
「環境破壊・温暖化を引き起こす社会システム」
大地、生命、農業と芸術の融合による教育プログラム
(九州大学現代GPの一環として)現代GPホームページ

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みなさん、こんばんは。田中優と申します。

今日のテーマは「環境破壊・温暖化を引き起こす社会システム」です。

まず「地球温暖化問題」について、そしてこれと深い関係をもつ「戦争」の現状についてお話します。みなさんがこれから生きようとする社会の構造的問題を明らかにし、その解決方法についての具体的にみていきます。

 最初に地球温暖化について話を進めます。私は今年の3月に南極に行ってきました。実は南極は歴史が浅く、わずか200年前に見つかったばかりです。200年前に南極を見つけた人々は「ここに大陸があるかもしれない」と言いました。「ここに大陸がある」と断言できなかったのです。なぜかというと全て氷に覆われていたため、その下に陸地があるかどうかわからなかったのです。現在では、南極大陸はオーストラリア大陸の約2倍もある巨大な大陸であることがわかっています。南極の氷の下からは陸地がみえています。氷には次々とヒビが入り、海にずるずる落ちている状態です。もし今初めて探険家が南極を見つけたならば、最初から「南極大陸はある」と言うでしょう。かつては氷に覆われて南極大陸が、いまや氷がどんどん解け陸が見えるのです。私は南極に船で行きました。南極では「アイス・パイロット」という船長の上に位置するパイロットを配置しなければなりません。なぜなら氷山にぶつかれば船はおしまいです。氷山をよけるためにアイス・パイロットを雇うのです。今回雇ったアイス・パイロットは1000回以上も南極に行き、おそらく地球上で最もたくさん南極を見ている人でした。その人に「地球温暖化進んでいますか」と尋ねると「進んでいるなんてもんじゃない。昔はこんな大きな船で行けなかった。氷が解け氷山も流出し、今ではこんなところまで人々が入っていけるようになってしまった」そう言うアイス・パイロットに「地球温暖化防止について人々がやっと動き始めているが間に合うだろうか」と聞くと、彼は「もう間に合わない。人の努力なんてピーナッツみたいに小さなものにすぎないから」と答えました。ところが、日本では地球温暖化問題に関して「たいしたことない」という人もいれば、「嘘だ」と言う人すらいます。ところが現実には、南極の氷は本当に溶けています。以前は南極の気温が0℃以上になることはありませんでしたが、今では年間約20日間も気温0℃を上回る日があります。そのため、昔捨てたゴミが、溶けた氷の中から現れるようになりました。その結果ペンギンがゴミに引っかかってケガをすることもあります。南極では実際に温暖化は起きています。地球温暖化がうそだという説は、いったいどこの話なのでしょうか。

さて次は北極の話です。私は来月初めて北極に行きます。これは昨年3月の北極の氷の様子、そしてこちらが昨年9月16日の様子です。(写真の比較)こんなに解けています。北極の氷は毎年9月に1番溶けるので、もしかすると毎年このくらいは溶けているのかと思い調べました。これが5年前の9月の氷の様子です。昨年の9月と比べても5年間でこんなに氷が縮んでいることがわかります。

海の上の氷が溶けても海面は上昇しませんが、グリーンランド上の氷が溶けると、地球全体の海水面が6m〜8mくらい上昇します。これまでグリーンランド上の氷は、数千年先まで溶けないと言われていました。しかしこの勢いで氷が解け続けると「2012年には夏場の北極の氷は消えるだろう」と言われています。北極の氷上でしか狩ができないホッキョクグマは、絶滅に向かって進んでいるのです。予想をはるかに超えて地球温暖化は進んでいます。

北極圏の温度分布を見ると、1961年9月では例年と比較して気温が下がった場所と上がった場所の面積は、ほぼ同じです。ところが昨年2007年9月では、全域でかなり気温が上がっています。北極圏の極点付近では特に温度が上昇しています。昨年夏カナダの北極圏を熱波が襲ったときは気温が22℃まで上昇しました。

しかし、IPCCは未だに「グリーンランドの氷が溶けるのは数千年先だ」と言っています。IPCCの発表では2050年に北極の氷は450万平方kmまで縮むと予測していましたが、昨年2007年に419万平方kmまで縮んでいます。予測の50年先をいっていることになります。アラスカの写真を見ると海の上に氷があります。この海上の氷に光が当たると約90%反射して、宇宙に帰っていきます。ところが氷が溶けて海面になると、光は90%以上吸収されて海を温めます。海水温が上がるとさらに氷が溶けて、光が反射されなくなる。これを悪循環=ポジティブ・フィードバックとよびます。このポジティブ・フィードバックがあちこちで始まりかけています。

例えば、シベリアの永久凍土はどんどん溶けています。この原因は日本のための木材伐採です。木材を伐採した場所に日光が当たり永久凍土が溶けています。凍土が溶けると小さな池ができます。小さな池が広がって湖の広さになると、地中からメタンガスが吹き上がってきます。メタンガスとは天然ガスのことです。天然ガスはシベリアの森の下に、地球上最も多く埋蔵されています。このメタンガスは二酸化炭素の20倍以上の速度で地球温暖化を進めます。こうして温められた永久凍土はさらに溶けていく、という悪循環が進んでいます。

この悪循環があちこちで進むと、人間の力では止められなくなります。悪循環が本格的に始まるのはいつ頃になのでしょうか。始まれば人々はおそらく100年後、300年後に滅びることになるでしょう。取り返しがつくとしたらこの10年です。この10年間で社会が変えられなかったら、その後の未来は自動的に滅びることになると思われます。

地球温暖化の父と呼ばれるNASAのハンセン博士は、2年前に「あと10年」つまりあと8年(2008年現在)で悪循環が始まると言いました。この悪循環は始まってしまうと止めることができません。雪山で雪玉を落とすようなものです。雪玉を落とす前ならば片手でも止められます。落ち始めたらもう人間には止められない。その悪循環のスタートが始まる前に社会を変えなければもう手遅れ、という時代になるのです。

昨年出版した本の中で私がこのことを指摘すると、批判を受けました。「あなたは危機感を煽りすぎる。あなたの言説はIPCCのデータを超えている。科学者のデータ以上のことを言うべきではない」と。それでは科学者の言説のレベルをみてみましょう。最悪のシナリオとしてIPCCが示した大気中の二酸化炭素量の推移を予測したグラフです。これに2005年からの実際の数値をのせてみます。IPCCが予測するグラフ曲線の上がり方より、現実の曲線の上がり方のほうが急です。この現実的数値の推移曲線を2100年まで延長すると、IPCCを信じていては温暖化防止が間に合わないことがわかります。これが現実です。科学者と心中してもかまわないという人以外は、自分の頭で考えないかぎりアウトになるでしょう。

さらに深刻な事態があります。二酸化炭素を吸収するものは「植物」です。植物が吸収している二酸化炭素量は変わっていません。さらに植物の2倍も二酸化炭素を吸収してくれるのが「海」です。ところが海が二酸化炭素を吸収する量はどんどん下がり続けています。現在、南太平洋は全く二酸化炭素を吸収していません。北大西洋も全く吸収していません。あちこちの海が二酸化炭素を吸収しなくなっています。しかし海が二酸化炭素を吸収し過ぎても、吸収しなくてもどちらも地獄なのです。もし海が二酸化炭素を吸収し続けた場合、海水は炭酸水のようになります。この炭酸水にサンゴを入れると溶けてしまいます。サンゴはカルシウムと二酸化炭素でできているので、サンゴが溶けると二酸化炭素が大量に発生します。一方、海が二酸化炭素を全く吸収しないと空気中の二酸化炭素が増え続けます。どちらに転んでも地獄なら、二酸化炭素を出さないようにするしか方法はありません。

地球温暖化についての権威といわれる日本の有名な科学者は、今のところ地球温暖化による被害者は出ていないと言っています。そこで現実に出ている被害者の状況を紹介します。チベット・ヒマラヤ地域を衛星写真で見ると、氷河の周辺に青い部分ができていることがわかります。これは氷河が溶けてできた水溜りなのです。水溜りといっても日本のダムのサイズです。これらは「氷河湖」と呼ばれています。この氷河湖が50年間で新たに4997個生まれました。これ以外にできた20個の氷河湖は崩れて、ふもとの人は土砂に揉まれて村ごと消えてしまいました。被害者の死体も見つかりませんでした。既にこのような被害が起こっています。そしてこれから50年の間に残る4997個の氷河湖全てが壊れます。ですから、安全な日本にいて「地球温暖化の被害はない」と言う科学者には、この氷河湖の真下に家を建てて住んでいただきたいですね。自分はリスクを背負わずに、好き勝手なことを言われてはかなわない。ちゃんとリスクを背負って発言しなければ、とてもじゃないが無責任です。

しかし残念ながらこのチベットヒマラヤ地域の氷河の溶解は止められそうにありません。この地域は日本の10倍の速さで温暖化が進んでいるからです。日本の国土は7割近くが森に覆われています。森にはエアコン効果があります。森があると夏は涼しく冬は暖かいのです。それは森自身が温度をコントロールしてくれるからです。ところが森がない地域では地球温暖化の影響をもろに受けます。北極や南極、砂漠地帯、海に囲まれた島嶼部も同様です。たとえみなさんが「地球温暖化を止めよう」と今日から全く二酸化炭素を出さないとしても、残念ながら大気中の二酸化炭素は100年間残るのです。だから今私たちが被害を受けている状況は、この100年間の累積なのです。今排出している二酸化炭素によって、後100年間は被害が続くことになります。だからこのチベットの被害も早々に止まるものではないのです。さらに深刻な事態が起こります。IPCCの報告書には、今後地球上で20億人から30億人の人が移住を余儀なくされるといっています。このヒマラヤ地帯から流れでている川は何でしょうか。インダス川、ガンジス川、チャオプラヤー川、メコン川、長江、黄河。ヒマラヤ地帯はアジア全域の水源なのです。このまま温暖化が進めばそれらが全て涸れます。この河川地域には人が住めなくなります。この地域は世界で最も人口が多いところです。なおかつ地球上で唯一持続可能な農業を行っている地域です。そこが水を失うのです。必然的にここに住んでいる人たちは引っ越さなくてはいけませんね。しかし移住先はありません。このままでは国境線を血に染めることになっていくと思います。アメリカのシンクタンクは昨年11月にこう発表しています。「今後大量移住は国家安全保障の政策立案者にとって最も懸念すべき問題になるだろう」と。たとえ被害が起こって国外に移住する必要があっても国境を越えられない、つまり移住先がないのです。地球温暖化は現実の問題として既に起こっています。それでも温暖化は起こっていない、現実の被害はないと言っているのは日本だけです。

 

地球温暖化を起こしているのは化石燃料です。石油、石炭、天然ガスを使ったことの結果です。この石油についてこれから巨大な問題が起こります。これがピーク・オイル問題です。最も深刻であるにもかかわらず、認知度が低い問題です。

世界の巨大な油田は1980年以前に全部見つかっています。今後も見つかりません。地質学的に調査済みなのです。地球上ほぼ全ての油田は発見し終えています。ただ唯一の例外が北極と南極です。特に北極には未開発の油田の25%があるといわれています。今後北極圏の油田を巡って戦争が起こるかもしれません。昨年9月にロシアが北極の地下4000mに国旗を立てています。極地以外の油田は既に見つかっており、今後新たに発見される大きな油田はありません。

それに対して、石油の消費量は年々増え続けています。1973年、1979年に起こったオイルショックの時に少し減りましたが、その後は増え続けています。ひとつの油田から採れる石油量は、採掘開始後から伸び続けていくわけではありません。途中で爆破や海水注入、二酸化炭素注入でさらに増やすことができますが、ピークを迎えるとその後急に採油量は激減します。シェル石油のハバート氏は1957年に「アメリカの油田は1970年初頭にピークを迎えるだろう」と言いました。当時は誰も信じませんでした。しかしアメリカの油田は1971年にピークを迎え、その後採油量は下がり続けています。油田にはピークがあると予測した「ハバート曲線」はこの事実をもって立証されました。

もう一度確認します。大きな油田はもう新たには見つからない、石油の消費量はぐんぐん伸びている、石油の生産量はピークを迎えると急激に下がっていく。従来、石油がなくなるのは30年後とか、50年後とか言われてきました。つまり人々は石油生産量が底をつく地点を問題にしていました。しかし石油が問題を起こすのは、石油が無くなってしまう時ではありません。石油の消費量が伸びて行く最中に、生産量がピークを境に下がり始めたときなのです。この時、世界中で石油が足りなくなってパニックが起こります。この時点を「ピーク・オイル」と呼びます。ピーク・オイルについて、多くの学者は2010年頃にくると言ってきました。ところが最近「既に来ているのではないか」と言う人が非常に増えています。ピーク・オイルは起きている時点ではわからないのです。その時点でわかることは石油の価格が高騰し、不況になるということだけです。まさに現在がその状態ですね。とにかくあと2年内にピーク・オイルがきた場合、石油を握っている者は必ず金儲けができます。石油に関する事業は最上流の油田から下流のガソリンスタンドまでありますが、最も儲かるのは油田です。国別に石油の確認埋蔵量をみてみましょう。上位に位置するイラク。未だにアメリカに支配されています。イラクは大量破壊兵器も持っていませんでした。またニジェールからウランを密輸しようとした事実もありませんでした。それはブッシュ大統領も認めています。ならばブッシュは謝罪してサッサと引き上げるべきです。「ごめんなさい。僕の勘違いで侵略してしまいました。5年間で100万人殺してしまいました」と言って去っていくべきです。ところがアメリカは、いまだにイラクから撤退しません。なぜでしょう。「イラクは石油を持っている」からですね。次にアメリカが襲おうとしているのはイランです。アメリカがCIAを使ってチャベツ大統領を幽閉・暗殺しようとした国が、ベネズエラです。(イラン、ベネズエラは石油埋蔵量の上位国)

実は現在の世界的紛争は、たった5つの要因に集約されます。世界の紛争地には必ず「石油」が採れるか、「天然ガス」が採れるか、「そのパイプライン」が通るか、「鉱物資源」が豊かにあるか「水」が豊かにあるのです。この5種類の地域だけです。

例えば最近チベットが問題になっていますね。チベットには世界で一番高いところを走る電車(青蔵鉄道)が通っています。これは中国政府がチベットから鉱物資源を奪うために敷設した鉄道です。さらにチベットでは石油が発見されました。だからこの紛争も資源問題ですね。

次にハリケーンが襲ったビルマ。ここには天然ガスがあります。20億ドルの利益を40年間生み出すといわれる巨大なものです。この利権を持っている国が中国、タイ、マレーシア、日本です。最近その利権を失った国がアメリカです。ミャンマーという国名は現在の軍事政権が勝手に変えた名前なので、ビルマの軍事政権を支援する国は「ミャンマー」と呼びます。アメリカのように新政権を支援しない国は「ビルマ」と呼びます。日本はミャンマーと呼びますね。天然ガスを奪う側として軍事政権を支援する国だからです。

世界の紛争地は資源問題が絡んでいます。例えばアフガニスタンの場合「トランス・アフガン・パイプライン」というパイプラインが通ることになっています。トルクメニスタンで採れる天然ガスをインド洋に運ぶためのパイプラインです。またカザフスタンで取れるウランをインド洋に運ぶ道路も、同じ位置を通ります。

チェチェンという地域はロシアから独立しようとしていますが、そのために人口の半分が紛争によって死傷または難民化しています。ここはロシアから輸出する石油のパイプラインが通る地域です。ウクライナでは大統領がダイオキシンを飲まされる事件が起きましたが、ウクライナはロシアからヨーロッパへ輸出する天然ガスのパイプラインが通る地域です。

インドネシアから独立した東ティモール。ここでは独立直後に発見された「ティモール・ギャップ」という海洋油田が、オーストラリアに勝手に奪われました。実はオーストラリアは、その油田を奪うために東ティモールの独立をずっと支援していたのです。独立した途端、油田は奪われました。

フィリピンのミンダナオ島。ここはアブサヤと呼ばれるテロリスト・グループのためにフィリピン軍と米軍が2万人の軍隊を5年間送っています。ところがそのアブサヤは60人しかいないのです。60人殺すのに、2万人が5年間いる必要があるでしょうか。ミンダナオ島には石油と鉱物資源があります。それを奪うための理由として「2万人の軍隊を駐留させるために、60人のテロリストを守っている」という構造があります。

インドネシアのアチェでも独立したがっている人々がいます。インドネシア沖の津波で亡くなった25万人のうち20万人がアチェの人々です。しかしいまだにアチェには援助が届いていません。「アチェにはテロリストがいるから」という理由でインドネシア政府が入れさせないのです。このアチェこそが、天然ガスを日本に最も輸出している地域なのです。

このように世界の中の紛争地は必ず、石油、天然ガス、パイプライン、鉱物資源、水、という5つが絡んでいます。では戦争はどうすれば避けられるのでしょうか。「自然エネルギーに変える」ことが最も効果的なのです。

私がそう言ってもあまり説得力がないかもしれませんが、ドイツのシュレーダー元首相もメルケル首相も言っています。「本当のエネルギー・セキュリティとは他国を軍事的に侵略することではない。その国の中で作ることのできるエネルギーに切り替えていくことこそが、最大のエネルギー・セキュリティになるのだ」と。実際ヨーロッパでは自然エネルギーにシフトする方向で動き始めています。日本では「自然エネルギー」というと、不安定で、値段が高く、役に立たない子供のおもちゃのように言われています。しかしヨーロッパは本気です。なぜそう考えるのか。理由は簡単です。もしみなさんが政治家や官僚に会ったなら、一言聞いてみてください。「100年後のエネルギーは何ですか?」石油はあと40年、天然ガスは61年、ウランは64年しか残っていない。石炭はあと220年残っていますが、石炭は天然ガスの2倍の二酸化炭素を発生させます。石炭を使えば地球温暖化を加速します。では100年後のエネルギーは何でしょう?自然エネルギー以外には存在しません。自然エネルギーは可能性ではありません。必然です。他に選べるものがないからです。ですからヨーロッパの人々はこう考えました。「100年後は自然エネルギーでなければならない。だとすれば50年先までに何をやるべきか。10年先にはどうなっているべきか。今とるべき政策とは何か」こういう思考を「バック・キャスティング」といいます。100年後の未来からバックしてキャスティングを決めていくわけです。このバック・キャスティングという思考方法をとれば、自然エネルギーに移行させることはごく当たり前のことになります。ところが世界の中で唯一、いまやっていることにつまらない改善をして、ちょっとしたアイデアを加えて、そちらに未来があるかのように思い込ませようとする国があります。それが、日本です。

現在サブプライム問題によって、世界的に金融が儲からなくなりました。そのため世界中が不況です。その最中、世界でたった二つの産業だけは史上最大の利益を記録しています。それが石油と軍需です。今、石油と軍需は世界最大・史上最大の利益を手にしています。

大変不幸なことですが、例えばみなさんの親の世代は「社会に出て一生懸命働きなさい。そうすれば社会はどんどん良くなっていきます」と思っていらっしゃる方が多いと思います。確かに親の世代まではそうでした。豊かでない時代から豊かになっていった時代です。洗濯板が洗濯機に代わり、ほうきが電気掃除機に代わりました。進歩が自分たちの生活をどんどん良くしてきました。そういった輝かしい時代は既に終わっています。

少し前まで最も儲かっていたのは金融です。物を生産する人間は全く儲かりません。金を右から左に動かす人間が儲かっていました。そして金融が不調になった現在、人を殺す産業(軍需)か、二酸化炭素をバリバリ出す産業(石油)だけが儲かっています。収益率最大です。ですから儲けたければこういう産業に関われば最も儲かります。そしてエリートと呼ばれたければ、これらの中で働くことが一番良いことになります。進歩が豊かさになる輝かしい時代は終わったのです。残念ながら今の社会は、一生懸命働くことが社会を悪くします。そういう時代に生まれてきた私たちは不幸ですね。今の社会システムの中で努力することは悪いことに繋がってしまう。だとしたら社会そのものを別な方向に進める以外にないだろう、と私は思います。

つい最近アイルランドのダブリンで行われた地雷禁止条約の会議で、クラスター爆弾が禁止になりました。クラスター爆弾(日本政府は認めてないと言っていた)は大きな爆弾が上空で200個に分かれ、1個ずつ缶のような形で降ってきます。パラシュートが付いてフワフワ降りてきます。そして地上にぶつかると爆発し、非常に硬い金属片を500m四方に飛び散らし、人々の肉をえぐります。このクラスター爆弾は兵隊を殺しません。被害者の98%が民間人です。そのうち28%は子供です。世界一子供を殺す爆弾なのです。今回やっと禁止になったクラスター爆弾ですが、アメリカは最後まで禁止条約に反対していました。(現在も製作を続けている)この爆弾を最も製作しているのはアメリカの軍事企業「ロッキード・マーティン」「レイセオン」です。ベルギー政府は、その2社に融資することを銀行に対して禁止しました。ところが日本は禁止していません。クラスター爆弾を作る企業に最も融資している銀行は三菱東京UFJ、みづほ、三井住友です。この3つの銀行だけで5000億円も融資しています。もしみなさんがこれらの銀行に口座を持っているとすれば、世界中の子供達を殺すことに貢献することになるのです。

現在、軍事費は増え続けています。もし軍事費を別の用途に使ったらどうなるでしょう。例えば途上国の借金をなくすことができます。4年ほど前に「ほっとけない世界の貧しさ」という運動がありました。ホワイドバンドを手首につけ、3秒に1人死んでいく途上国の子供達をイメージさせるために、3秒に1回指をならすのです。みなさんは貧困に苦しむ途上国の子供達が、どういうシチュエーションで死んでいくがご存知ないと思います。フィリピンのミンダナオ島では、子供達がたわわに実ったバナナ畑の隣で死んでいきます。パイナップル畑の隣で飢えて死にます。なぜならそれらの食料は、自分たちが食するものではなく輸出するためのものだからです。フィリピンがフルーツカンパニーに独占された理由は、すぐそばに日本という大消費地があったからです。フィリピンは、なぜそうしなければならないのでしょうか。それはフィリピンが外国に借金をしてしまったからなのです。外国からの借金はフィリピンのペソでは返済できません。外貨で稼いで、外貨で返さなければ受け取ってさえくれません。だから外貨を稼ぐために輸出できる品物が必要です。それバナナやパイナップルなのです。そのため地元の人は自分たちの畑を失い、食べることができずに飢えて死んでいきます。だから飢えて死んでいく人を救いたければ、途上国の借金返済を免除してやることが一番重要です。日本のホワイトバンド運動の時に流行った言葉は「ほっとけない世界の貧しさ」でした。でもこの言葉ちょっと違います。現在途上国にいちばん金を貸しているのは、日本です。日本がお金を貸さなければ、途上国はこれほど貧しくならなかったのです。つまり「日本がほっておいてくれれば貧しくならなかった」なのです。ですから「ほっとけない世界の貧しさ」と日本が言うのはあまりに傲慢です。彼らの現実を全く無視した言い方です。

ともかく、軍事費を使って途上国の借金を全部帳消しにしましょう。世界の兵器を廃絶しましょう。飢えている人に食料を届け、地雷を撤去しましょう。これらの費用全てを国連データに基づいて計算すると、何年分の軍事費になるでしょうか?軍事費1年分です。さらに2100億ドルのおつりがきます。つまりたった1年分の軍事費で全ての問題を解決し、おつりがくるわけです。これを宇宙レベルで考えてみましょう。この惑星に住んでいる生き物はちょっと変わっています。「お互いに助け合うことだけはやめよう」と決心し、「殺し合おう。全てのお金は殺しあうために使おう」と決めた自殺の惑星です。私はばかげたことだと思います。ところが人間は今、真顔でそうしようとしています。私はこれを「合成の誤謬」とよびます。どういうことかというと「それぞれ小さなポイントでは正しいのに、それを合計すると大間違いになる」ということです。例えば隣の国が攻めてくるから軍備を整える? 正しいです。向こうの方が強いかもしれないから軍備を増強する? 正しいです。でも正しいですが、それらを合計すると自殺の惑星を作ってしまうのです。

だから逆から考えなくてはいけません。「この惑星にはもはや戦っていられるゆとりはない。だからテーブルを引っぱり出して互いに話し合う場を作ろう。戦争をする前に外交努力で避けよう」そういうことをするべきです。ところが残念なことに、最も儲かるものが軍需だから、軍需を増やそうという方向に進んでいます。先週日本でも宇宙基本法という法律が通りました。これはどういったものかというと、宇宙で戦争をするための法律です。日本はアメリカが進めているミサイル・ディフェンスの計画に乗っかりたいのです。そうすれば日本の軍需産業は大変儲かります。そのために作られたのが宇宙基本法。簡単に言えば宇宙戦争法です。その理屈は、それが単純に儲かるからなのです。

同じことは地球温暖化からも言うことができます。このグラフは各国の二酸化炭素排出量を、1990年から60%それぞれの国ごとに減らしたグラフです。つまり地球温暖化が止まるときのグラフです。しかし真ん中の赤いグラフは軍備が消費する石油から出る二酸化炭素です。(かなり高い数値)これは爆弾を爆破させたときに出る二酸化炭素、建物が破壊され立て直すときに出る二酸化炭素排出を入れていません。純然たる石油消費からの二酸化炭素排出量です。例えば私が環境運動家で「平和運動などの政治的なものには関わりたくない」というスタンスで、ついに地球温暖化を防止できたとします。しかし軍備に口出ししていなかったために、軍備から出る二酸化炭素のせいでやっぱり滅びた、という結果を招きます。自己満足のための運動であればそれで構わないのです。しかし本当に助かりたいと思うなら、軍備を問題にしない環境問題はなんら役には立たないということになります。そして軍備から出る二酸化炭素は、我々のけなげな努力を馬鹿にしてくれます。最近私はHondaのフィットという車に買い替えました。リッター24kmの燃費で走ります。その脇を戦車が走っていったとします。戦車の燃費はリッター250m。ほとんど石油をジョウロで撒きながら走っているようなものです。そして私がコンビニで「そのレジ袋要りません」と断っている頭の上を、F15戦闘機が全速力で飛んでいったとします。F15戦闘機が8時間全速力で飛び続けたなら、日本人一人がオギャーと生まれて死ぬまでの二酸化炭素を排出します。つまり軍備が排出する二酸化炭素の量は桁違いなのです。これを止めずに助かることはありえません。

そして世界の軍事費の半分を占めているのは、アメリカです。アメリカが突出しています。アメリカ経済は、実は財政赤字で貿易赤字です。お金がないのです。どうしてアメリカは戦争の費用が出せるのでしょう。実は国債を出して世界中に買ってもらっています。その国債の資金で戦争をするのです。その国債を最も買っている国が、日本です。日本が全体の38%を買い上げています。イラク戦争時のアメリカの軍事費と日本が買っている国債額は、ほぼパラレルに動いています。つまり、みなさんの貯金を使って国が買った国債で、イラクの人々をこの5年間で100万人殺し、彼らの頭の上にミサイルをプレゼントした、という構造になっています。

このように我々のお金は、とんでもない加害行為を行っていたのです。ではどうしたらいいのでしょうか。私は運動には3つの方向があると思っています。ひとつは「縦」です。自分自身が政治家になるか政治家に影響を及ぼすなりして上から下へ、または下から上に社会を変える動きです。もう一つは「横」です。ムーブメントを起こそう、隣の人に伝えよう、と広げることで運動を起こす動きです。この縦と横だけの従来型の運動では、うまくいかないと諦めていました。しかし私はもう一つあると思います。それが「斜め」です。全く別な仕組みを考え、現実に新しいやり方を実行する方法です。このオルタナティブな道がもうひとつ残っています。日本にはオルタナティブな方法が、極めて少なかったのではないでしょうか。この縦、横、斜めの動きを同じくらいやっていくことが必要ではないか、と私は思います。

そこで私はお金の仕組みについて考えていましたので、「未来バンク」という市民が勝手に作る銀行を作りました。たった7人で400万円を出しあって始めました。そのバンクは、環境にいいことか、福祉か、市民がよりよい社会を作る動きにしか融資をしません。金利は3%の固定で単利(元本にのみ利子がつく仕組み)というものです。すぐつぶれると周りから言われていましたが、意外に続いています。現在は2億円の出資額を集め、8億円を融資しました。貸し倒れは0です。市民が勝手に銀行を作り、自分たちが実現したい社会を作ることに融資をするという仕組みがうまくいったのです。それが10年くらい続いたころに、日本中にこのような運動が広まりました。東京はやや乱立ぎみで、神奈川、北海道、長野、新潟、名古屋、岩手など、市民による銀行は各地に広まっています。今回私が福岡にきたのも、この銀行を福岡に作りたいという人がいて、その集会に参加するために来ています。日本中ほとんどの都道府県に、自分たちで銀行を作ろうという動きが広まっています。なぜこのようなバンクが必要とされるのでしょうか。私が未来バンクを作るとき最初に考えたことがあります。みなさんの方が、東京の人より貯金しています。東京は使い道が多く、貯金額が少ないのです。みなさんが貯金したお金は全部東京で使い道を決められています。銀行、郵貯、農協など全て東京で決められるのです。地方が受け取ることができるのは、唯一公共事業のときだけです。自分のお金だったものが、くだらない公共事業に使われて、潰れて赤字だけを残していく。これが公共事業のあり方ですね。みなさんのお金でありながら、みなさんの役に立っていないのです。だから私が思うのは、お金は中央集権にしてはだめだということ。東京にまかせたら、ろくなことにはなりません。だから各地域がお金を握るべきだと考えました。未来バンクは大きくなるつもりはありませんでした。「各地域にどんどん作ってほしい。それは手伝うから」というスタンスです。つまり各地域にお金をまわすための活動です。ここ福岡でも少しいけば過疎地になります。過疎地には高齢者が多いです。年金収入として3億円ほどお金が入っています。もしそのお金が地域にあったら、地域に投入することができます。投資されれば雇用が生まれます。雇用された人は食べるために生産を必要とします。そうすれば農業が始まります。経済的な地域循環が生まれるか生まれないか、その最初の一撃は「その地域にお金があったか・なかったか」ということなのです。その地域からお金を取り立ててしまえば過疎化します。しかしそこにお金が残れば活性化するのです。だから各地域にバンクを作るべきです。

このようなバンクの中で、もっとも有名なものがAPバンクです。ミスチル(Mr.Children)の桜井さん、小林武史さん、坂本龍一さん。この3人が出資し、環境にいいことだけに融資します。なんと金利は1%の固定、単利です。一億円融資したとして金利収入は100万円にしかなりません。損をするためのバンクともいえます。みなさんもこのバンクに申請して融資を受けることができます。このバンクができたことで、一番元気になったのは桜井さんではないでしょうか。彼と直接話したのですが、桜井さんは脳の病気になった時、こう思っていたそうです。「僕は人並みには努力した。人並みには苦労したと思う。でも人並みはずれたお金をかせぐようになってしまった。いずれ罰が当たるだろう」そうしたら病気になった。「やはり罰が当たった」彼はそう思い、音楽をやることがイヤになってしまったのです。なぜならお金が儲かりすぎるからです。彼はお金と音楽が一緒になることにウンザリしていたのです。その時たまたま彼と知り合った私は「それならバンクをつくればいい」と気楽に話したわけです。「バンクはないでしょう」と彼は言いましたが、しばらくして彼から「バンクしかない。作りたいから手伝ってくれないか」という連絡がありました。こうして作ったのがAPバンクです。そしてはじめて桜井さんはこう言いました。「このCDを買ってください」と。「このCDで稼いだお金がAPバンクの融資の資金になります。だから買ってください」と言えるようになりました。APバンクのおかげで、桜井さんは音楽とお金を切り離して考えることができるようになりました。稼いだらバンクに投げ込めばいいのです。こうして彼はお金を稼ぎ過ぎる苦しさから逃れることができたのです。これはドンドン赤字になってしまうバンクですから、その赤字の穴埋めとして行っているのが「APバンク・フェス」です。3日間のイベントで8万人集まり、1億円儲かります。ところが5000万円税金で持っていかれます。残りの5000万円を融資の資金源にしています。

 

さてここから地球温暖化の解決策に入ります。よく言われるのが「地球温暖化はみなさんのライフスタイルの問題です。みなさんが努力すれば温暖化は止められます」というフレーズです。私も人の講演会に行くと必ずそう言われるのでウンザリします。それは全くの嘘です。なぜなら家庭の二酸化炭素排出量は、車の排出量を加えたとしても全体の20%です。1/5しかありません。残り4/5を出しているのは企業です。だから企業を問題にせずに、皆さんのライフスタイルのせいにしても絶対に解決しません。ならば本当に二酸化炭素を排出しているのは誰なのでしょうか。日本の二酸化炭素の半分は、たった230の工場からでています。これを企業別にみてみると、上位20社だけで排出量の4割を出していることになります。ここが問題なのです。これは減らすことができます。日本の二酸化炭素排出量の1/4は、51基の火力発電所が出しています。詳しくみていくと、発電効率の高い発電所とそうでないものがあります。一番効率がよいものに発電効率を合せてくれればいいのですが。このような規制を「トップランナー方式」といいます。一番効率のいい水準にあわせなさい、というものです。もしその規制を入れたなら、排出量は半分に減ります。ということは全体の1/8減るということですね。1/8という割合は、車を除く家庭の二酸化炭素排出量と同じです。たった51基の火力発電所にこのトップランナー方式の規制を入れるだけで、家庭の全排出を止めたことと同じ結果になるのです。ならばそれをやればいい。ところが政府は温暖化問題を人々のライフスタイルのせいにしても、企業や電力会社のことを問題にしたくありません。だから企業の話をせずに「これはみなさんのライフスタイルの問題です」と、必ず言うのです。残念ながらそれでは私たちは助かりません。だから私はこれに賛成する気持ちにならないのです。このトップランナー方式というのは、私たちにとって身近な規制です。みなさんが家庭で使っているテレビや冷蔵庫、洗濯機など全部トップランナー方式の規制が入っています。同じ規制をたった51機の火力発電所にかけてくれさえすれば、それだけで二酸化炭素を減らすことが可能なのです。だから問題を解決しようと思うときに、まずしなければならないことは「原因」を調べること。その原因に対して対策をとるということです。ところが原因を調べもせずに、我々がいつも聞かされることは「みなさんのライフスタイルの問題だ」という大嘘ばかり。それが現実です。

 日本が排出しているCO2の出所をみてみると、やはり電気が多い。次に産業が3割、車が2割です。実はこの3つだけで全体の8割を占めるのです。だからこの部分をなんとかするべきなのです。なかでも大きなウエイトを占めている電気について調べてみましょう。

 よく地球温暖化防止のために原子力発電を行うことは避けられない、といういい方がされますね。それは嘘です。なぜ嘘かというと、電気というものは貯めることができません。電気の大欠陥は貯めることができないことです。そこで電気の消費量が最も高いところ(ピーク)にあわせて発電所を作らなければならないのです。このグラフはピークが出た一日の電気消費量の変化を示すものです。朝4時から5時が最も少なく、仕事が始まると急激に上がります。ポコッと減っているのはお昼休みです。午後2時から3時にかけて最大の消費量がきて、その後なだらかに減少していきます。ところがこのピークは毎日出るわけではありません。出るのは決まって夏場だけです。しかも1年間は8760時間ですが、その中でピークは10時間だけなのです。

 このグラフは白と黒に分けてありますね。白い部分が家庭の消費、黒い部分が家庭以外の消費です。午後2時から3時にかけてピークがくるところをみてください。実は家庭では最も電気消費量が少ない時間帯なのです。ですから「みなさんが節電してくれれば発電所を作らずにすみます」とよくいわれますが、大嘘です。なぜならピークの90%以上は企業が出しているからです。では、なぜこれほど企業はピーク時に電気を消費してしまうのでしょうか。簡単に説明できます。これは電気料金のグラフです。私たちの電気料金は、ある程度まで「使うと使えば使うほど電気料金の単価が高く」なるように設定されています。家庭の方のグラフは常にあがっていますね。ある程度まで使うと、電気の単価そのものがあがってしまうので大損してしまいます。ところが企業の電気料金はどうなっているかというと「使えば使うほど電気料金の単価が安くなる」ように設定されています。このグラフは電気料金と平均消費量の関係を表したものです。家庭の場合は使うほど損します。企業の場合はたくさん使った方が1KWあたりの料金単価が下がるのです。だから製品一個あたりの電気のコストを下げたかったら、消費の多い時間にもっと電気を使えばいいということになります。そうすればコストを安くすることができます。これが現在の電気料金のしくみです。これは簡単に解決できるのですよ。こういう電気料金(高くなる方向を示す)に設定すればいいだけです。使えば使うほど単価が高くなる仕組みに変えればいいだけなのです。これで企業は損することはありません。省エネすれば得をするからです。こういうカーブ(使用量に比例して単価が高くなる設定)に変えれば、おそらく企業は今の3、4割を節電するでしょう。現在、企業は3年で元が取れる省エネ設備を導入していません。なぜなら使うほど電気料金単価が安くなる現在のシステムにおいて、企業は省エネ設備を購入するのがもったいないからです。しかし設定を変えたなら、企業は必ず省エネ設備に切り替えます。そうすれば3、4割の節電は簡単にできます。仮に3割節電してくれたら何が起こるか。日本は、それだけで京都議定書をクリアします。京都議定書を守ることは不可能だとよく言われています。しかし電気料金単価のカーブを変えるだけで、解決可能なのです。それではそうすればいいのですが、問題なのは原因を調べようとした人間、このような分析をした人間が私以外にいないことなのです

 これは2003年夏の東京電力のグラフです。この年電力会社が原発事故を隠す事件が起こったので、すべての原発を止めざるをえなかった。そうすると電気が足りなくなってしまうので、節電を呼びかけるために「電気予報」という数値をインターネット上に公開したのです。私は早速数値をダウンロードし、グラフ化しました。赤い線がその日の最高気温、黒い線がその日の電気使用の最大ピークです。大体一致しているようにみえますが、ここをみてください。気温が上がっているのにピークが下がっているところがあります。整合性がないようにみえますが、土日とお盆などをグラフから隠してみましょう。そうするとここにはハッキリとした定理が読み取れます。ピークがでるのは「夏場」「平日」「日中の午後2時から3時にかけて」「気温が31度を超えた日」に限られています。ということはこのピークの問題は簡単に解決できます。夏場、平日、日中午後2時から3時にかけて、産業の電気料金を高くすればいいのです。これだけのことで解決可能な問題なのです。ところがこのようなことに気づく人がいない、それが問題なのです。

 発電所はピークの電気使用量のために作られます。日本では夜の電気消費が少なく昼が多い。その格差がとても大きいのです。消費量の平均値は、ピーク時に比べると58%しかありません。だから日本の発電所は平均で58%しか稼働しておらず、あとの42%はお休みしている状態なのです。それに対してドイツや北欧では72%稼働しています。なぜでしょう。消費量グラフの曲線をなだらかにする、つまり「電気消費が集中する時間帯を作らない」ようにしたのです。発電所というものは、ピークの10%多く発電しなくてはなりません。一日の消費総量を変えずに、ピークの曲線をなだらかにするだけで、発電所は今よりずっと少なくて済むのです。日本がドイツ・北欧なみにピークをださない工夫をすれば、発電所はなんと1/4いらないことになります。25%の発電所は必要がなくなります。日本の原子力発電所をあわせると全体の22%です。ピークを下げさえすれば、日本の原発は一基もなくても困らないことになります。

 ではどうすればピークは下げられるか。電気料金の設定を変えることが一番簡単です。フランスは夏場になると電気料金が10倍高くなります。カリフォルニアやイギリスでは株式市場で各時間帯の電気料金を取引します。人気が殺到する時間帯は100倍の値段になってしまう。そういう時はみな電気を買いませんから、ピークは下がります。

 アメリカにはもっと賢い仕組みがあります。家庭内の電気を節約したい場合、電力会社に依頼して2本の電線に分けてもらうのです。一本はエアコン用、もう一本はその他の電化製品用にします。そして、ピークが上がり電気が足らなくなる日は、電力会社が遠隔操作でエアコン用のスイッチを切るのです。熱くて死にそうになると思うかもしれませんね。しかしスイッチを切るのは5分間だけです。リレースイッチを使って各世帯5分ずつ消していくのです。12世帯あれば、1時間消すことができますね。それによってピークを乗り越えることができます。本来はもう一基発電所が必要になるところが、この遠隔操作で建設しなくてすむことになります。そのお金(発電所を建設せずにすんだ分)を利用者に還元する、つまり電気料金を安くするのです。

もっと賢い仕組みを実行している電力会社もあります。カリフォルニアにあるスマットという電力会社です。省エネタイプの冷蔵庫を購入したという領収書があれば、この会社は3万円をキャッシュで与えるのです。白熱灯を蛍光灯ランプに変えると申告すると、無料で蛍光灯をくれます。なぜそのようなことをするのでしょうか。ピークがあがるともう一基発電所を建てなくてはならないからです。原子力発電所の場合だと、建設費は4000億円もかかってしまいます。ピークを下げるために4000億円配ったとしても同じことです。だから電気が足らないから発電所を作るという考え方ではなく、その発電所を作らなくてすむような仕組み、つまり「人々に需要を下げてもらう。そのためにお金を配る」という仕組みを利用しているのです。このような仕組みを使えば、日本はもちろん発電所を減らすことができます。さらに「使えば使うほど高くなる電気料金システム」にすれば、このエネルギー消費自体をここからさらに3割減らすことができます。これが仕組みから考えた場合の地球温暖化対策ですね。排出している二酸化炭素は「電気」の割合が大きく、その原因は電気料金が「無駄に消費しろ」という仕組みを持っていたから、ということになります。

 では一方の家庭側の消費をみてみましょう。家庭の中で何が一番二酸化炭素を出しているかというと、電気と車です。1日1分シャワーの時間を短くしましょうと言いますが、ほとんど効果はありません。水は二酸化炭素排出に殆ど関わりがないからです。圧倒的に高いのは電気と車です。

 その電気について調べてみましょう。家庭には電化製品の四天王がいます。エアコン、冷蔵庫、照明、テレビです。その四天王だけで家庭内の電気の2/3を消費しています。省エネ電化製品に切り替えるべきなのは、この四天王です。この四天王の省エネの状況をみてみましょう。冷蔵庫が一番省エネしています。1995年の製品の電気消費量を100とするとマイナス90%の省エネです。つまり新しい冷蔵庫を10台並べても、95年式の冷蔵庫1台分と同じ電気消費量なのです。それ以外の製品も、みな50%は減らしています。ですから電化製品の四天王を省エネ型の新製品に買い替えるだけで、電力の50%を節電できることになります。「節電のためにひたすら努力、忍耐する必要がない」ということが重要なのです。

 私達は「未来バンク」を通じて融資を行っています。この融資の仕組みを使ったら、どのようなことができるでしょうか。私が発案し、江戸川の地域グループが実行していることを紹介します。私が未来バンクをやっているのに彼らはAPバンクからお金を借りたのですが(笑)そのお金で冷蔵庫を買い替えたいという人に融資をしました。まず冷蔵庫を買い替えたい人に、現在使用している冷蔵庫の写真(ドアの内側に貼ってある製品情報のシール)を撮ってもらいます。その写真の情報から、買い替えた場合どれくらいの電気を省エネできるか計算をします。この写真の冷蔵庫の例では、一年に27,328円電気代を節約できます。安くなる金額(27,328円)を根拠に20000円×5年間分(=10万円)を融資します。なぜ10万円というと、その金額で省エネ冷蔵庫が買えるからです。年に20000円ずつ5年間で返済してもらいますが、その間も利用者は省エネ分の7,328円を毎年得するのです。冷蔵庫は平均12年間使用できますので、返済後の7年間で20万円ほど得をします。(節電分の27,328円×7年間=191,296円)得しかしない仕組みなのです。そして二酸化炭素は激減します。私たちは現実にこれを実行しています。これがお金を使った「社会の仕組み方」なのです。でも気にかかることがありますね。今の冷蔵庫がゴミになってしまってはもったいないということ。私もそう思っていたので調べました。冷蔵庫は平均12年使われる間、その消費エネルギーの91.7%が電気です。その次に7%が鉄の精製や素材の採掘。廃棄のエネルギーは0.3%です。その結果グラフを描いてみるとこうなります。先ほどの95年式の冷蔵庫を使い続けていった場合、古い冷蔵庫を廃棄・新製品を製造・使用した場合の比較です。お分かりの通り1年4ヶ月以上使えば、買い替えた場合の方がトータルのエネルギー量は減ります。これは冷蔵庫にしかなりたたない図式です。冷蔵庫は使用に関してほとんど個人差がありませんし、省エネ率が高いからです。一方エアコンの場合、我慢する人は買い替えないほうがいいし、たくさん使用する人は買い替えた方がよいことになります。

 これは私の家の電気消費量の実績です。2003年はこの線です。うちには省エネする気のない大学生が二人いるので、2004年はこんなにのびてしまった。(笑)ところが冷蔵庫を買い替えたら、カーブは同じですが下回りました。うちの場合、年間25,000円の電気料金を得しました。こうしてみると、努力・忍耐しなければ節電できないというのは本当だろうか、と思うわけです。

もちろん努力・忍耐できる人はやった方がいいですよ。しかしほとんどの人は努力・忍耐が長続きしません。長続きしない人達にアプローチするものでなければ、仕組みを作っても効果がありません。説教臭いことを言えば、ほとんどの人の耳は閉じてしまいます。でも「お金が儲かりますよ」というと耳がピクッと動くのです。だからお金が儲かる仕組みを見つければいい、ということになります。

 他の例もみてみましょう。白熱球を蛍光灯ランプに変えた場合、どれくらい電気消費が減るのでしょうか。同じ明るさなのですが、60Wが10Wになります。1日平均5.5時間使用するので、1年間で電気料金が約2,500円安くなります。仮に店頭で蛍光灯ランプを600円で販売しているとして、消費者を得させるためにどのような仕組みを考えたらいいでしょうか。新しい蛍光灯ランプを相手に渡して、4ヶ月後に省エネされた電気料金分600円(=蛍光灯ランプ代)を受け取ればいいのです。(蛍光灯ランプは白熱灯に比べ、月に約200円の電気料金が節約できるため)実質無料です。無料という仕組みであれば、誰が断るでしょう。しかもこの蛍光灯ランプは、白熱灯より8〜10倍寿命が長いのです。ランプ設置場所は玄関内・外、廊下、階段、風呂、トイレなど、各家庭に平均6カ所あります。6倍得することになります。得しかしない仕組みです。

 地域差も利用できます。那覇の暖房費はほとんど0です。札幌の冷房費はほとんど0。沖縄の冷房費負担、札幌の暖房費負担はとても大きい。そこでこういうことが可能です。みなさんが沖縄に知り合いがいたら「あなたのエアコンは、10年以上たっていませんか?」と聞いてみてください。10年以上のエアコンだったら、あなたが省エネタイプの新しいエアコンを無料で差し上げてください。そして「私の口座に、従来通りの電気料金を振り込んでね。沖縄電力の方には私からきちんと支払うから」と言うのです。沖縄で新しいエアコンに切り替えると、安くなる電気代は年間1世帯で52,000円。4年で元が取れ、その後はあなたの利益になります。

 札幌の暖房需要にも対応が可能です。エアコン、電気カーペット、電気コタツなど、電気は熱利用されています。そうならば、電気以外の熱利用を考えればいいのです。エネルギーの問題を考える場合、自然エネルギー利用より前にやるべきことがあります。「省エネ」です。自然エネルギー利用より省エネの方が、コストが6倍下がるのです。だからまず省エネを行ってください。自然エネルギーはその次です。熱の省エネは何かというと「断熱」です。これは苫小牧の公民館の普通の窓です。二重窓になっていて、外側はアルミサッシ、内側は木枠の窓です。これだけで抜群の断熱ができます。アルミというのは外の温度を内側に入れてしまう素材なのです。だからパソコン内を冷やすために使われていますね。しかし木枠の窓は、アルミサッシに比べて熱の伝わり方が1/1800も下がる優れた素材です。アルミサッシは、外の寒さを中に引き入れてしまう効率の悪い素材なのです。木製サッシを内側に入れるだけで、灯油代がかなり浮きます。ですので、先ほどの沖縄のような仕組みを使えば、あっという間に元をとることができますよ。

 夏場対策ですが、この大学もブラインドを使っていますね。実はブラインドは外の光を内側で熱に変え、部屋の中を暖める装置なのです。非常に不合理なものです。遮光は窓の外にぶら下げるものがいい。つまり「葦簀(よしず)」が一番いいのです。葦簀を一枚おくだけで室内の温度は2度下がり、エアコン代が浮きます。もっといい方法があります。その葦簀に霧吹きで水をかけてやること。そうすると約6度下がります。そうするとエアコンいらなくなりますが、ひとつ問題があります。だれか一人ずっと霧吹きしなくてはいけませんね。これはちょっと指がつらい。(笑)そこで自動化することを考え、ついに見つけました。「植物」です。緑のカーテンです。葉は、裏側から絶えず蒸散によって水蒸気を出しています。だから「自動散水つき葦簀」になるのです。沖縄ではよくゴーヤで行っていますね。ゴーヤは葉っぱが少ないのですが、実がおいしいのでよく使われています。植物のカーテンは室内温度を4〜6度下げ、体感温度を6度下げます。写真は実際の学校の教室ですが、この緑のカーテンをつけるだけで夏場にエアコンが必要ないのです。

 住宅そのものを、最初から省エネ住宅にすれば話は簡単です。これは、私が先月非営利で始めた「天然住宅」という事業の中で、省エネ住宅を造っているところの写真です。私は「営利」が好きではありません。なぜかというと、営利的企業はお金を稼ぐために自社の技術を隠します。ところが非営利は、多くの人々に極力その優れた技術を真似してもらおうというスタンスがあります。そういうオープンさが非営利のよさです。そこで私は、非営利の事業ばかりを行っています。この住宅会社は、通常の住宅の3倍もの木材(杉)を使用します。そして木材の接合に大きな金物を使いません。全部木組みで造っていきます。なぜなら木は面で接ぐと強いですが、点で接ぐとすぐ駄目になるからです。また木に金属が刺さると、そこから腐ってしまいます。一般的に家を1軒建てた場合、山側の業者の利益は50万〜80万円です。しかしこの天然住宅は500万〜1000万円の利益を山側に届けることができます。なぜこのような莫大な金額を山側に届けることができるのでしょう。それは山側で木材を加工させるからです。まず伐採した木材を、炭を作る時の要領で燻煙乾燥させます。木材を煙でいぶすのです。60度で10日間いぶします。そうすると煙が中に入り込み、木材はカビが生えにくく、虫が食いにくくなります。濡れてもすぐ乾くという木材になります。通常行われている120度での乾燥では、木の繊維はボロボロになってしまうのです。ところが80度より下の温度で乾燥すれば繊維が生きたままなので、ずっと強度がある木材になるのです。さらに乾燥させた木材を、すぐ組み立てられるように宮大工的な手法で加工します。そのまま材料を東京の建築現場に運び、プラモデルのように組み立てるだけです。東京では4ヶ月弱で家が建つので、コストが安くすむ。その分山側に利益を還元できる仕組みを作ったのです。この仕組みを使えば山の木を高く買い取ることができます。そうすると山側は出稼ぎなどしなくても生計が成り立ちます。そして山にまた植林することができるのです。

 この住宅の造り方ですが、まず柱となる木材に溝を切っておきます。そこに上から板を落としていくのです。板倉作りといいます。この構造は圧倒的に地震に強いのです。耐震認定もとっていますが、4tの重さを斜めからかけても潰れませんでした。基礎となるコンクリートですが、コンクリートは水との混合比によって強度が決まります。水を最大限少なくすれば、石のようになり1万年は保ちます。ところが水でジャバジャバに薄めてこのような建物(校舎を指す)を建てると、50年で壊れてしまうのです。私たちの住宅では、基礎のコンクリートへの水の配合を極力少なくしますので、コンクリートの表面が結晶化してガラスのように光っています。このコンクリートは、理論的に500年保つことになっています。この住宅を我々は300年保たせたいと考えています。ところで現代の住宅は、一般的に何年で壊されているかご存じですか?「26年」です。日本人は頭金を貯めてから平均34才で家を建てます。建ててから、きっかり定年60才で家が壊れることになる。(笑)そこで大規模修繕するか再建するかして、退職金パーになって、死ぬ。つまり男の一生とは、家一軒とほぼバーター取引になっている。(笑)ばかげていませんか?家一軒の奴隷になりたくて生まれてきたのか、と不思議ですね。ヨーロッパの人たちは、収入は少なくとももっと豊かに暮らしています。なぜか。中世に建てた家にそのまま住んでいるからです。古い家の間取りだけ変えて住むので、インテリアが発達したのです。日本の住宅も、もっと長く使っていいはずです。杉が使えるようになるまで50年かかりますから、少なくとも50年は保つ家でなければ社会的にも問題があります。森を壊すことに繋がるからです。天然住宅は和風建築だけではありません。防火認定をとっているので洋風建築も作っています。洋風の家には、ペレットストーブというものを標準でつけています。これを作っているのは、新潟のサイカイ産業という小さな企業です。通常の薪ストーブの燃料は木の中心部分しか使いませんが、このペレットストーブは木の皮、葉、根など何でも燃やすことができます。しかも燃焼効率が極めて高く、ランニングコストは灯油の半値です。建築材は丸太をそのまま使えるわけではなく、角材に加工しなくてはいけません。角材を取った後の木片は捨てています。どれくらいの割合で捨てているのでしょうか。実は家一軒を建てる木材のために、伐採された木の8割を捨てているのです。私たちの住宅の場合、建築材として4割を使用し、燻煙乾燥する際の燃料として2割を使います。でもまだ4割残りますね。その4割を先ほどのペレットストーブに使うと、木の端から端まで全部使えることになります。みなさんご存じでしょうか?都会の人は山に植林するべきだといいますが、日本の山はとっくに木が植わっています。重要なことは木を使うことなのです。しかも木を高く買ってあげないと、山の手入れができないし再度植林することができない。だから木材を高く買い、使ってあげることが大切なのです。この天然住宅の仕組みを使えば、木を高く買い取ることができます。そこにさらに仕組みを加えます。カーボンオフセット(二酸化炭素の帳消し)です。例えば、私は今年南極まで行きましたので、移動のために2tほど二酸化炭素を出してしまいました。心苦しい私は、他の誰かが減らしてくれた二酸化炭素に対してお金を支払うことにしました。このような操作をカーボンオフセットといいます。現在は二酸化炭素削減目標達成のための海外との取引ばかりが注目されていますが、国内でも応用できます。例えば札幌でこのペレットストーブを使えば、年平均13万2千円かかる灯油代を6万6千円に抑えることができます。灯油は年平均2000リットル使用しますので1000リットル分(5kg)の二酸化炭素を減らしたことになります。カーボンオフセットを利用すれば、減らした二酸化炭素を1万円買い取ってもらうことができます。(二酸化炭素1kgを2000円として計算)二酸化炭素を減らした分で1万円、灯油の節約分で6万6千円、1年間で得するわけです。現在ペレットストーブの価格は45万円ですから、6年間使用すれば実質ただになります。融資の仕組みを使うとしたら、このペレットストーブ代を渡し、カーボンオフセットと灯油節約分で返済してもらいます。本人の負担ゼロでこのペレットストーブを手に入れ、6年間で元が取れます。さらに仕組みを加えてみましょう。二酸化炭素排出を減らしたカーボンオフセット分の権利を未来バンクがもらいます。そして他に売ります。売った金額を、融資を受けた人の金利にあてます。そうするとどうなると思いますか?金利マイナスになるのです。普通金利というものは返済額が増えていくものですよね。金利マイナスということは、返済ができなくとも自動的に元本が減っていくことになるのです。金利マイナスの仕組みがあるならば、その融資を断る人がいるでしょうか?このような仕組みがある社会になれば「お金を稼がなければ生きていけない」と思わなくてもすむのです。こういった仕組みを現実的に作っていかなくてはならない。私はそう思っています。

この話をすると必ず言われるのが「でも石油の方が安いではないか」ということです。石油が安いというのはトリックです。このグラフは「イラクで取れる石油の最大量」×「2004年の石油平均価格」=「イラクが石油で得る収益」を表しています。イラクの石油を奪うためにアメリカが投じた軍事費がこれです。(大幅に上回っている)これは石油を奪うためのコストですから、石油価格に加えるべきですよね。石油を使えば二酸化炭素がでてきます。そうすれば温暖化が起こる。温暖化の影響と思われるアメリカを襲ったハリケーン「リタ」と「カトリーヌ」。この被害額も石油価格に加えるべきです。このような視点でみると、石油価格は今の20倍にも跳ね上がります。さらに石油には毎年2100億ドルもの補助金が出されています。それを含めると石油はとてつもなく高いものです。だから石油が安いと思うのはトリックなのです。

 一方このグラフは、太陽光発電の値段の下がり方です。こちらは風力発電の値段の下がり方。2001年の時点でアメリカの風力発電は1kw/hあたり4セント、約4円です。日本で最も安いといわれている原子力発電は5.9円です。どちらが安いですか?実はもう自然エネルギーの方が安いのです。もし日本がこのまま原子力発電を軸に考えるならば、日本はその愚かな発想のために世界に負けることになります。イギリス政府は家庭の電力需要をすべて風力発電でまかなう、と発表しました。ノルウェー政府は2030年には二酸化炭素排出量をゼロにする、と発表しています。日本は今回の洞爺湖サミットで、2050年に60〜80%排出量を削減するといっていますね。世界のレベルと比較すると、これは国際的に全くインパクトがありません。世界の進み方を知らないのは日本だけという状態です。

 もうひとつのトリックを紹介しましょう。経済のグローバリゼーションです。神戸から東京に荷物を運ぶ場合と、シンガポールから東京に運ぶ場合とどちらが安いでしょうか。実はシンガポールから運んだ方が安くなります。なぜ安くなるのか、これはほとんどの人が知らないことです。石油というものには税金がかかりますね。しかし「国境を越える石油」にはお互いの国が税金をかけないという決まりがあります。例えば飛行機ですが、国内線の方が割高です。2月のカリフォルニア往復など4万円を切ることさえあります。なぜそうなるのかというと、国境線を越える燃料(石油)には税金がかからないからなのです。その結果国外から運送してきた方が、国内で物を動かすより安くなってしまうのです。だから国外から運送してきたものに、国内と同じように税金をかけてしまいましょう。その日のうちに経済のグローバリゼーションは消えてなくなります。経済のグローバリゼーションはこのような仕組みを知らない人が考えついたトリックなのです。実態にそぐわない幻想です。

 そうするとおもしろいことがわかります。私たちが家庭内で二酸化炭素排出量を減らそうとした時、まず思いつくのは車に乗らないこと。往復8キロの通勤に車を使わなければ、1.8キロの二酸化炭素が減ります。それよりもっと減らせるものがあります。ブルーベリーは今アメリカから輸入しています。これを国内のものを購入するように切り替えると、ブルーベリーたった200グラムで二酸化炭素は2.8kg減るのです。そのものの重さの14倍減ることになります。これはイチゴもそうですよ。福岡はかなりイチゴを生産していますね。でもケーキに乗っている薬品くさいイチゴは、カリフォルニア産です。ケーキ用のイチゴはカリフォルニアから飛行機で運ばれています。たったイチゴ10粒のために1.3kgの二酸化炭素を排出しているのです。

 

 これらからわかることは、私たちができる最大の温暖化防止が「地産地消」だということなのです。地産地消以上に二酸化炭素を減らせる方法はありません。地産地消がどれほど温暖化防止に効果があるのか、ということが輸入作物を調べてみるとわかってきます。

 日本の家庭の場合、電化製品を省エネ仕様に変えるだけで電気消費量は半分に減ります。半分に減った電気消費2kwは、8畳分の太陽光発電でまかなえます。(8畳分の太陽光発電装置は170万円)なぜこれでまかなえてしまうかというと、日本の家庭における電気消費は、欧米に比べると1/3しかないのです。日本はもともと省エネの国だったのです。さらに家電製品のおかげで消費量が減りつつあります。だから私たちにとって「家庭内で消費する電力を自給する」ことはそれほど困難なことではないのです。おそらく後5年ほどすれば、経済的にも成り立つかたちで電力を自給することが可能になるでしょう。8畳の太陽光発電ができる家があるならば。できれば私たちは資産で生活していきたいですね。みなさんは資産と負債を勘違いされています。車、別荘、ヨット。これは資産でしょうか。負債でしょうか。これはすべて負債です。所有して利益を生み出すものが資産です。車のように車検、駐車代、ガソリン代などお金がかかるものは負債なのです。私たちが持つべきものは資産です。もうひとつ資産には定義があります。「支出を減らせるもの」も資産です。雨水利用して水道代が浮いたなら、それは資産です。電化製品を買いかえて電気代が浮いたなら、それは資産です。太陽光発電にしたならば、それも資産です。そういった資産を増やしていったならば、私たちの生活は何かにぶら下がらなくてもいいものにできるのです。従来の生活では、私たちは会社にぶら下がってきました。これは実にセキュリティーの低い生き方ですね。会社からリストラされたら自殺するかもしれない。日本では年間3万人の自殺者がいます。このようなセキュリティーの低い生き方はするべきではありません。どのような生き方がよいかというと、中心に自分を据えます。会社からも収入を得ているが、一方で農家のお手伝いをして農産物という形で報酬を得ている。それも資産です。NPOに関わり、それによって儲けはしないが実質的な労働に対する報酬を得ている。それも資産です。そしてそれ以上に、例えば英会話ができる、講演ができる、原稿がかける、イラストがかける、ものがつくれるなどで「自分の能力を高める」ならば、それはすべて資産です。多種多様な収入源を持てるようになるならば、会社から首になっても自殺しなくてすむのです。「百姓」という言葉は「百のことができる」という意味でした。たとえ不作だったとしても、100の仕事を持っていることによってリスクをカバーできました。だから私たちは「生活の百姓」になればいいのです。そうすれば会社にぶら下がって奴隷のように生きるのではなく、主体的に生きることが可能になるでしょう。さらに生活の中に資産をたくさん増やすことで、お金にぶらさがらなくても生きていけるようになるのです。「たいしてお金を稼がなくてもやっていけるよ。食べ物も水もエネルギーもあるし」という具合になります。このような仕組みを自分たちでどう作るのか、ということが大事になってくると私は思います。

最後に。皆さんは学生ですね。人間はアウトプットしたものが全てだと思います。アウトプットしなかったら、その人が生きていたことを実証できません。何をアウトプットするかがその人の存在を決める、と思っています。だからアウトプットできるものをどういう風に作っていくか、ということが非常に大事なポイントなのです。しかし、自分のどの部分がアウトプットに向くかを見つけることは、とても難しいです。なぜ難しいかというと、自分ではあまりに自然にやってしまうことなので苦痛を感じません。それが自分のアウトプットなのだと気づきにくいのです。例えば、僕は原稿を書くのが好きなのでサラサラ書いてしまうのですが、自分としてはそれが特殊な能力だとは思えないのです。なぜなら好きでやっていることだからです。でも今はこれが自分のアウトプットなのだと思えます。それぞれの人なりのアウトプットの方法はありますので、学生さんにはそれを見つけてほしいと思います。その中で自分自身を表現していってほしいのです。

私はデータマニアなのです。隣の人が見ているグラビアは気にならなくても、グラフはのぞき込んでしまう。(笑)だからこういったことを調べるわけですが、誰もが僕のようなデータマニアになる必要はありません。データマニアなんてむしろうっとうしいから、4、50人に1人くらいいればたくさんです。(笑)そういうことよりも、これらの知識をたくさんの人に伝えられる方がよっぽどいいですね。坂本龍一さんやミスチルの桜井さんは、言葉で伝えるのは苦手なのです。桜井さんに聞いてみたことがあります。「言葉で伝えるのと、音楽で伝えるのとどちらが楽?」「それは、音楽ですよ!」彼にとっては言葉よりも音楽で「こんな感じ」と伝える方がよっぽど楽なのです。人には人に応じたアウトプットの方法があります。その方法をみつけ、それを利用して多くの人々に自分の思いを届けていってほしいのです。そうし続けることが、その人が生きた証になるのです。みなさんはそのツールを大学で学ばれているのだと思います。将来的にそれを活かして、自分がやりたいこと・やるべきことを自分なりの表現方法で出していってほしい。そう思います。

以上で終わりにします。どうも長い時間ありがとうございました。

 

 

(質問)文学部のものです。今日はありがとうございました。発電所のお話ですが、電力会社は常にピークの電力を提供しているのでしょうか?

(田中氏)発電所はピーク時に合わせた最大電気量を発電できます。通常の発電量は火力発電で調整しています。火力は簡単に弱火にすることが可能ですから。需要が増えた分は火力で調整していきます。調整したり、消したりすることができないのが原子力発電所と、石炭火力発電所です。一日ずっと稼動しています。火力発電は火力を加減して調節するのです。それをいいことに原子力発電がベース電源なのだ、と電力会社は言っています。でもベースにすることはないですね。しかし彼らは「ベース電源」という言葉によって「原子力発電ははずせないものだ」という印象を与えようとしているのです。自然エネルギーは調節の面からいうとベース電源になります。自然エネルギーをベースとして導入すると、原子力発電とかち合ってしまいます。だから日本の電力会社は自然エネルギーを入れたがらないのです。コストが低い風力発電が適している地域は、北海道と東北地方、九州です。今導入されている風力発電の20倍は増やすことが可能なのです。九州電力は原子力発電優先ですので、自然エネルギー導入に対して圧力をかけています。

 

(質問)

芸術工学部のものです。実際に省エネ電化製品が店頭で販売されていますが「電気代が節約できた」と感じたことはありません。それは私が表示を信用していないからそう感じるのか、それともメーカー側の努力が足らないのでしょうか?

(田中氏)

いいポイントですね。こういう言い方が適切かどうかわかりませんが、メーカーはサバを読みます。例えば冷蔵庫ですが、日本は高温多湿なので外国では必要のない「霜取り装置」がついています。外国のものと比べる場合は、その霜取り装置をオフにして消費電力を調べます。ところが実生活の中では霜取り装置を稼動させるので、消費電力は上がってしまいます。これではあまりに激しいサバ読みになってしまいます。私たちは冷蔵庫の実質的な電気消費量のデータを持っていましたので、それを審議会に提出しました。その結果、2006年から冷蔵庫の電気消費量のサバ読みが禁止になりました。今現在、店頭で販売されている冷蔵庫に関しては、これだけ節約できるという表示は実績です。かつての商品はサバ読みがあり実態にそぐわない、ということなります。諸外国との電気消費量の比較は非常に複雑です。日本の冷蔵庫独特の機能があるからです。とはいえ日本の家電製品は、世界的に最も省エネしています。なぜここまで技術が進んだかというと、先ほど申し上げた「トップランナー方式」(トップの性能を規定にする)を1997年に導入したからなのです。そのおかげでいまや世界一なのです。トップランナー方式によって世界的な競争力を手に入れたなら、なぜ発電所に関してそれを導入しないのか、と私は思っていますが。

5月30日18:30〜

田中 優(たなか ゆう)

1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」 理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「中間法人 天然住宅」副代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、大東文化大学の非常勤講師。  著書(共著含む)に『環境破壊のメカニズム』『日本の電気料はなぜ高い』『どうして郵貯がいけないの』(以上、北斗出版)、『非戦』(幻冬社)、『Eco・エコ省エネゲーム』『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方』『戦争をしなくてすむ30の方法』『世界の貧しさをなくす30の方法』(以上、合同出版)、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』(岩波書店)『地球温暖化/人類滅亡のシナリオは回避できるか』(扶桑社新書)『おカネで世界を変える30の方法』(合同出版)『今すぐ考えよう地球温暖化!1〜3』(岩崎書店、子ども向け)

 

九州大学は、地域の人々と関わり風土を慈しむ心を養う学生教育プログラムを始めました。自分が生きる土地のものを食べる「地産地消」は、単に健康のためだけではありません。温暖化や世界貧困などの社会問題に深く関わっているのです。「地産地消」につながる世界的社会問題や文化的背景について学び、未来につづく道を共に探しましょう。

現代GP(Good Practice)とは、優れた大学教育プログラムを支援する制度です。九州大学・現代GP「地域環境、農業活用による大学教育の活性化(大地、生命、農業と芸術の融合による教育プログラム)」の一環として3回の講演会を行うことになりました。次世代のために、心を見失った物質中心の社会システムを改善し持続可能な社会を取り戻さなければなりません。そのためにはまず温暖化や世界貧困を生み出す社会のあり方に目を向け、それらが私たちの「食」や「地産地消の農業生産」に結びついていることに気づく必要があります。受講者自身が問題を主体的に考え、創造性豊かな提案と行動する力を養うことを目標にしています。大学生と、地域の方々が共に学ぶ新しいプログラムです。

→参考:未来につづく道「橘の響き」「命の根」

九州大学大学院芸術工学研究院 知足(ともたり)美加子

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