《彼岸フグの呼吸》 

 

 

 九州北部豪雨災害(2017年)から2年たちました。あの時の山林崩壊による流木被害は、森や水に対する意識を強く喚起しました。この彫刻は、樹齢132年の樟(くす)の流木から制作されています。同じ流木から《朝倉龍》、《福太郎童子》とこの作品の3つの彫刻が生まれたことになります。朝倉龍は、水の守り神として制作し、被災地の杷木小学校に設置されています。福太郎童子は、英彦山の山頂付近を守っているとされる童子神で、風や水の流れを表現しています。このフグの作品も、水に関連するものです。

 春に、壱岐という島(→観光案内)の筒城浜に子供達と釣りに行きました。レンタルの釣り具を垂れた途端、大きなフグがかかりました。彼岸の時期にだけ岸に近づくという「彼岸フグ」です。腹を下にして前をみつめ、荒い呼吸をする彼岸フグ。一瞬目があったように思いました。呼吸を続けるフグの姿がどうにも哀れになってしまい、釣りをやめ、近くの砂浜を散歩しました。人が一人もいない美しい砂浜。どこからか野良犬がやってきて、散歩に付き合ってくれました。海風と波音と足裏の砂を感じているうちに環境の方に自分が溶け込んでしまうような不思議な感覚を覚えました。永遠とは、こういう一瞬の中にあるのかもしれません。親切な宿のご主人がフグの調理ができる方で(→宝来荘)、その晩釣り上げた魚を唐揚げにしてくださいました。手を合わせて美味しくいただき、いまは、私の身体の一部となってくれています。

 「一度難をうけた木は、厄除けになる」と禅僧の枡野俊明先生からうかがいました。この彼岸フグと台座も災害流木から作っており、厄除け招福になることを願います。できれば鑑賞者には手で感触を味わっていただきたいです。あの散歩の時のように、少しだけ優しく、のんびりした気持ちを分かち合えたら幸いです。

 

 

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