
2012年秋 工藤撮影 オランダ・スキポール国際空港
2012年に学振DC2「教育施設におけるサイン計画に関する研究―障害種別の形と色の認知特性に着目して―」の助成を受け、オランダのインクルーシブ校や特別支援学校で、障害がある子どもたちに使用されている視覚支援の現状を知るために、初めてオランダを訪れました。
その時に思いがけず出会ったのが、デルフト工科大学名誉教授Paul Mijksenaar氏がデザインした、スキポール国際空港やオランダ鉄道のサインたちでした。
驚くほど見やすく、わかりやすく、魅力的なサインに魅せられ、入国してすぐに、のめり込むようにシャッターを切りました。 スキポール空港のサインは文字がとても読みやすい。どうしてこんなに読みやすいのか、とても不思議に思いました。
ピクトグラムは、「標準」を意識しながらも、美術館スペースや子どもの遊び場など、人型と動作、そして効果線を取り入れてデザインされていました。博士課程の学生として、知的障害児者にもわかりやすいピクトグラムの調査途中であった私の背中を押してくれるような、グラフィックデザインでした。このデザインを見た時に、自分の仮説に確信を持てたことを今でも覚えています。



オランダ滞在期間は秋で、朝は暗く寒い季節でしたが、オランダ鉄道のサインは、朝早く暗く寒い時も、ギラギラとした明るさではなく、青色を使用しているにも関わらず冷たい印象はなく、まるでデルフト焼きのように、包み込むように、でも明確に情報を届けてくれました。



2012年秋 工藤撮影
2026年5月、14年の時を経てPaul Mijksenaar氏にお会いし、ずっと不思議に思っていた謎に答えていただきました。Paul Mijksenaar氏をご紹介を下さったのは、ISO TC145 SC1日本国内主査であり、i Design 代表の児山啓一様。児山様と、Paul Mijksenaar氏は長年のご親友。ご縁をおつなぎいただきましたことに、心より感謝申し上げます。
Paul Mijksenaar氏には、スキポール空港のサインマニュアルの説明をいただきました。文字が読みやすいことが、最大の魅力の1つですが、そのために、カーニングやウェイト調整に膨大な検証をしていたことがわかりました。いくら検証をしたしても、「どれを選ぶか」はデザイナーに任されるわけですが、そこはやはりPaul Mijksenaar氏の力量としか言えません。

また、膨大な実践とともに膨大な資料収集とその読み込みもされていました。その中の1冊、ずっと読みたかった、しかしもう手には入らない、Jock Kinneir氏の「Traffic Sign1963 Report of the Trafic Signs Committee」を読ませていただきました。
◾️Jock Kinneir 氏については、こちらを参照ください
大事になさっている本やお話をお聞きして、デザイン史や視知覚心理学への関心が高くリスペクトがあると感じました。工藤がリスペクトする、Harm. J. Zwaga氏への敬意もお話しされていました。
Paul Mijksenaar氏の事務所であるMIJKSENAAR officeは、サインデザイン革新的な研究と実践を行なっており、オランダでのその実装の現状を視察し、ディテールをヒアリングすることも今回の目的でした。
その1つ目は、同事務所より2021年に発行された「Beyond the Binary –Setting the wayfinding standard for inclusive restrooms」についてです。ここでは、トイレは男女で分けるのではなく、機能で表記することが望ましいと言及がされています。加えてピクトグラムのデザインを変えるだけではなく、教育やコミュニケーションの重要性も指摘していました。

◾️詳しくはMIJKSENAAR office Design for all のレポートへ
今回アムステルダムを訪れたところ、動物園、博物館などでは男女の人型ではなく、便器や小便器のピクトグラムが採用されており、トイレの使われ方もインクルーシブでした。訪れるターゲット層と施設を選んで、実装しているようにも見受けました。


ARTIS アムステルダム王立動物園 のトイレ: 小便器と便器のピクトグラム

Resistance museum 抵抗博物館 のトイレ: 便器のピクトグラムとともにALL GENDERの文字表記で強調

National Holocaust museum 国立ホロコースト博物館 のトイレ: 車椅子ユーザーと便器のピクトグラム
2つ目は、認知心理学とグラフィックデザインを専門とし現役でデザイナーをしながら、博士後期課程(心理学)に在籍しているFenne Rofes氏が主導した、メトロのサインデザインについてです。
Fenne Rofes氏はグラフィックデザイナー兼研究者であり、工藤と同様に知的障害者を対象としたグラフィックデザインに関する研究を行ってきたことから、以前から高い関心を持っていました。Paul Mijksenaar氏のおかげで、今回彼女と会う機会を得ることができました。

左:Fenne Rofes 氏 中: Paul Mijksenaar氏 右:工藤
軽度の知的障害がある人、Low literacy、オランダ語を話さない人の3属性を対象に、サイン表記の好ましさ(テキストのみ、ピクトグラムのみ、テキストとピクトグラムの併用)を調査した結果が反映されています。


アムステルダム地下鉄 vijzelgracht駅

アムステルダム地下鉄 Amsterdam Central 駅
サイン上に文字のみで情報を表記するに際し、レイアウトに気を配っている様子がわかりました。矢印の方向と文字をグルーピングする旗を90°倒したような白地図形がとても印象的で、実際に見ても大変わかりやすい印象を受けました。
Fenne Rofes氏からは、海辺での危険を示すビーチフラッグとピクトグラムの取り組みも共有いただきました。工藤研究室の学生が取り組んでいる幼児のピクトグラムの理解度にも関連する内容で、大変興味深いものでした。
◾️詳しくはMIJKSENAAR office Labのレポートへ
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Paul Mijksenaar氏と児山啓一様
少し話題はそれますが、Mijksenaar氏がつくった俳句(サインデザインの真髄)を、児山様と児山様の奥様が共同和訳。私たちが訪問した日に、 MIJKSENAAR officeのサインとして竣工、というサプライズ!お二人、そしてオランダと日本の友好の証を感じました。

MIJKSENAAR officeの前で記念撮影: とても天気が良く、暑い日でした
上記以外にもたくさんのご教授と、温かい歓迎を受けました。
お忙しい中、お時間をいただき大変丁寧にご説明を頂戴しましたPaul Mijksenaar氏、 Fene Rofes氏はじめ、全てのMIJKSENAAR事務所の皆様、ご縁を繋いでくださったi Design代表・ISO TC145 SC1日本国内主査 児山啓一様に心より感謝申し上げます。
※科研基盤B「知的・精神・発達障害者の視覚特性を包摂するサインデザインガイドラインの開発」(25K03411)の助成を受け行われました。今回頂いたご教授や知見、ご提供いただいた資料を活かし、引き続き研究を進めてまいります。