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障害を有する人との映画制作プロジェクト part02  ーキックオフレポートー       

2022年12月に始まった『障害を有する人との映画制作プロジェクトpart 01』では、福岡で活躍する高村剛志監督(代表作:ショートショートフィルムフェスティバル2023ノミネート『Scabiosa』)と知的障害を有する古川加恵さんのタッグで、古川さんの小さい頃の記憶を題材に映画制作を行いました。この映画は2023年6月に完成予定です。

本プロジェクトのヴィジョンは、映画とその制作プロセスを通して起こったことを社会に向けてメッセージ(映画上映・研究・シンポジウム・ワークショップ)として発信することです。
障害を有する人との映画制作プロジェクトpart 01の振り返りの中で、メンバー全員が「障害とは何か」「知的障害者とは何か」「自己表現とは何か」「映画とは何か」について深く理解をする必要があり、そのためには最低でも1年程度、敢えて明確な期間のゴールは設けず時間をかけて知的障害者と共に体験を共有する必要がある、という結論に至りました。

そのため、第二弾となるpart02では、知的障害者とメンバーでのワークショップを複数回密に行い、その中で得られたことを映画制作のベースにすることにしました。
2023年6月9日(金)・10日(土)の2日間でキックオフミーティングや施設見学を下記のとおり実施しました。
来月は、瀬々敬久監督による知的障害を有する人とのカメラや映写機・フィルムを使ったワークショップを行います。ワークショップの様子は、改めてご報告いたします。

※知的障害を有する方の写真については、本人及び保護者、福祉事業所理事長、施設長の許可を得て掲載しております。



障害を有する人との映画制作プロジェクト part02  ーキックオフレポート詳細ー


障害を有する人との映画制作part02 メンバー(敬称略)
▪映画監督 瀬々 敬久
 代表作:『護られなかった者たちへ』『ラーゲリより愛を込めて』『春に散る』等
▪脚本家 港 岳彦
 代表作:『MOTHER』『あゝ、荒野』『アナログ』『正欲』等
▪映画監督・博士課程大学院生 石田 智哉
 代表作:『へんしんっ!』監督・企画
▪障害歯科学会理事・JOY明日への息吹理事 緒方 克也
▪九州大学グローバルイノベーションセンター准教授 早渕 百合子(環境教育、環境心理)
▪九州大学大学院芸術工学研究院准教授 高取 千佳(都市計画)
▪九州大学大学院芸術工学研究院助教 工藤 真生(ピクトグラム&サイン計画デザイン、障害学)
▪撮影:芸術工学府メディアデザインコース修士2年 星野 純平


プログラム
▪2023年6月9日(金)
 14:30-16:30 障害者生活就労支援施設 社会法人野の花学園 なのみ学園 見学
▪2023年6月10日(土)
 10:00-12:30 障害福祉サービス 就労継続支援B型事業
        社会福祉法人 JOY明日への息吹 アトリエブラボォ(絵画)見学
        古川加恵さんと瀬々監督、港先生の対談
 13:30-15:30 キックオフミーティング(九州大学大橋キャンパス×オンライン ハイブリッド開催)


詳細レポート
2023年6月9日(金)
◉社会福祉法人野の花学園 なのみ学園 見学
なのみ学園では、知的障害を有する人がどのような内容を『仕事』としているのか、その様子を見学しました。
本学園には、就労継続支援B型42名、自立訓練(生活)12名、就労移行支援6名の実施事業があります(人数は定員)。障害福祉サービス体系による、従事内容の違い、利用者の障害の程度、年齢の違いなどを見学しました。見学中は、ご案内頂いたなのみ学園施設長永島千恵様はじめ職員の方へ、たくさんの質問が飛び交いました。

2023年6月10日(土)
◉JOY明日への息吹 アトリエブラボォ(絵画)見学
JOY明日への息吹 アトリエブラボォでは,知的障害・自閉スペクトラム症を有する人が、絵画制作を『仕事』としています。1人ひとりの絵を見ながら、対話をしました。

◉古川さんとの対談
『障害を有する人との映画制作プロジェクトpart 01』で初めて映画制作に取り組んだ古川加恵さんと、瀬々監督、港先生の対談。映画制作はどうだったか、何が一番大変だったのかなど質問の後、急に古川さんに「好きに撮ってみて」とスマホを渡す瀬々監督。古川さんは窓の外の葉っぱを1分ほど撮影しました。撮影後、瀬々監督から古川さんに「何をズームしたの?」「どうだった?」などの質問攻め。瀬々監督も、自分でスマホで撮影した映像を古川さんに見せて感想を聞いたりしながら、対話を重ねました。

◉キックオフミーティング
キックオフミーティングでは、オンラインで石田監督も参加しました。
このプロジェクトのミッションとヴィジョンを共有すると共に、以下3点をテーマにフリートークを行い、それぞれのメンバーの思いを共有しました。
 ① 障害者施設見学の印象
 ② 本プロジェクト参画のモチベーションは何か? 興味の対象は?
 ③ 知的障害・障害について、幼少期、小学校、中学校、高校、大学、社会に出てからどのように考えていたか

「言葉だけでないところでどのような表現ができるか」
「知的障害者の心理を紐解いていきたい」
「価値観が変えさせられる気がする」
「知的障害者は劇映画をどのように楽しんでいるのか」
など、意見やこのプロジェクトへの思い、疑問が多く挙げられました。

③ ”障害をどのように考えていたか”については、石田監督より「移動」と「障害」の関係について話題が挙がりました。石田監督自身、中学1年生の頃に電動車椅子で自分が行きたいところに行けるようになったことが自身の障害を捉える変化として大きかったこと、移動ができることでやりたいことが出てきた、やりたいことへの関わり方も変わっていったとのことでした。主体性、意思決定が個人史におけるアイデンティティ形成に重大な役割を与えることを感じました。
昨年9月、国連の『障害者の権利に関する条約』の審査結果の1つでも指摘があった通り、父権主義的なアプローチ(障害を有する人に代わって意思決定する)ではなく、このプロジェクトも、あくまで障害を有する人が主体であるということ、また、障害を有する人の自律性、意思、好みを尊重するプロセスと人的環境づくりを大事にしていこうと改めて思ったところでした。

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