心理学入門
妹尾 武治
はじめに
“有名な100の心理実験”(最高峰の学術誌に査読を経て掲載されたもの)の再試験を、270人のボランティア科学者が実施した結果、ほとんど同じ結果が出なかった。2015年の科学雑誌「Science」にそう報告された。
科学の世界では「実験」の結果が何度やっても同じになることを「再現性がある」といい、そのチェックのことを「追試」と呼ぶ。再現性のある結果だけが科学的事実として認められ、後世に残る。
100の心理実験で再現性があったのは、わずか36%だったという。この論文以降、心理学の有名な実験はほとんど怪しいのではないかという疑念と批判が投げかけられるようになった。
その後2018年に「Nature Human Behaviour」に載った論文では、21本中13本(62%)が再現されており“再現性の崩壊”という報告それ自体も再現できない(誇張だ)という意見も出た。だが化学や物理学の実験では “100%の再現性”をもってでしか「科学」であるとはいえないのだから、62%であったとしても全然科学の水準に達していない。
心理学では一つの実験を追試すると、その再現性が0か100で決まらないケースが多々ある。例えば、心理学者の高野陽太郎東京大学名誉教授は、日本人は集団主義であるという海外からの意見を否定する実験データをいくつも報告している。一方で集団主義的日本人論を肯定する行動実験のデータも確かにある。両者が互いに追試を行うことで「ここまでは成立しているけれど、ここから先の結果はうまく再現できない」という状態になることもよくある。
この「再現性が部分的にしかなく、足りない」という事態そのものが「科学としてナシなのだ」という意見もある。
事実や意見はどうであれ、私は心理学が好きだ。どうか最後まで読んでほしい。