
芸術工学研究院 結城円准教授およびAriane Beyn講師の研究成果の一環として、ゼミソン・ダリル氏による作品展示を行います。
会場:九州大学箱崎サテライト 地蔵の森周辺
日時:2026年5月16日(土)・17日(日)、23日(土)・24日(日)10:00–16:00
対象:一般公開
助成:科学研究費助成事業 基盤研究(C)「大学博物館におけるアート・インターベンションに関する理論調査と展示実践」(課題番号:24K03582 / 研究代表者:結城円 九州大学)、公益財団法人隈科学技術・文化振興会 2025年度文化芸術分野活動助成AB「博物館・自然・現代美術―知の再編とその可視化 」
本研究は、自然科学分野のアプローチが中心であった大学博物館に、美術史・芸術学の視点を持ち込み、「アート・インターベンション(芸術の介入)」という展示実践を通して、博物館を活性化する方法を学際的に探究するものです。
ゼミソン氏の作品は、人間の経験や記憶、都市およびテクノロジーの変化、環境条件といった要素を織り込みながら、特定の場所を出発点とする作曲およびサウンド・インスタレーションとして展開されています。能や詩といった日本の伝統芸術、さらにはサイコジオグラフィーや、ジョン・ケージの「沈黙」の概念などを参照しています。
本作は、「福岡ミュージアムウィーク2026」期間中に、九州大学箱崎サテライトの「地蔵の森」の中に敷かれた砂利の流れに沿って歩く体験として展開されます。現在再開発が進められている九州大学の歴史的キャンパス保存地区内やその周辺で録音されたサウンドがスピーカーから流れ、飛行機、工事、風、鳥のさえずりといった周囲の環境音と交錯します。
作品では、地蔵の森の中を流れる川を想定し、三つの領域に区分しスピーカーを配置しています。「上流ゾーン」では、庭園や旧キャンパスに残る松林で収録された鳥の声や、博物館の特徴的な塔屋からの環境音が用いられています。「下流ゾーン」では、水に関連する音として、館内で飼育されている水生昆虫の音や、博物館所蔵の蓄音機によって再生されたクロード・ドビュッシー《海》(1905年)の歪められた断片が響きます(同作品は葛飾北斎《神奈川沖浪裏》から着想を得たともされる)。「海洋ゾーン」では、箱崎海岸で異なる気象条件のもと録音された音や、海抜と同じ高さに位置する博物館地下の音が用いられ、工業化に伴う度重なる埋め立て以前、この場所が海に近接していた記憶を喚起します。
博物館が入っている建物自体もまた、この変化を体現しています。もとは九州帝国大学工学部本館として1930年に建設され、当時の農村的な沿岸景観に大きな変化をもたらしたこの建物は、その後も現在に至るまで続く近代化の過程を象徴しています。
こうした歴史的・場所的な層は作品に織り込まれていますが、その体験は明確な引用に留まるものではありません。静寂とノイズを含む多様な音が予測不可能な環境と相互作用しながら、鑑賞者の移動とともに展開していく、精緻に構成された音響の交錯として現れます。
ゼミソン・ダリル(1980年、カナダ・ノバスコシア州ハリファックス生まれ)
作曲家、愛知県立芸術大学作曲専攻・客員教授および立命館大学研究員。ウィルフリッド・ローリエ大学でグレン・ブーアおよびリンダ・キャトリン・スミスに師事し、その後イギリスでダイアナ・バレルおよびニコラ・ルフェニュに学んだ。2006年より日本を拠点とし、来日当初は近藤譲に師事。2020〜2025年まで九州大学大学院芸術工学研究院助教。
彼のサウンド・インスタレーションは東京、レイキャヴィーク、ロンドンなどで発表され、コンサート作品も国際的に演奏されている。代表作の一つである音楽劇三部作《ヴァニタス・シリーズ》は、2018年に一柳慧コンテンポラリー賞を受賞した。
2013年には「工房・寂」を設立。2026年には、4枚組アルバム『Descants』を同レーベルより発表している。研究者としては、20世紀日本哲学の美学や現代音楽とスピリチュアリティについて執筆しており、初の単著『Experimental Music and Japanese Aesthetics: Silence, Nature, and Hollow Listening』は2026年9月にブルームズベリー社(ロンドン)より刊行予定である。

