フクロウを間近にみられるカフェに行ったことがある。印象的だったのは、フクロウたちのふっくらとした佇まいである。腕にのせると猛禽類の力強い爪にハッとするものの、彼らはただ静かに落ち着いている。内省しているようにも見える。夜行性なので昼間は眠いのだろう。メンフクロウの閉じた目が、針のように細い。
ピエタとは「哀れみ・敬虔・慈悲」を意味し、宗教美術的には死せるキリストを抱いて嘆き悲しむ聖母マリア像を指す。フクロウをユーモラスに表現しようと鋸を入れ始めたところで、私の兄が急死した。不幸というものは、後ろから唐突にやってくる。辛かったのは火葬場で慟哭する母の姿だった。肉親を失った悲しみに加え、同じ母親として我が子を失うことの痛みに思いを馳せた。その時心に浮かんだのがピエタ像である。木彫の上部のフクロウの顔の傾きを変更し、二羽が直角に交差するように構図を修正した。羽の表現は最後まで迷った。ヤスリをかけたり鑿を入れたりしながら羽の質感に近づけた。色も油絵の具で実物に近づけようと計画していたが、3種類の砥の粉の使い分けで最初のイメージに近づいたので良しとした。
2016年4月、熊本に震度7の地震が2回起こった(福岡でも震度5)。「福岡エルフの木」の支援先である福島の方々が真っ先に反応してくださり、彼らの要望もあって熊本震災支援に注力している(→ブログ)。その合間をぬって、この作品を仕上げることとなった。彫りながら「私にできることは結局これしかないのかな」と思った。役に立たないけれど、祈りを込めて彫るということ。慈悲という字は、悲しみを慈しむと書く。被災された方々の悲しみが癒える日まで祈りたい。