東日本大震災の後、原発立入禁止区域内に残された牛の映像をみたことがある。牛達は人間側に向かって「なぜ?」と問いかけているような瞳をしていた。
2010年に牛の木彫を制作したこともあり、牛には関心を持ち続けていた。取材を通して、牛を飼育する人々の愛情や労苦を垣間みた。手間暇をかけた牛たちと別れ、故郷を後にした人々の辛苦に思いを馳せた。(→飯館村酪農家・長谷川健一氏の『現代農業』記事)
いつか帰ると信じて離れた人。いつか帰ってくると信じている牛、家、風景。その視線が交差するところにあるのは、様々な記憶と日々のリズムが染み込んだ「故郷」である。
この作品の素材は鉄の棒で、叩いて三次元的に曲げないと立体にならない。どの方向からみても整合性がないと形が破綻してしまうので、一本一本、神経を注いで制作した。
昨日と今日が繋がらないという亀裂を、私たちはどう生きればいいのであろう。帰るべき場所が過去ではなく「未来」にあることをイメージして、祈るように制作した。
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この作品は2012年に福島県浪江町にある「希望の牧場」に寄贈されました。3.11以後の1年半の軌跡が記された本があります。警戒区域内の生き物たちの現状と吉沢代表の思いが、針谷さん(APF通信、希望の牧場スタッフ)の鋭い写真と文章で綴られています。→針谷勉『原発一揆』 |
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