サイン音とは何らかのメッセージを伝えることを目的としてデザインされ、製品等に付加される非言語音のことです。サイン音は、メッセージを的確に伝える機能性と同時に、製品や空間のイメージとの調和といった意匠的側面も重要で、使用場面に応じた適切なデザインが求められます。
サイン音をいかにデザインするのかという問いに対しては、1980年代からのJ. Edworthyらのwarning sound design、ミュンヘン工科大や大阪大学での 警報音の研究が先鞭となります。1990年代からは、発音デバイスの発展やPCでの様々なサウンド UIの活用などを背景として研究が加速し、九州大学でも前身の九州芸術工科大学時代より岩宮研究室を中心として研究が蓄積されてきました。また、サイン音のデザインに関する制約は、過去四半世紀で大きく緩和されてきたと言えます。1990年代より、それまで圧電ブザー等に限定されていた発音機構が集積回路でのFM音源やPCMサンプリング音源が実用可能になり、さらに現在では情報システムに統合されたものも多くなってきました。音源選択や制御の制約はほぼなくなったと言っても過言ではないでしょう。しかしながら、デザインの手札は増えたにもかかわらず、機能性と美的性能を両立したデザインが実現した事例を探すと、決して多くはありません。
過去40年のサイン音研究の知見が、サイン音の創造的デザインに帰結できているとは言い難いでしょう。「どれだけ音を出すか、出さないか。出すとしたら、どんな音にするのか」という問いに対する解決を探求し、知見を体系化することが必要です。
研究室では、分かりやすさ・聴き取りやすさなどを考慮したユニバーサルな機能性を持ち、かつ感性に訴える美しさも両立するサイン音デザインを実現するための、機能的要求と創造的要求について総合的に検討し、統合的な高次のデザインの基盤的知見を体系化することを目指しています。
サイン音と視覚情報表示の視聴覚相互作用
情報インターフェースには主に視覚と聴覚が用いられます。視覚情報は継続的で複雑な情報や、情報の空間的な分布を示すのに適しているのに対し、聴覚情報は視野や注視領域によらず全方位的に情報を示すことができて、経時的情報の表示や使用者の注意喚起に優れています。聴覚による情報インターフェースの中でも、非言語の音響情報であるサイン音は、言語によらずに短時間に表示でき、ユニバーサルデザインの観点でも重要です。
視覚と聴覚の情報が同時に提示される場合、視覚情報の出現を聴覚情報によって知らせるという利用があります。ここでは、一般に、まず聴覚情報を知覚し、続いて視覚情報に到達するという順序関係になります。そのとき、聴覚情報と視覚情報の空間的配置(整合性)が高いほど、効果的に情報が伝えられます。それらが「どの程度」「どのように」整合させる必要があるのかを知ることは、より高度なデザインの基盤となります。
また、聴覚情報と視覚情報の意味(例えば緊急感の程度や、高級感などの印象の程度)が揃っていることは、視聴覚の情報が「一体のものである」と認知させるのに重要ですが、ここでも、「どの程度」「どのように」整合させるのが良いかのを研究することがデザインの基盤になるのです。
新しいサイン音のデザイン方法
どのような場面でどのようなデザインを実現したら良いのか、具体的にどういったプロセスで音を作れば良いのかという知見は未だ多くありません。既往研究の知見をどのようにサイン音の具体的な音制作に結びつけるかといった議論は未だ多くなく、新たにサイン音をデザインする際にはデザイナーの技術や芸術的センスに頼っている部分が大きいのが実情です。
そのためには,サイン音デザインに関する、設計者の意図と設計作業を結びつける「暗黙の知」を整理し、共有できる基礎的知見を言語化することで、技術教育や分野の発展の下支えに繋げられるのではないでしょうか。
研究室では、プロのサウンドデザイナーや学生参加者を対象に、音デザインプロセスの観察研究や、デザイン現場の課題の実状に迫る調査研究なども行なっています。