彫刻作業日記   >Buck

彫刻は時間を必要とするものである。制作する間に出会ったことを自分で確認するために、内省をこめて記していきたい。

4月24日
 かねがね象を創ってみたいと思っていた。2006年1月にインドネシアで象に乗ってから、岩のような背中の質感が強烈にこびりついている。しかし材料費と置き場所を考えると二の足を踏んでいた。今回はありがたくも「九州大学-産後の女性のための助成金」から材料費を出して頂いた。またエミール保育園というところが制作後の作品を受け入れてくださるので思い切って創れそうだ。私の大型作品の制作は、大学工房の利用者が少なくなる冬場と決まっていた。しかし助成金の関係から9月に完成したいので、学生の制作の片隅で細々創るしかない。形としての固まり感もあるが、子供が象の背中にあがれたら、という気持ちで構想を練っている。(彫刻的視点とは違うので怒られそうだが)

 今、田中優・著「世界から貧しさをなくす30の方法」(合同出版)という本を読んでいる。(カカオ畑の児童労働の問題など)青年海外協力隊時代の体験から言葉が身体に染みる。日本人の意識の変化を世界は渇望している。知らないということが引き起こす残酷さを思う。クリエイティブな業界に真に求められているものは、世界の新しいシステム作りなのかもしれない。同じ著者が執筆した「戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方-エコとピースのオルタナティブ」(合同出版)は学生達に読んでほしい本である。

4月27日
 材木店(銘建産業)に頼んでおいた樟をみにいく。元(もと)は径90cmもあり驚く。いつも不思議なのは、考えていた形と素材の形がピッタリ合うのである。予知能力があるわけではないので説明つかないのだが、大木に関わると「樹の意志」があるとしか考えられない時がある。もうひとつ不思議だったのは、私が何も言っていないのに子供(5才)が象(本人談)の絵を描きだしたことだった。私が考えている形と似ているような気がする。この世に存在しているものは深いところでは一緒なのではないかと、些末な事例から感じたのだった。

 今回は素材を三つに分け、両端の部分を繋ぐ。真ん中の部分は次の作品にするつもりである。デッサンと実際の樟の寸法を計算しながら、何度もチョークで印をつける。エンジンチェーンソーをお借りして、思い切って切る位置を決めた。

5月15日
 5月前半の経験。長崎の材木店(中島木材tel:095-839-5058)に樟材をみにいく。木彫関係者はその安さに驚くだろう。関東地方の1/3の値段だ。少し足をのばし天草の野生のイルカをみにいく。その命が生きていける環境があること自体が嬉しい。こどもたちはイルカワールドでイルカにキスされたり握手したりで大喜びだ。

 連休途中で国展の陳列作業がある。今年から六本木の国立新美術館だ。館サイドは作品より建物が大事なので(笑)重量物の移動に気を遣う。翌日、東村山の国立ハンセン病資料館に行く。療養所多磨全生園内の樹木は大きかった。樹が眺めてきたものに思いを馳せた。その足で安積遊歩さん宅を訪問。7月に主人のNPOエスタスカーサで講演していただく運びとなった。→講演会詳細HP ゴールデンウィーク後半は英彦山へ。雨をものともせず、連日サワガニ探しである。

 連休の疲れがなかなかとれず翌週は身体が重い。週末作品の搬出となり、家族で思い切って東京へ。千葉の「市原象の国」に行く。園内を象が歩き、キリンなど様々な動物にエサをあげることができる。今度の作品のために私は必死だ。象の耳の後ろや腹の下などを観察し、あきらかに他のお客さんからは浮いていた。動物好きの子どもたちは興奮していた。子どもたちとの旅は手がかかるが、彼らの眼差しの暖かさにずいぶん救われていたのだと改めて感じる。(一人で出張してみて)思い通りに使える時間のわびしさを思い出したからだ。

天草のイルカ 中島木材
国立ハンセン病資料館 市原象の国

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