光と睡眠・生体リズム
私たちの脳には体内時計が存在しており、太陽光の明暗サイクルに同調するようにできています。これは、地球上で生きる多くの生物に共通です。しかし、蛍光灯の発明以来、私たちは明るい夜を過ごしており、それが体内時計や生体リズムに想定外の影響を及ぼしている可能性があります。利便性ばかりが注目されてきた夜の人工照明ですが、最近ではヒトの睡眠行動を妨げたり、生体リズムを夜型化させたり、肥満やがんリスクを高める危険性までもが報告されています。緯度や季節によってダイナミックに変化する自然光と、常に人間を照らし続ける人工照明に私たちは適応できているのでしょうか? 私たちは、光が健康や生体リズムにどのような影響を及ぼしているかを研究しています。
現在の研究テーマ
- 生体リズムの光反応特性の個体差とその要因に関する研究
- 子どもの光反応特性と睡眠に関する研究
- ヒト網膜のメラノプシン神経節細胞の機能評価に関する研究
- ヒトのメラノプシン遺伝子多型と光反応特性に関する研究
- 光の心理作用と生理作用の複合的な影響評価
これまでの主な研究成果
夜のパソコン作業の睡眠や生体リズムへの影響
- 夜間に明るい画面でパソコン作業を行うと、夜間に分泌されるメラトニンという
ホルモンの分泌が抑制されることを明らかにした。また、体温、心拍数、脳活動
の本来の夜間変動を妨げることも明らかにした。
Effects of VDT tasks with a bright display at night on melatonin, core temperature, heart rate, and sleepiness,J Appl Physiol,94(5): 1773-1776,2003.05. [PubMed] - 以上のパソコン作業を行った直後に眠ると、寝付きが遅くなり、睡眠構築(レム
睡眠量)にも影響を及ぼすことを明らかにした。
Effects of Playing a Computer Game Using a Bright Display on Pre-Sleep Physiological Variables, Sleep Latency, Slow Wave Sleep and REM Sleep,J Sleep Res,14(3): 267-273,2005.09. [PubMed]
光に対するヒト生体反応の季節変動
- メラトニンの分泌が夜の光曝露によって抑制されるという特徴を利用して、光反
応性の季節変動について調べた。その結果、日照時間の少ない冬季は光によるメ
ラトニンの分泌抑制が大きいことが明らかとなった。この結果は、少ない日照量
に対する生体の適応的な反応のひとつと考えられる。
Less exposure to daily ambient light in winter increases sensitivity of melatonin to light suppression,Chronobiol Int,24 (1), 31-43,2007.01. [PubMed]
光に対するヒト生体反応の民族差
- なぜヨーロッパの高緯度地域に生息地域を移したヒトは白い肌を獲得したのか?
その適応的な意義はよく知られているが、虹彩の色の適応的な意義はよく知られていなかった。本研究で、薄い虹彩を持つヨーロッパ系民族は、濃い虹彩をもつアジア系民族に比べて、メラトニンの光抑制を指標とした光反応性が高いことを明らかにした。薄い虹彩色は生体リズムの観点から適応的な形質だったかもしれない。
Influence of eye colors of Caucasians and Asians on suppression of nocturnal melatonin secretion by light,Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol,292, R2352-2356,2007.06. [PubMed]