寒立馬との出会い(彫刻制作のための取材)>Buck

2006年 知足院美加子

彫刻制作日記12月(2005)/バリ滞在記/1月(2006)/2月/寒立馬取材/3月

寒立馬(かんだちめ)は青森県下北半島東通村に生きる野生馬である。過酷な寒さと粗食に耐えるこの馬は南部馬を祖とし、軍用馬から農耕馬、食用馬という歴史を経る。そして平成7年、絶滅の危機に瀕した寒立馬を救おうという動きがおこった。平成14年に天然記念物に指定され、現在東通村の人々に愛されている。

寒立馬と人間の歴史は、そのまま自然と人間の歴史を示唆しているように感じる。

実際に寒立馬に出会う。(2006年2月)それは言葉にできないほどの感動だった。顔をすりよせる馬を抱きしめた感触が忘れられない。人間のコントロールの外にいるこの馬は、迎合せず恐れない。雪も吹き飛ばす冷たい海風の中、静かに立っている。その静けさは、こちらの命をひたすら肯定してくれているようだ。

そのようないきものに触れることが、これほど心を揺さぶるのかと自分でも驚く。

12〜3月まで寒立馬はアタカというところにいる。この時期、ほとんどの馬は妊娠しているそうだ。お腹の中で寒さから赤ちゃんを守っているのだ。春には尻屋崎灯台付近に移動し出産する。子がいる母馬は警戒心が強くなる。また夏はアブに苛立つという。(馬は背後に回り込まれると蹴ることがあるので注意しなくてはならない)冬の季節だったからこそ、あのように不思議なあたたかさで接してくれたのかもしれない。

東通村役場観光課/宮本憲明氏撮影

天然記念物に指定される以前(平成8年)一度売却された5頭の寒立馬が、東通村役場によって買い戻されたことがある。妊娠中ということで食用を免れた母馬(最長老の白馬。近年死亡)もその中にいた。馬たちが群れに帰ってきたとき、双方が呼び合うようにいななき続けたという。そばにいる人間にも、その心が伝わってきたそうだ。(観光課/宮本憲明氏談)
寒立馬がいるこの海岸は滋養に富んでいる。古い地層が隆起して生じた大地には、非常に栄養価が高い天然の柴がはえている。これを食し、寒立馬は強靱な体を作り上げているそうだ。海岸には昆布や布海苔がびっしりで、海の豊かさを感じた。土や水に力があるから、ここの命は強いのだ。
東通村役場観光課(高畑さん、宮本さん)コスモクリエイトの氣仙さん、やまだいの大槻さんなど、たくさんの方々にお世話になりました。心より感謝申し上げます。

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