2025年12月11日(木)に、「SDGs Design International Awards 2025」 受賞者発表および授賞式を開催しました。46の国と地域から計430点の応募作品が寄せられ、サステナブルデザインの国際的な議論の場を大きく広げました。
SDGs Design International Awards2025について
「対立の時代を共に生きる 『 境界を越える社会デザイン』」を議論するグローバルな場を創出する。
「SDGs Design International Awards 2025」は、九州大学、東西大学(韓国)、同済大学(中国)がの3大学が中心となり、今年度のテーマ「対立の時代をともに生きる『境界を越える社会デザイン』」をテーマに掲げ開催しました。
本アワードは、東西大学校RISE(Responsible Design for Environment and Empowerment)の支援も受け、地域・産業・教育をつなぎながら、グローバルなデザイン力を育成する代表的な取り組みとして、確固たる地位を築いています。
今年度は 「平和のためのデザイン」、「周縁の声とともにデザインする」「仮想と現実のあいだに生きる」の3分野に焦点を当て、ビジュアル、環境、ファッション、プロダクト、建築、都市計画、工学、社会など、多様な領域から社会課題の解決を目指す創造的なアイデアが多数寄せられました。
46の国と地域から430作品が応募され、国際アワードとしての地位をさらに強化
2025年10月1日から31日までの応募期間中、46の国と地域、99大学、15高校から、計430点の応募作品が寄せられました。これにより、本アワードが国際的なデザインアワードとして確かな評価を得ていることが改めて示されました。
特に今年は、戦争や気候危機、社会的分断といった世界的な課題を、デザインの視点から再解釈した作品が多く見られ、審査員から高い関心が寄せられました 。
予備審査・一次審査・最終審査の3段階による選考
応募作品は、2025年11月に、予備審査・一次審査・最終審査の3段階からなる審査プロセスを経て、受賞作品が選出されました。審査には国内外のデザイン専門家が参加し、創造性、社会的価値、実現可能性、デザインの完成度などの観点から、総合的な評価が行われました。
「境界を越えて持続可能な未来を共に考える場に」
今年のアワードは、対立の時代において、私たちがどのように共生していくのか、そしてデザインを通じてどのような社会的オルタナティブを提示できるのかを深く考える、意義深い機会となりました。今後も、SDGsの目標達成に向け、国際的なクリエイティブ人材が継続的に協働できるプラットフォームとしての発展を目指していきます。
以下、受賞作品を紹介します。
結果発表
■金賞
「 Link-it:ピア・パートナーシップによる、持続的な自立の促進」
Minseo Kim, Seojung Park (University Of Ulsan, 韓国)

Link-itは、児童養護施設などの制度的ケアを受けて育ち、18歳で支援から離れる若者(ケアリーバー)が直面する、構造的かつ不安定な状況に向き合うソーシャルデザインプロジェクトである。本プロジェクトは、「周縁化された声と協働するソーシャルデザイン」というテーマに基づいて展開されている。
ケアリーバーは、18歳を迎えた瞬間に、経済的支援だけでなく、人間関係による支援ネットワークも突然失うという、極めて脆弱な立場に置かれる。Link-itは、こうした従来の一時的・断片的な支援モデルを根本から見直し、継続的な関係性に基づく支援フレームワークの構築を提案する。
本プロジェクトの中心的な革新性は、ピア・メンタリング・システムの導入にある。自立したケアリーバーを選抜・育成し、信頼できるガイドとして活動してもらうことで、当事者としての経験を専門性として活用し、深い信頼関係に基づく支援を可能にしている。これは、従来のメンターでは容易に代替できないという点で、極めて重要である。
このシステムを支えるのが、専用のデジタルプラットフォーム「Link Channel」だ。賃貸契約や金銭管理など、判断ミスが大きな影響を及ぼす重要な局面において、リアルタイムで相談できる安全かつ信頼性の高いライフラインを提供し、リスクの最小化を図る。
Link-itは、制度によって生み出されてきた脆弱性を、持続可能な個人のレジリエンスへと転換し、社会的分断を越えた、長期的で信頼に基づくアライシップの構築を目指す。構造化されながらも共感に根ざしたガイダンスを通じて、ケアリーバー一人ひとりが、自らの安定した未来を主体的に切り拓く存在となることを支援する。
■銀賞
「Order」
Bitna Tak, Sinji Joung, Minsu Kim (Sejong University, 韓国)

Orderは、社会的孤立やデジタル格差に直面する高齢者を支援するために設計された、ウェアラブル型コミュニケーションデバイスである。デジタルデバイドを解消し、人と人とのつながりを強化することで、高齢者がデジタル公共サービスに自信をもってアクセスし、日常生活により主体的に参加できるよう支援することを目的としている。
ブローチ型スマートカメラによってキオスクや印刷物の情報を即座に読み取り、AIを搭載した補聴デバイスを通じて、明瞭でリアルタイムな音声ガイダンスとして利用者に提供する。特に、難聴のある高齢者やデジタルリテラシーが低い利用者にとって、混乱や他者への依存を大きく軽減する点が特徴である。本デバイスの革新性は、音声を中心としたインターフェースにあり、デジタル操作の複雑さを、人との会話に近い「尋ねて、聞く」という直感的な体験へと変換する、自然なコミュニケーションの流れから着想を得ている。
Orderは人間中心デザインに基づいた設計により、高齢者の自律性の回復、孤独感の軽減、社会参加への意欲の向上に寄与する。リアルタイムのデジタル情報を音声でわかりやすく伝えることで、オンライン・オフライン双方におけるコミュニケーションを支援し、高齢者が場所を問わず、より自立して行動できる環境を実現する。さらに、高齢化社会における高齢者の社会的孤立の解消やSDGsの達成にも貢献する、拡張性と包摂性を備えたデジタル適応モデルを提示している。
■銅賞
「ガラスの中の季節:生涯のウェルビーイングのための、誰にでもやさしい室内ガーデニング」
Yuanzi Wu (Pratt Institute, アメリカ) 

本プロジェクトは、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」および SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献することを目的とし、ニューヨーク州ハドソンに暮らす高齢者や身体的に制約のある住民を対象に、身体的健康、精神的な明晰さ、そして社会とのつながりを促進する、インクルーシブな屋内ガーデニングシステムを提案する。ハドソン州では、3か月以上に及ぶ長く厳しい冬が屋外活動を制限し、高齢者の社会的孤立を深刻化させている。本プロジェクトは、アクセス可能な屋内活動空間が不足しているという課題に対し、十分に活用されていない地域の共有スペースを、年間を通して利用可能な治療的庭園と転換することで、その解決を目指す。
この庭園には、高さ調整可能(24〜36インチ)の高床式プランターを設置し、車いす利用者を含む、移動やバランスに制約のある人々でも無理なく参加できる環境を整えている。さらに、アロマセラピー、感覚を刺激する植栽、健康的な食生活をテーマにした共同活動を組み合わせることで、視覚・嗅覚・触覚・味覚を刺激する多感覚的な体験を提供する。この庭園は、単なる身体活動の場にとどまらず、住民同士が経験を共有し、緑に囲まれながら対面で交流し、自然を通じて再びつながることのできるコミュニティの中心的な場となる。
アクセシビリティ、モジュール設計、感覚的ウェルビーイングを統合することで、本プロジェクトは、エイジング・イン・プレイス(住み慣れた地域で年を重ねること)およびコミュニティのレジリエンスを支える、革新的かつ包括的なアプローチを提示し、あらゆる世代の健康を支える建築・環境のあり方を再定義する。
■名誉賞
「 共に歩むための『見える道』を備えた都市 ― City Togetrun 」
Seong Ju Eun(DongseoUniversity, 韓国)

視覚障がい者や下肢に障がいのある方が、公共交通機関の利用や、移動や旅行をより円滑に行うためには、聴覚・触覚によるユーザーガイダンスや、周囲に視覚障がいのある利用者がいることを周知する仕組みが有効である。本取り組みは、ユーザーによるスポンサーシップを活用し、必要とする人々への提供を想定している。これにより、これまで一人での移動や旅行が困難であった視覚障がい者に対し、自由に移動できる新たな選択肢を提供することを目指す。
また、視覚障がい者を取り巻く社会的認識の変化を促すとと同時に、コスト削減との両立を可能にするシステム構造の構築にも取り組んでいる。
本プロジェクトを含む全37チームが、創造性の高さ、テーマとの適合性、ならびに社会的価値の実現可能性の観点から評価され、奨励賞を受賞しました。
受賞の詳細はこちらから https://uni.dongseo.ac.kr/adcf/index.php?pCode=MN8000043&mode=view&idx=1056
■高校生特別賞
「 MindBridge :10代の心に寄り添うバーチャルフレンド 」
WenfanSha, ZiHanQi (Beijing Navigation School, 中国)

MindBridgeの役割は、多くの10代の若者が日々、特に夕暮れ時に感じる漠然とした不安や焦りを緩和することである。こうした感情は、終わっていない宿題へのプレッシャーや、大変で長かった一日の疲れなど、さまざまな要因によって生じる。私たちは特に、感情的なニーズが見過ごされがちな、思春期の若者を対象としている。
本プロダクトの特徴は、環境に配慮した3Dプリント技術によって製作される、ユニークでカスタマイズ可能なシェルにある。ユーザーは自分の感性や気分に合ったデザインへと自由に変えることができ、MindBridgeは単なるデバイスにとどまらず、個性を映し出す持続可能なパートナーとして機能する。
本プロジェクトの核心的な革新性は、これまで見過ごされてきた二つの重要な領域にあると考えている。 一つ目は、10代の若者は決して一括りにできる存在ではなく、それぞれ異なる感情や学習状況を抱えており、個々に適応するパーソナライズドAIサービスを必要としており、また享受すべきである点だ。 二つ目は、これまでほとんど注目されてこなかった、時間帯によって引き起こされる情緒的な低調期、すなわち「サンセット・アングザイエティ(夕暮れ時特有の不安感)」という感情に着目した点だ。
私たちはMindBridgeを通して、こうして見過ごされてきたギャップを埋めることを目指し、テクノロジーが思春期の若者のメンタルウェルビーイングに対して、いかに思慮深く寄り添うことができるのかを示す。
高校生部門では、4チームが「高校生特別賞」を受賞しました。
これは、SDGsに基づくデザイン教育の拡張性と、次世代を担う若者たちの社会課題解決能力が高く評価された結果です。
https://uni.dongseo.ac.kr/adcf/index.php?pCode=MN8000043&mode=view&idx=1056

