《母の膳  (八女大内邸)》 

 

 

 

 福岡県八女市に「白城の里、旧大内邸(→HP)」という古民家(1884年〜、立花町有形文化財)があります。海外との交流に尽力した大内暢三の生家で、生涯学習・文化交流・地域振興の施設として活用されています。「白城の里 旧大内邸生活文化研究会」会長の田中真木さん(→紹介記事)は、メンバーとともに、大内邸を訪れるの方々のために「母の膳」と名付けた季節の料理をふるまっていたそうです。ここには、約90年間引き継がれた糠床もあります。私は、田中里佳さん(デザイナー)のご紹介で、旧大内邸の敷居を跨ぎました。

 田中さんは当初、「大内邸に残す何か:魚鼓(禅で時を告げる木製法具)のようなものを作ってくださいませんか」と、私に依頼されました。お話をうかがう間にも、美味しいお料理や水出し玉露が、次々と目の前にでてきます。たくさんの方々を料理(母の膳)で幸せにし、あたたかい思いが行き交う場を作ってこられた田中さん。その日々の行いや思い、時間の厚みが、彼女の後ろの空間にひろがっているようでした。

 そこで意を決して私は、「田中さん。私は田中さんをモデルに彫刻を作ってみたいのですが」と申し出ました。田中さんは大変驚かれて、「私などだめです」と首を横に振っておられました。私は、「田中さんそのものではなく、母の膳に携わってこられた割烹着のみなさんのイメージを総じてつくりますから」と説得し、田中さんの了承を得ることになりました。制作中も、田中さんは立花町特産のキウイや佃煮など、美味しいものをたくさん届けてくださいました。その優しさに、元気をいただきながら鑿を振るいました。彫りながら、割烹着をきた優しい姿(親戚や亡母など)が、私の心を通り過ぎていきました。

 料理は、食するとなくなってしまうようにみえます。でも心の奥底に、あたたかい滋養を与え、本当に辛い時支えてくれる記憶になります。私の職場(大学)で、悩んでいる学生に、「あなたがまだ食べていない美味しいものが、この世にはいっぱいあるんだよ。もう少し、がんばってみようよ」といって励ますことがあります。コロナ禍でしんどい思いをかかえる方々に、この彫刻を通して、あたたかく優しい気持ちを少しでも届けられたら幸いです。

  (引用旧大内邸HP)




「広報八女」2021年1月1日号に寄贈風景が掲載されました

 

 

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