彫刻作業日記   >Buck

彫刻は時間を必要とするものである。制作する間に出会ったことを自分で確認するために、内省をこめて記していきたい。

2006年6月/7月.8月

7月4日
シュタイナーの母子クラス(にじのおうち)の方々が、寒立馬を観に大学に来て下さった。親子で作品に乗って、香りや手触りを感じてくださった。(先週も大学見学にきた小学生たちがなでたり乗ったりして鑑賞していた)そんな光景が作者にはかけがえのない宝物だ。少しでも人を幸せにできたら、こんなに嬉しいことはない。

「子供」というのは都市社会の中に残された唯一の「自然」なのかもしれない。コントロール不可能な案配の世界(自然)に、真摯に向き合う女性たちの魂は磨かれている。私が今傾倒している農学家・松田甚次郎の話をしても、自然食に通じているみなさんはピンときてくださる。

松田甚次郎の著書「土に叫ぶ」にはしびれる。どんな美術書より圧倒的な迫力をもって、私の胸を打つ。大地主の総領息子でありながら宮沢賢治の「10年小作をやれ、農民劇をやれ」の言葉に荒れ地で小作を始める。数々の堆肥の生成法を研究し実践する。(冬の早朝から下肥や川の芥を集める)非営利主義、自給主義(米ぬかの醤油、毛糸、蜂蜜など村単位の自給)共同村塾(次世代のための農業指導、助産も常駐)共同炊事・風呂・託児所づくり・禁酒運動(農家の女性たちの心労軽減のため)等々。自転車を改良して毛糸を紡ぐ機械を作ったり、味噌をサイロで発酵させたりと並々ならぬ探求心をもつ人物だ。また農民劇によって喜びと気づきを与え、現実を変える原動力にした。昭和18年に35才で惜しくも夭折。彼の実践は先進的で、持続可能な世界をめざす現代人には重要である。

研究室で木彫を体験してもらう。なぜか皆、防音具をつけたがりかわいい(笑)写真は1才の木彫体験者・わーちゃん。

7月27日
前の欄の日付をみて驚く。20日以上も更新していなかったのだ。ここ数週間オープンキャンパスにむけての学科紹介媒体制作に関わっている。各先生方に細々とした情報提供を依頼しなくてはならない。こういうときに限ってトビヒを患った子供がしばらく保育園に行けない。子連れで研究室にきてメールをチェックする日々が続いた。来週火曜の学科会議内プレゼンに向け、頭の痛い日々がはまだ続く。コミュニケーションというのは善意のやりとりだけでなく、他者との齟齬の中で建設的な姿勢を維持していく忍耐力でもある。

隙間隙間で鑿を研ぎ、木槌をふるう。まともな感覚がよみがえってくる。最初は羽の表面にとらわれていたが、骨格の美しさを感じるようになってきた。鳥というのは飛ぶために削ぎ落としてきたものが形を構築している。

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