グリーンインフラは主に自然環境の「機能性」に注目するものだが、はたして「活用しようとする眼差し」のみで人間は能動的に動くことができるのだろうか。まず「心の動き」や文化的動機が必要ではないかという問いのもと、信仰とアートを切り口に本ミーティングを立ち上げるものである(→GIJ2024ホームページ)。
日本は古代より山川草木森羅万象に霊性を見出し、畏れ崇敬する心を培ってきた。初日の出に手を合わせるなど、私たちの遥拝対象は神社仏閣を含む「自然環境そのもの」であることが多い。日本の宗教観の根底には、「生きとし生けるもの全てに神仏を感得し、その大いなる関係性の中で生かされていることに感謝し、祈る」という素朴な自然信仰がある。神霊の依代としての巨岩や窟、滝、巨木は尊いものとされてきた。その中で草木の命、特に永い生命を保っている巨木への畏敬の念は「霊木思想」となる。何らかの理由で巨木が伐採される際、心が痛む人間が少なからずいることは、これらの感性が失われていない証左であろう。日本におけるグリーンインフラを考える上で、この草木への畏敬と信仰を踏まえることは重要である。
本ミーティング登壇者の二宮隆史氏は、鳥飼八幡宮の本殿拝殿の建て替えと、その間に使用した仮宮(遷宮後も常設使用)及び納骨施設の設計を行なった。磐座をイメージしたという 10 本の巨石と 4 つの茅壁の存在感は圧巻である。茅壁は、阿蘇地域の 4ha 分のススキを用いて葺いている。今後の遷宮は、この茅壁の葺き替えを行うことで常若を維持し、茅場の自然循環保全と茅葺の技術保存を行うという。
この茅壁制作を担ったのが、茅葺師の沖元太一氏である。彼は、茅葺の「豊かな量感」や「あたたかな質感」を家具に応用するなど、独創的な創造活動を展開している。葺き替えられた茅は肥料として土に還り循環する。沖元氏の重厚な手業は、人、技術、環境、文化をつなぐ茅葺の文化的意義を伝えてくれる。
島谷幸宏氏は、2020 年に「瀬」と「歴史的土木遺産」の再生を融合させた「八の字堰」がグッドデザイン賞を受賞している。彼が「グリーンインフラアート」という概念を提唱した人物である。
知足は彫刻家であり、英彦山修験者の子孫である。自然環境と身体的・精神的な人間存在をつなぐ修験のあり方に自然共生社会実現の糸口があると考えている。