彫刻作業日記   >Buck

彫刻は時間を必要とするものである。制作する間に出会ったことを自分で確認するために、内省をこめて記していきたい。(2005年12月から)

4月3日
子供たちと近所のお友達である。やはり木は気持ちいいのか、抱きついている。みな1人で乗りたがり、順番をまわすのが大変だった。馬は葉っぱのエサを与えられていた(笑)

実は子供たちを乗せてあげたいなあ、というのが私のかくれた夢だったのでとても満足している。

今日はチョウチョ(木を繋ぐ方法)を入れ、割れの補修だ。この二日間で目留めや磨きをしなければならない。

4月4日
パテで補修をし、砥の粉を塗る。半乾きの間にタワシですり込んでいく。余分な砥の粉が舞い上がり、髪の毛がバサバサになる。シリコンワックスを布につけて磨く作業が残っている。学科会議の時間になり、中途半端な気持ちで作業を終える。雨が降り込んでいるし、ここで中断してよかったんだと、気持ちを切り替える。

補修中は、ここもう少し彫った方がよかったかなぁと独り言がでていた。砥の粉を塗るとそれまでの作業部分に一度幕が下りた感じである。これが私の限界なのだ。でも今のベストエフォート(最大限の努力)だ。不足を感じるということは、次にもう少しいいものが作れるかもしれない。...と、自分に言い聞かせてばかりの一日である。

ふと作品の左耳の上に、鳥の羽がのっているのに気づく。他のことをスッカリ忘れて眺めてしまう。こういう瞬間のことが、意外といつまでも残るものだ。

4月6日
午前中に作品を送り出すことができた。最後に完成写真を撮ろうと思っていたが、その余裕はやはりなかった。福岡から国展への出品作をまとめてコンテナで送ることに。福岡教育大の千本木先生が、トラックをこちらまで回して下さった。本当にありがたいことだ。

育児休暇があけてからの半年。もう何年もたった気がするのは、時間は「変化の量」だからだろう。振り返ってみると、思った以上に多くの人に助けられている。木槌を振るったのは私だが、私1人で作ったのではないと改めて思う。「みなさん、どうもありがとうございます」素直にそう感じている。

4月18日
「じいちゃんとうま」という本を職場の方からプレゼントしていただいた。どの絵も馬が力強く生き生きとしている。この作家が馬を愛していることが伝わってくる。動物と労働を共有することは、どれほど人間の心をあたためてきたことだろう。羨望するしかない。

依頼されていた胸像作りもぼちぼち始めたところだ。今週末、国画会(国展)の陳列作業が東京都美術館で行われる。1才と4才の子連れ出張である。乳幼児育児中の女性彫刻家がいたら、どうやって仕事と家事育児をさばいているかお聞きしたいものである。

4月25日
子連れ東京出張も無事おわりホッとしている。ありがたいことに国画会新人賞を受賞し、さらに準会員に推挙していただいた。実はこの制作で自分がどれほど木彫というものをわかっていないか、が身に染みていた。そのことにやっと気づけたから受賞したのかもしれない。(仕事中保育園にいてくれた子供たち、夫や母のサポートの賜である。)育休中彫刻をやめようかという気持ちもあったが、もう少し続けなければいけないと思った。

国展関係の時は必ず根津の澤の屋旅館に宿泊することにしている。この町と澤さんご一家のあたたかさは何ともいえない。疲れがスーッととれる。根津神社一帯の落ち着き、花で彩られた通り。つい歩きたくなる町である。

出張中岩井俊雄&ロカちゃん展『いわいさんちへようこそ!』を拝観した。岩井さんように手作り感をハイテク作品内に表現できる作家はいない。ご家族の愛情深さがファッとひろがる展示会場である。感情の堆肥が染みた「家族」という感覚を、社会にもちこんでくださった貢献は大きい。去年の秋にご家族を実家の英彦山にご案内したことがあった。子供たちが仲良くなり、本でも紹介されている「ペンギンさん通信」に少し参加させていただいた。

5月8日
5/7(日)に搬出のため東京へ日帰り出張。GW最後の日で、朝7時から普通に混雑している空港にびっくりした。陳列の時は、外で待っている子供たちが気になって、ゆっくり会場を観る余裕がなかった。

雨の中、コンテナに作品を積み込む。デジタル化の時代に、彫刻はやはり現実世界の物質だ。ひたすら重い。人の手のありがたさが身に染みる。彫刻仲間と久々に「彫刻」についてじっくり話せた。何かホッとするものがあった。

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